第五十七話:たき火と旅人
「お姉ちゃん、今から何するの? その大きなビニール袋は何?」
「この辺りにある落ち葉を集めるのよ。マオも手伝って。この袋の中に入れてね」
「うん、分かったけど、落ち葉で何するの? この辺をきれいにしたいの?」
「ちがうわ。ここは森の中よ。きれいにしたってキリがないわ。後のお楽しみよ」
「えー、教えてよー」
「まあまあ、いいからいいから。早くしないとお昼になっちゃうわよ」
「もー」
「集めたよー」
「お疲れさま。袋がいっぱいになったわね。わたしが集めたのも合わせたら十分ね。さあ、行くわよ」
「行くって、どこへ?」
「火をおこしても大丈夫な場所」
「さっきまで森だったのに、今は何にもないね」
「ここは岩だらけのところだけど、立派な砂漠よ。さて、ここなら燃え移るものがないわ。たき火をおこすわよ」
「たき火? 今から? あたし、お腹空いてきたんだけど」
「だからこそよ。…………これはサツマイモ。これをアルミホイルで包むの。わたしは火をおこしてるから、マオはこっちを頼むわ」
「えっ、これってもしかして……」
「そう。焼き芋よ。あなた、やりたいって言ってたでしょ。たまたま仕事先の人からもらったから、やってみようかと思って」
「やったー! ようやく焼き芋ができる! おいしいんだよね?」
「ええ、おいしいらしいわ。飛び跳ねるほどうれしいのは分かったから、アルミホイルで包んで」
「はーい!」
「もうすぐ食べられるかな」
「たき火に入れてから三分しか経ってないから無理よ。もう少し待ってて」
「お腹がぺったんこになっちゃうよ」
「イモはたくさんあるから、後でいっぱい食べなさい。あら……?」
「あ、向こうから車が来たね。……あ、目の前で停まった」
「やあやあ、こんにちは。寒い日だね。たき火してるのか。僕も温まっていいかな」
「ええ、もちろん。どうぞ」
「ありがとう。……ふう、温まるなぁ。君たちは旅人かい? 若いのに大変だね」
「まあ、色々ありますけど、この子と一緒だったら楽しいです。ねえ、マオ?」
「ん? 何? 聞いてなかった」
「マオったら、たき火の中ばかり見て。そんなに焼き芋が楽しみなのね」
「ほう、焼き芋をしているのか。いいねぇ。僕も子どものころはやっていたよ」
「良かったらあなたもどうですか。サツマイモはたくさんあるので」
「本当かい? それなら、お言葉に甘えようかな。ちょうどお腹空いていたんだ」
「マオもいい? このおじさんにイモをあげても」
「…………」
「マオ?」
「仕方ない。ご飯はみんなで食べたほうがおいしいんでしょ?」
「ははは、その通りだよマオちゃん。イモを分けてくれるなんてえらい子だ。あ、そうだ…………。ちょうどジャガイモがあるんだ。これも一緒に焼こう。マオちゃんとお姉さんも食べていいよ」
「やったー!」
「あ、わたしはロボットなので。二人で食べてください」
「え、そうだったのか。いやー、最近のロボットは本当に人と見分けがつかないね」
「……おいしい! お姉ちゃん、おいしいよ!」
「それは良かったわ」
「そうだね。ホクホクで甘くておいしい。僕もこんなのを食べたのは久しぶりだ。今日は幸せな日だ」
「ありがとうございます。……あ、もうすぐジャガイモも食べられそうですね。マオにあげてもいいですか」
「もちろん! 食べ盛りなんだからどんどん食べてくれ」
「マオ、それを食べ終わったらジャガイモもあるわ。おじさんに、ありがとうって言ってね」
「うん、分かった。ありがとうございます」
「いいよいいよ。熱いうちに食べて」
「……お姉ちゃん、おいしいね。あっという間になくなっちゃう……。あ……、向こうからまた車が。しかもこっちに来てる」
「本当ね。今日はにぎやかな日だわ。あの人たちにも焼き芋分けてもいい?」
「あたしの分、ちゃんと残してね……」
「どうもどうも。あなたたちは旅人かい? 俺たちも旅をしていてね。たき火にあたってもいいかな」
「ええ、どうぞ。わたしがもらった焼き芋もあるんです。良かったらいかがですか」
五十八話をお楽しみに。




