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第五十六話:ある痩せた男の話

 岩だらけの山道を走っていると、レッカーは道の隅で停車している車を見つけた。その横には人が立っていて、こちらへ手を振っている。

〈どうするユキ、あの人助けるか?〉

「後でなにかお礼をもらえるかもしれないし、停まってあげましょう」

 わずかに微笑んだユキは、その車のすぐ後ろにレッカーをつけた。

「なにかありましたか?」

 ユキが降りてその人に声をかける。

「ああ、助かったよ。山道を登っていたらガス欠になってしまって……。良かったら少しでいいから分けてくれないか」

 とても痩せた男だ。肌は浅黒くて荒れているが、顔つきはまだ若者だ。

「ええ、いいでしょう。ただ、わたしも財布の中身には余裕がないので……」

 ユキは男の表情をうかがう。

「ああ、もちろんお礼はするさ。ちょっと待っててな」

 そう言うと、男は荷物がたくさんある後部座席からなにかを持ってきてユキに渡した。

「これは……?」

 ユキは尋ねる。

「近くの村で……じゃなくて、知人からいただいた小刀だよ。遺跡から発掘されたものらしくて、かなりの値打ちものだ」

 男は少し慌てたように言った。

「そうですか。分かりました。もらっておきます」


 男の車が動けるようになると、


「ありがとう。本当に助かった。この山道の先にある村へ行くところだったんだ。なんとお礼を言っていいか……」

「いえ、気にしないでください。わたしもちょうどその村へ寄る予定です。食料を分けてほしくて」

「え、あ、そ、そうか……。じゃあ、俺の車についてこい」

「はい、お供します」


 目当ての村へ着いた。しかし、

「……これは一体……」

 ユキは村を見渡した。辺りに人がたくさん倒れている。服装が似ているから、おそらくこの村の人たちだろう。

 彼女は彼らの脈を確かめた。心臓は動いていないし、息もしていない。

「あんた、知らなかったのか。昨日、隣村の住人が、この村の人全員が死んでいるのを発見したそうだ。この村で行われていた祭りで出された食材に毒性のあるものが混じっていたようだ。もちろん警察には連絡したみたいだが、なんせとても山奥だから、ここへ到着するのは明日になるらしい」

 男は、倒れている人たちに祈るように目を閉じていた。

「そうでしたか……。これだけの数の人を弔うのは、わたしたちには難しそうですね」

「ああ、後はお役所に任せよう」


 そうして、ユキは村を去ることにした。マオから、「食べ物はもらわないの?」と聞かれたが、食中毒が起きた場所にある食料を彼女に食べさせたくないから、仕方なくあきらめた。

 男は、「もう少し祈っていくよ……」と悲しそうに言った。


 後日、男からもらった小刀を売るために業者へ見せたのだが、

「これ、一か月前に○○村から盗まれたものによく似てますね」

 警察へ持っていくと、それは盗まれたものに間違いないとのことだった。

 誤解を解いて警察署を出ると、

「あの男、色んなところから金になりそうなものを盗んでいるのかもね。あちこちで盗難騒ぎが起きていて、犯人がまだ分かってないんだって」

〈ああ、だからお前、ずいぶん時間かかったんだな〉

「ええ、似顔絵を描くってことで付き合わされたわ」


 少しばかり道を走ってから、

「あの男、きっとあの村で金品を漁っているのでしょうね……」

〈そりゃそうだろう。ユキ、もしかして男と村へ行った時に気づいてたんじゃないか? あいつが金目的で村へ行こうとしていたって〉

「なんとなく、ね。彼、まだラジオのニュースも言っていないことを知ってたから。誰かから話を聞いて、燃料が尽きそうになっているのを忘れるくらい必死になってすっ飛んでいったのよ、きっと」

〈どうして奴が必死だって言えるんだ?〉

「だって彼、とても痩せてたもの。食べるのにも苦労しているってことじゃない? 生きるのに必死なのよ」

〈じゃあ、あいつの行動を支持するのか?〉

「そうじゃないわ。強盗はいけないことだけど、そうするしかないっていう人もいるのねって気づかされただけ」

 ユキは、村のある方角をちらっと見ると、視線を正面に戻してアクセルをさらに踏んだ。

五十七話をお楽しみに

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