第五十二話:森のくまさん
秋の森の中をレッカーでトロトロと走って散策していると、向こうから七歳くらいの女の子がやってきて目の前に立ち止まりました。綺麗な白いワンピースを着ています。
「あたしのクマさんのいる病院知らない?」
運転席のすぐ下に来て、そんなことを尋ねました。
「知らないわ。ぬいぐるみ?」
ユキはドアを開け、外に降ります。
「違う。本物のクマ。まだ子どもなの。ずっと前から風邪を引いてたんだけど、パパが病院に連れていったって」
女の子は、自分のひざに手を当て、これくらいの高さのあるクマだと示しました。
「ごめんなさい。分からないわ。それに、こんな深い森の中じゃ、あなた一人では危ないわ。パパかママに付き添ってもらったら?」
ユキが優しく言うと、女の子は納得したようにうなづきました。
「家まで送ってあげる。どこにあるか教えて?」
女の子をレッカーに乗せて、自分も乗ります。
森の中に、山小屋が建っていました。どうやらそこが女の子の家のようです。家の前には、ひげを蓄えた屈強な男と、小熊がいます。
「あっ、チャッピー!」
女の子はレッカーから飛び下り、クマに抱きつきました。クマも嬉しそうに女の子のほっぺたを舐めます。
「今日、退院したんだ。パパが連れてきたんだぞ」
フフンと男は胸を張りました。
「ありがと、パパ!」
そう言って、女の子はクマを連れて森の中へ遊びに行きました。
「良いんですか、娘さんを行かせて」
女の子の姿が見えなくなったあと、ユキは男に尋ねます。
「ああ、大丈夫だ。あのクマの人工知能は優秀だから」
「……あのクマはロボットなのですか」
「そうだ。チャッピーは三日前に死んでしまってな。知人に頼んで、チャッピーと同じ姿のロボットをつくってもらったんだ」
良かったら休んでいかないか、という男の誘いを、ユキは断りました。
「あの子に、クマさんは死んだって教えてあげないの?」
レッカーで出発して少し経った後、マオはユキに尋ねます。
「ええ、言わないわ。あの子にとっては、あのロボットはチャッピーなのよ」
ユキは淡々と答えました。
「かわいそう」
マオは寂しそうな顔をして、窓の外を眺めます。
「これでいいの」
独り言のようにユキは言いました。
そして、舗装された道路に出ると、彼女はアクセルを強くふかしました。
五十三話をお楽しみに。




