第四十七話:とある話3/とある話4
『とある話3』
夜十時、レッカーの中で、ユキとマオが床につこうとしていた。
「お姉ちゃんってロボットなのになんで寝るの?」
座ってくつろいでいたユキに、ピタッと体を寄せて訊く。
「何を今さら。疲れるから休むのよ」
マオの肩を抱いてやりながら答える。
「ふうん、お姉ちゃんも疲れるんだ」
「驚かないで。わたしだって休まないと壊れちゃうでしょ」
「そうか」
やがてマオは、ユキの膝枕で眠りについた。
〈……で、本当の理由は何だ?〉
数分たったころ、レッカーはつぶやくように尋ねた。
「理由? さっき言ったわ」
〈いや、体を休めるだけだったら、わざわざスリープモードにして意識を落とす必要はないだろ?〉
「あなたも意識無くなるくせに……」
そう文句を言いながら、ユキは再び口を開く。
「暇だからよ」
〈暇だって?〉
「マオが朝起きるのをずっと待たなくちゃいけないのよ。さみ……暇でしょ」
〈すなおに寂しいって言えよ〉
「違うわよ」
ユキはそっぽを向き、寝る体勢をとった。
仕方なく、レッカーもエンジンを切って就寝の準備をする。
マオと同じ時を過ごす間に、ユキは何だか人間臭くなった気がする。数十年前に出会った時は、ただの人形のようだったのに。
ユキがどう変わっていくか楽しみだ。彼はゆっくりと意識を落としていった。
『とある話4』
郊外の荒野でマオの朝食をつくろうと、レッカーの荷台にある冷蔵庫を開けたユキは、この世の終わりを見たような顔をした。
〈どうした?〉レッカーが尋ねる。
「冷蔵庫につないであるバッテリーが切れて……中身が……全滅……」
ユキは、ヘタヘタと座りこんだ。顔から精気が抜けている。
〈備品管理の徹底は、旅をするうえで重要だぞ〉
レッカーのその言葉がとどめを刺したらしく、ユキのほっぺたを一筋の水滴が伝った。
「そう……だけど……」ユキはめそめそと泣きだす。
「どーしたの?」
その辺をうろちょろしていたマオが、お姉ちゃんの異変に気付いたようだ。
ユキが細々とした声で説明してやると、
「えー、ご飯ないのー!?」
マオは明らかにイヤそうな顔をする。
「ごめん……なさい……」
ユキはうなだれて詫びる。妹の食糧がなくなったことはもちろん残念だが、それと同じくらい、再び買いこむ経費がかかるのが悔しい。
「うー……」
マオは足元の石を軽く蹴りながら考えこむ。
一分ほどたった時、
「まあー、仕方ない。許したげる」
その言葉に、ユキとレッカーは度肝を抜かれた。
「え……?」
〈あの、食いしん坊のマオが……?〉
「だって、お姉ちゃん泣いてるもん。可哀そうだから」
マオはえっへんと胸を張った。
「……今度、スイーツいっぱい買ってあげるわ」
そんなやり取りを聞いてレッカーは、
〈今夜、槍でも降るんじゃないか?〉
苦笑いしながら、二度とないであろうこの出来事をしっかり目と耳に焼きつけた。
四十八話をお楽しみに。




