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第四十四話:フードカートの話

 大都会の大通りにレッカーが停車した。今日はここでお客さんと待ち合わせをしている。

 彼の隣を、大型トラックや普通乗用車がスピードを上げて通り過ぎていく。それらの起こした風がときどき、レッカーの車体を少し揺らした。

 歩道には、サラリーマンや作業ロボットがたくさんいて、忙しそうに歩いていく。走っている人もいる。みんな気の休めない日々を生きているような印象があった。

 十分ほど経つと、レッカーの前に一台の車が停まった。それはフードカートだ。路肩に停まって、その中で作られた料理を歩道にいるお客さんに販売するのだ。

 ユキは運転席から降りると、旗と重りを外に出しているその人に声をかけた。

「すみません、頼まれていた冷蔵庫をお持ちしました」

 彼女はレッカーの荷台を指さした。青いビニールシートで覆われているが、長方形の箱が横に倒されて載せられている。

「お! 確かに頼んでいたけど、こんな若い女の子が持ってくるとはねぇ。驚いたよ」

 その店の人は、二十歳くらいの女性だった。女優にも負けない美人で、手足はとても長い。

「運び入れてもいいですか」

 ユキがそう尋ねると、

「うん、いいよ。ちょっと車内が狭いから、先に古い冷蔵庫出しておくね」

 女性はそそくさと店の中に戻っていった。

 ユキはレッカーの荷台に登り、ビニールシートを外して冷蔵庫に固定されているロープをクレーンにかけた。

「降ろして」

 彼女がそう言うと、レッカーは冷蔵庫をゆっくりと持ち上げ、フードカートのすぐ横に降ろした。冷蔵庫にはすでに何か入っているらしく、それが落ちてこないようにドアはしっかりロープで固定されている。

 ユキがその作業をしている間に、女性は一人で高さ二メートルくらいある冷蔵庫を運び出していた。

「一人で出したんですか? 手伝ったのに」

 ユキが言ったが、

「大丈夫。私は腕が機械だから」

 女性は自分の右腕を軽く叩く。

「でもそんな重い物を持ったら足にも相当負担が……」

 ユキはちらっと女性の足を観察する。細長いその足は、とても労働に耐えられるようには見えない。

「ああ、足も機械なの」

 ハハハ、と女性は苦笑いをした。「小さいころ、色々あってね」

「そうでしたか。見かけに寄らず、力持ちなのですね」

「そうそう。見かけに寄らないでしょ?」

 女性は、おかしそうにケラケラ笑う。

 その後、商売の準備で忙しくなった女性に、ユキは別れを告げた。


 二日後――


 土砂降りで視界が悪い森の中を、あまり速度を出さずに走っていたレッカーは、前方に車が停まっているのを見つけた。

〈あれ、この前のフードカートじゃないか?〉

 それは、確かに二日前に冷蔵庫を納品した車だ。ぬかるんだ泥道にハマっているようだ。

「ちょっと行ってくるわ」

 ユキは嵐になりつつある外へ飛びこんだ。そしてフードカートの運転席のドアを控えめに叩く。

 すると、運転席のウインドーが開き、女性が顔を出す。

「あれ、こんな所で遭うなんて奇遇だね。助かった、ちょうど車輪がハマっていて困ってたの。クレーンで引っ張ってくれないかな」

「ええ、分かりました」

「お願い。今日中にこの先の村に行かないといけなくて。年に一度の祭りで、色んなところに住んでいる村の出身者がその日だけ帰ってくるから」

 女性は切実な表情をしていた。

 商売人として約束はしっかり守りたいのだろう。売買している品物は違えど、ユキは同感できた。

 早速レッカーにクレーンを伸ばしてもらい、それを車のお尻に引っかけ、レッカーに後退するように言った。

 少し手間取ったが、一分ほどかかってフードカートを救いだせた。道には、深い溝ができていた。おそらく雨で削れてしまったのだろう。

「ありがとう。もう遭うことはないかもだけど、元気でね」

 雨に打たれているユキを心配してか、女性は早々にその場を去った。

 ユキは雨の中に消えていく女性の車を見届けた。すっかり姿が見えなくなると、レッカーの中に戻る。

「お姉ちゃん、はい」

 マオがボロボロの白いタオルをユキに渡した。それは本来、席のシートやハンドルの汚れを拭くためのものだが、構わず自分の髪や顔についた水滴を拭き取る。

 そして、レッカーは再び目的地に向かって出発した。


 さらに二日後――


 ユキはレッカー内蔵のラジオでとあるニュースを聞いた。

『昨日、○○村の住人が多数倒れているのを、訪れた隣村の人が発見しました。住人はすぐに病院へ運ばれましたが、その村の住人全員の死亡が確認されたということです。警察は、フードカートから提供された食品に劇薬が混ぜられていたのが原因だと発表しました。容疑者と思われる女性は、車の中で同じ劇薬を飲んで亡くなっていました。車内からは遺書が見つかり、かつてその村に住んでいた女性が、儀式の一環で村人に無理やり手足を切断され、義手義足をつけられて恨みを持っていたことがつづられていました。容疑者死亡のまま、警察は○×市に住む元村民から詳しい話を聞く方針です』

四十五話をお楽しみに。

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