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第四十三話:花の力

「あら……」

 あまり木の密集していない人工林の中を走らせていたユキは、首をかしげた。

 ここの道路は一週間前に通った時は、柔らかい粘土の道だったはずだ。だが、今はアスファルトに変わっている。

「アスファルトになってるわね。走りやすいわ」

 ユキはうんうんと感心するようにうなづく。

〈最近は技術が発達してるからな。一週間でも長い道路をアスファルトにできるんだろう〉

 レッカーも、タイヤを痛めない道を走れて満足している。

「あれ?」

 ただ一人、眉にしわを寄せているのは、マオだ。

「どうしたの、マオ」

 運転しながら、ちらっと妹を見る。

「ねえ、この前花の種を植えたところに行って」

 切実な表情でお姉ちゃんに訴えかける。

「分かったわ」

 マオの考えていることが分かり、ユキはアクセルをさらに強く踏んだ。


 マオは一週間前にここへ花の種を植えていた。ある業者にタダでもらったものなのだが、もて余して林の道路沿いに植えたのだ。

 その場所を、マオはちゃんと覚えていた。制限速度が書かれている看板が目印だ。

「ああ……」

 ユキはレッカーから降りてそこを見た。種のある場所がアスファルトに覆われている。

「どうしよう」

 マオはその場所で四つん這いになって、辺りを手の平で擦っていた。残念ながら、どこも硬くて、花の力ではとてもぶち破れそうもない。

「どうにもならないわ。こうなってしまっては、とても花は生きていられないはずよ」

 戻りましょう、と妹をレッカーの中に入るように促すと、

「ここをぶっ壊して」

 ダンダン、とマオが種を植えた所を踏み鳴らした。「そしたら、お花は元気になる」

 潤んだ目でお姉ちゃんを見上げた。

 しばらく考えこんでいたユキだったが、

「道路業者に出会いませんように……」

 そう言って、ツルハシでアスファルトを割った。かつての土が顔を出す。

 これで良し、とユキは仕上げにマオに飲ませるために貯蔵している水を少しその中に流しこんだ。

 そうして、二人と一台は去り、二度とこの道を通ることはなかった。


 二日後、その溝から花の芽が一つ顔を出した。

四十四話をお楽しみに。

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