その2
その1を読んでくださった方ありがとうございます。思いついたままに書いたのでもしかすると変なところもあると思いますが最後まで目を通していただけると嬉しいです。
外に出ると日が出ていた時間とは反対に、綺麗な夜空。珍しく空が透き通っていて天の川がうっすら見える。外はちょっと涼しい。自転車のペダルを漕ぐ。風が僕の横をすり抜けていく。急いだつもりはなかったけどもうついてしまった。自転車を止めて一番高い竹を探す。
「んー無いな。少し中の方に行こう」
竹藪の中を夜にしかも一人で入って行くなんて今までした事一度もなかった。
でも楽しいと思えている自分がいる事に気づき、口元が緩む。
そういえば最近笑ったのっていつだろう。思い出せない。それだけこの半年は僕にとって重くのしかかっていた。それも今日で終わらせないといけない。僕の時間は進んでいる。彼女が僕に生きてと命をくれた。
「だから、こんな生活も今日で終わりだ」
後ろを振り返るともう先が見えない。ずいぶんと奥まで来た。もう少し足を進めると、いくらか開けた空間に出た。
そこには一本だけ竹が生えている。
背はそこまで高くはないが、他の竹と比べると太く頑丈に見える。何だか異質に感じる。
でも、この竹に短冊、いや手紙を掛けたい。というかそこしかないように思ってしまう。
僕の体は吸い寄せられるように近づいていく。
近くで見ると大きかった、背もさっきよりも高く見える。
一番高い所に掛けたいが、上まで登るのは流石にきついから、ちょっとだけ上に掛ける。
「ふー何とか掛かったな」
その場に腰をおろして、短冊を見る。
「こんな時間に僕は何をやってるんだろうな。ははっ」
「もう、全くよ。上から見てたから全部知ってるわよ」
知ってる声がする。どこからだ。ここには僕しかいないはずなのに。
「いや、疲れてるだけだな。だっているはずないじゃないか。もう二度と会うことは叶わないんだから」
「だ・か・ら!今ここにいるんだって。どうしてわかってくれないかな、壮介」
やっぱり声がする。気味が悪いけど、どうしったってあの声にしか聞こえない。
「菜月か!どこにいるんだよ。声だけだと気持ち悪いって」
「気持ち悪いって失礼ね。目の前にいるじゃない、あんたが短冊掛けた竹よ」
「へー竹ね。でもどうして竹なんだ」
「あんたが、願ったからでしょ。わたしはもうこの世から出て行かないといけないのにあんたが引きとめたんでしょ」
「それ答えになってない。それよりも話せるならもう一回姿が見たかったな」
「まぁ、それぐらいならお安い御用よ、ちょっと待ってて」
「わかった」
確かに、菜月と話がしたいなんて書いたけど、本当に叶うなんて。
いや、やっぱり、疲れてるだけなんじゃないのか。どうにか、現実だった思える方法はないものか。
「お待たせ、服変じゃないかな」
「は?なんでそんな格好してるんだよ。まあ…なんだ、似合ってるとは思うけど」
羽衣がゆらゆらしている。姿を現すっていうから、光が周りを包んでそこから登場みたいなのを想像したけど。
「登場は意外とシンプルなんだね」
「なんか文句あるの。せっかく来たのに、もう帰ろうっかな」
菜月は竹の後ろからちょこっと顔を出してこっちを見ている。
「いや、帰らないでください。お願いします」
「大丈夫、そんなすぐには帰らないよ」
「そっか、なら良かった。でもどうやって来たの?」
会えた事はとても嬉しいし、驚いたけど、どうやって僕の目の前に現れたんだろうか。
「んーわたしもわかんない。でも向こうに行く前にあんたに会いたいって思ってた」
「僕はずっと、思ってたよ。会いたいって。だから、願い事はもうほとんど叶ったかな」
「そうね。あんたからの手紙ちゃんと読んだわよ。会いたくて辛いとか好きだったとか。よくもまあ恥ずかしい事スラスラと書けたもんね。思わず笑ったわ」
「おい、ちょ…それひどくないか。僕は本当にそう思ったんだからな」
「ふふっ。ごめんごめん。わたしだってあんたに会いたいって思ったわよ。でも方法がないじゃない。だから、天国に行くまでふらふらしてたら、行きそこなっちゃってさ。へへっ。気づいたら、もうすぐ七夕らしいし、もしかしたら壮介がわたしに会いたいなんて願ったりしてないかなぁーって考えてたら。いつの間にかこんな事ね」
「ふーん。じゃある意味僕のおかげってわけか。いや、織姫と彦星のおかげか」
「ちゃんと二人にお礼言わないとね。ところでさ。壮介、あんたわたしに聞きたい事あるんじゃなの? 早くしないとわたし、答えないよ」
こいつは僕に意地悪するのが好きだな。でも聞きたい事があるのは本当なのだが、今更聞いてどうにかなるような事じゃない。だって、菜月は死んでいるのだから。そう思うと、余計に聞けない。
「んーまぁあるけど、まだいなくならないんだろう。だから後で聞くよ。それよりさ。おまえ、今幽霊なんだよな。どんな感じなんだ?」
「えっ? どんな感じって言われても…変な感じよ。そこにいるのに誰も気づいてくれないし。だから最初は辛かったわよ。特にわたしが轢かれたあ…」
「あ…悪い。変なこと聞いちゃったな。すまん」
「んん…ごめん。思い出したくないよね。でも全然。全く痛くなかったよ、ホント。それよりもなんでだろうね。車がこっち向かってきた時、身体が勝手に動いたの」
「あんたに、壮介に生きて欲しいってあの時思ったの。だから後悔なんてしてないよ、わたし。だって一緒に帰ろうって誘ったのはあんたに言いたい事があったからだったし」
「なんか、僕情けなく感じちゃうけど、助けたいって思ってくれたなんて、そんな事全く考えなかったよ。っていうか、言いたい事ってなんだよ。今言っても良いぞ。僕はちゃんと聞いてるからな」
なんて言ってはみたけど、脈が速く、心臓が高鳴っているのがわかる。頭の中で鼓動が響く。だって、それって…。ずっと僕の片思いだとばかり思っていたから、今になって胸が締め付けられる感じがする。
「その……ね。わ、わたし、あんたの気持ち知ってたの。でもどうして良いかわからなかった。大体一緒に学校から帰ったり、あんたの家に時々ご飯作りに行ったりしてたけど、わたし、すっごく楽しかったの。でもあんたの気持ちに向き合ったら、その関係が崩れちゃうんじゃないかって思って、それで…」
菜月は僕の気持ち知ってたのか。なんだ、じゃ僕の一人相撲じゃないか。
「菜月、いつ知ったんだ。ていうかお前に好きって言われたからってそんな簡単に崩れる関係じゃないだろう。じゃあなんで菜月は僕と一緒に帰ったりしたんだよ」
「それは。それはっ!あんたの事が好きだったからじゃないの!」
「最初からそう素直にしとけばよかったんだよ、菜月」
「だって、好きって事はいつかは嫌いになるかもしれないじゃない。そう考えたら、あんたに好きなんて言えなかった。あんたと離れたくなかった。でも、わたし、死んじゃったんだよね。もう会えなくなるね」
「本当にお前ってやつは。あーもう!僕だって菜月が好きなんだよ。今も。お前が死んでから何度後悔したと思う?! なんで一人で死んだんだよ、なんで僕なんか助けたんだよ。事故に遭うってわかってたら好きだって伝えた。そうすればもしかしたらこんな結末迎える事もなかったんじゃないかって。それぐらい、菜月が好きだったんだよ」
「うん。知ってる。わたしがいなくなって一番泣いてくれたのは壮介だもんね。今も泣いてるけど。えへへっ」
そう言って、菜月は僕の目の前で涙をこぼしていた。




