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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
第1章~公孫瓚伯珪について
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公孫瓚~易京楼にて(2)

 今回袁紹が招いた人物、公孫瓚は三国志の中でもかなりマイナーな武将です。しかし、袁紹の戦いの履歴を語るうえではなくてはならない人物でしょう。


 公孫瓚は肥沃な土地を欲した袁紹に騙されて利用されたり、その過程で弟を殺されたりして袁紹にかなり恨みをもっています。そんな彼を袁紹はどのような気持ちで悪夢に招き入れたのか…続きは本文で!

 袁紹の感情の揺れに反応したのか、公孫瓚のそばで少年が泣き出した。


「うっうっええーん!!

 やだよぉ、こんなのに殺されたくないよおぉ!」


 公孫瓚はビクリとした。

 こんな状況で泣かれたら、あの怪物の仲間が集まってくるかもしれない。


「こ、こら黙れ!

 わしを殺す気か!?」


 公孫瓚は慌てて少年を黙らせようとした。

 しかしその間にも、近くの路地からまたあの化け犬が出てくる。

 公孫瓚は苛立った。


「黙れ、黙らぬか!!

 ええい、こんな足手まといはもう知らぬわ!!」


 少年を突き放して転がしたとたん、公孫瓚は妙な既視感に襲われた。

 自分は以前にも、こんな風に味方を拒んだことがある……?


  助けに行ってはならぬ!

  五百の兵を救うために、千の兵を失うことになるぞ!!


 そうだ、城の外で袁紹軍と乱戦になって引き揚げた時に、袁紹軍を入れぬために兵の一部を閉め出したんだった。

 損害が増えると分かっていながら、私情に流されて助けに行きたいとすがった部下の顔が脳裏に浮かぶ。

 記憶が戻ったのはうれしいが、これは不快な思い出だった。


 公孫瓚は腹立ち紛れに少年を犬の方に蹴飛ばした。


(こういう奴がいるから、事態が悪い方にいってしまうのだ!!)


 助けてと叫ぶ少年に背を向けて、公孫瓚はその場を後にした。

 背後から、悲痛な悲鳴が聞こえた。

 だが公孫瓚にとっては、それすら腹が立つだけだった。



 おぞましい犬の鋭い牙が、少年の体を引き裂く。


  ああ、痛い、苦しい……。

  だけど、違和感はない……。


 楽になれと急かす怪物を見上げながら、少年は悲しげに笑った。


  やっぱり、あの人では私を助けられないね。

  ちょっと期待したのに……

  まあ、助けてくれる人の方が珍しいことくらい、もうずっと前から知っていたけど。


 少年の体から流れ出した血が、地面をつたのように這う。

 少し広がるとそれは煙のように消えてしまい、少年の体も消えてしまった。


  あのような男は、さっさと地獄に落としてしまおう。


 血と膿と錆に埋もれた世界で、袁紹は決意した。



 公孫瓚は、突然悪寒のようなものを感じた。

 

  逃げなければ!


 本能が叫ぶ。

 さっきより空気が重く、体にのしかかってくるようだ。

 武人として磨き上げられた勘が、良くないことが起きると言っている。


 突然、周りの空気が変わった。

 気がつけば、さっきは静かだった霧の向こうから不気味な呻き声が聞こえる。


(な、何が起こった!?

 とにかく、城から脱出した方がよい!)


 恐怖に急かされるように、公孫瓚は城の門に向かって走った。


 突然、目の前に人影が現れた。

 先ほどはあんなに呼んでも返事すらなかったのに。


(人、いや、これは……!!)


 霧の向こうから現れたその姿に、公孫瓚は立ちすくんだ。

 それは明らかに、禍々しき闇から這い出したものに違いなかった。


 そいつは人の形だけはしていた。


  しかし肌は腐ったようにぶよぶよとたるんで、明らかに生きている色ではない。

  しかも顔面に血みどろの板が貼り付けられ、釘が打ち付けられている。

  服装は召使のようで、妙に上品なのが生々しい。


 手には、その上品な衣裳に不釣合いな棍棒が握られていた。


(これは……!)


 公孫瓚は背筋に気味の悪いなにかが這い上がる思いだった。

 さっきの犬はまだ、怪物だと割り切れる。

 しかしこの人形はどうだ。


  幸い顔は板を打ちつけられて見えないが、かすかに息遣いのようなものが聞こえる。

  まるで自らも疲れきったように、足を引きずって近寄ってくる。


 気が付けば、人形の怪物は前と横から二体迫っていた。


(やるしかないか!)


 公孫瓚はすらりと剣を抜き、まず横の一体に斬りかかった。

 肩から胸を両断して、一撃で致命傷を負わせる。

 人を斬る罪悪感など、公孫瓚は持ち合わせていない。

 気に食わないものは全て、こうして切り捨ててきたのだから。


(よし、いい調子だ!)


 横の一体を始末すると、すぐ前の一体に斬りかかる。

 頭から斬り下ろしてから竹割りにし、公孫瓚はあっという間に二体を片付けた。

 しかし、歩き出そうとした瞬間、足に鋭い痛みが走った。


「な、何だと!?」


 倒したと思った横の一体が、足に錐を突き立てていたのだ。


「くそが!!」


 公孫瓚は慌てて剣を振り下ろし、怪物にとどめを刺した。

 しかし……これはひどくやばい気がする。

 もしこれ以上強力なものが出たら、対処できる自信はない。


(早く城から出た方がいい!!)


 公孫瓚は恐怖にかられて、一目散に城門へと走った。


 もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、この小説のステージはサイレントヒルをモチーフにしています。


 一人の悪夢から始まり、やがて異世界や怪物が顕在化して他の人間を巻き込んでいく…そして巻き込まれた人間によって、元にいる人間に変化が起こる。大まかに言えばそんな流れです。

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