表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
最終章~曹操孟徳について
185/196

曹操~悪夢の鍋底にて(4)

 曹操と劉氏、それぞれに有利な点と不利な点があります。

 曹操に有利なのは、生きているので直接地獄に落ちないこと。

 そして劉氏に有利なのは、死人であるため時間経過で体が再生すること。また怪物としての特性で攻撃の手数が多いことでしょう。


 曹操は、知将の本領を発揮してそれらを最大限に生かし、劉氏に挑みます。

「袁紹……おい、袁紹!」


 曹操は、必死で袁紹を揺り動かして起こそうとした。


  この侵食は、袁紹の体内から生じているものだ。

  つまり、原因は袁紹の心の中にある。


 どうにかして袁紹の心を動かさなければ、きっとこの糸ははがれない。

 袁紹を解放するためには、袁紹にこちらの言葉が届かなければならないのだ。


 しかし、袁紹は意識を失ったままだった。

 きつく目を閉じて、体はだらりと脱力している。

 言葉どころか、触ったことに反応する様子すらない。


「袁紹、目を覚ませ!おい!!」


 必死で呼びかける曹操の前で、繭がごそりと動いた。


「勝手に、人の旦那に、手を出してるんじゃないわよ!」


 劉氏が、体勢を立て直しつつあった。

 血の色の鞭が蠢き、ほつれた繭に巻き付いて再び袁紹の姿を覆い隠していく。


 と、曹操は嫌な予感を覚えてとっさに飛びのいた。

 曹操がいたところに、固く鋭い鉤爪が刺さる。


「フン、すばしっこいこと」


 いつの間にか、曹操のいる側の腕が3本に増えていた。

 そのうちの1本は、生まれたての赤ん坊のように赤く粘つく膜に包まれている。


  案の定、あの腕も時間が経てば再生するようだ。


 曹操の額に、冷たい汗が流れた。


(まずいぞ、このままでは埒が明かぬ!)


 やはり、劉氏も死人である以上、体が壊れても放置すれば元に戻ってしまう。

 再生しなければとりあえず劉氏の腕を全てもいでから考えればいいが、これではあまり長く考えている時間はない。


 それに、時間が経てば経つほど生身の曹操は消耗していく。

 いずれ体が頭についていかなくなれば、あとはもう弄られて殺されるだけだ。


  死人と生身では、生身の方が不利だ。


 二つ目の館で袁紹が退路を断って曹操を殺そうとした時も、それを利用していた。

 劉氏がそれに気づいているかは分からないが、気づいていなくても不利なのは同じことだ。


(あの穢れを、何とかせねば……!)


 糸口は見えないが、曹操はじっとしてはいなかった。

 立ち止まっていればいるほど、劉氏は回復する。

 少しでもダメージを与えて腕を増やされないよう維持しつつ、再び繭を狙う。


  袁紹が目覚めなくても、繭自体を切るのは簡単だった。

  いっそ、繭自体を壊して袁紹を劉氏から引き離せばいいのかもしれない。


 曹操は、今度はできるだけ地獄の風を使わずに立ち回った。

 長期戦になる可能性がある以上、あまり手の内を見せるのは良くない。

 劉氏の学習能力が低いとはいえ、何度も目の前で繰り返せば気づかれる。


 そうなれば、もう曹操に有利はない。


「これで、どうだ!」


 爪と鞭をかわしながら、さらに腕を切り落とす。

 再び劉氏の体が傾き、繭が露出した。


「そこだ!」


 曹操は、素早く繭に駆け寄って剣を振りかぶった。

 中に袁紹がいることは承知のうえで、乱暴にめった切りにする。


  考えてみれば、袁紹も死人なのだ。

  多少傷ついても、最終的に助けるという目標を果たせばそれでいい。


 曹操は、これまでの戦いで得た経験を総動員して剣を振るった。

 強さだけではない、この冷静さと吸収の速さが曹操の英雄たる所以だ。

 何が自分に有利で、何が自分に不利で、最終的にどうなればいいのか……どんな凄惨な戦いの中でも、それだけは忘れない。


 バラバラと繭がほどけ、ついに袁紹の体が床に落ちた。

 曹操は袁紹の体を抱え、急いで劉氏から離れる。


(よし、後は劉氏が手を出せぬ距離まで行ければ……!)


 袁紹は相変わらず気を失ったままだが、確かにこの手の中に戻ってきた。

 袁紹の意識を取り戻す方法も、劉氏を地獄に返す方法も、袁紹の安全を確保してから考えよう……曹操はそう思っていた。


  しかし、そううまくいくだろうか?


 曹操はこれまで、自分一人であったから素早い鞭をかわしたり、切り払ったりできたのだ。

 果たして、袁紹を抱えた状態で同じ動きができるだろうか。

 大の大人を一人抱えると、予想以上に動きが制限されるのだ。


 そこを狙って、劉氏が鞭を振り出す。


「ちょっと、それ、私のよ!」


 曹操自身はどうにか避けたものの、鞭の先端が袁紹の肌に当たる。

 その瞬間、袁紹の肌に浮き出た穢れと鞭がつながった。


「な、何だと!?」


 まるで一本釣りでもするように、劉氏は鞭とつながった袁紹を思いっきり引っ張る。

 袁紹の体は乱暴に奪い返され、その拍子に曹操も体勢を崩して膝をついた。


「しまった!!」


 それを待っていたかのように、複数の鞭が曹操に襲い掛かる。

 それはあっという間に曹操に巻き付き、空中に引き上げた。


「ふふふ、ずいぶんとよく切れる剣を持っているじゃないの!

 でも、要は振らせなければいいのよね」


 劉氏は、曹操の手足に鞭を巻き付けて動きを封じてしまう。

 そして、ゆっくりと顔の前に持ち上げ、得意げに笑って言い放った。


「ほーっほっほっほ!

 ようやく息子の仇を討てるのね!私は、あんたのせいで何もかもを失ったわ!

 このまま絞め殺してもいいけど、それじゃあまり華がないわねえ」


 劉氏は、足元に開いている地獄への穴に目を落とした。


「そうだわ、風が吹き上げてきても、金網の下に押し込んで上を塞いでしまえば戻ることはできないはずよ。

 生きたまま、地獄に落ちてのたうちなさい!!」


 曹操は、ごくりと唾を飲んで穴を見下ろした。


  生者は地獄に落とせないというが、それがどの程度安全なのかは分からない。

  もしその安全装置が単に風で弾くだけだったら……

  自分は、本当に地獄から出てこられなくなる。


 しかし、曹操に選択の余地はなかった。

 劉氏は、曹操の体を高く持ち上げ、勢いをつけて穴に向かって振り下ろす。


 曹操は、それでも目を見開いて体に力をこめた。


  今は、信じるしかない。

  生者と死者の境目を。


 曹操の体が、金網の開口部に叩きつけられた。

 最後の戦い、クライマックスが近づいてきました。

 袁紹の意識は、どうすれば戻るのでしょうか?

 そして、劉氏を倒すにはどうすればいいのでしょうか?


 最後まで、気を抜かずに書ききっていきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ