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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
最終章~曹操孟徳について
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曹操~洛陽にて(1)

 袁紹は曹操に、思い出のあの場所で待つ、と伝えます。

 思い出のあの場所とは、どこなのでしょうか。


 この章では、曹操と袁紹の関係の変化とお互いに対する思いを中心に話しが進みます。

 思い出の場所の、思い出とは何か。二人がすれ違った始まりの場所に、曹操は歩を進めます。

 洛陽の街は、活気に満ちていた。


  郊外では農民が田畑を耕し、城内では商人が商いに精を出す。

  多くの人が行き交い、にぎやかな声が飛び交う。


 首都でなくなったとはいえ、洛陽は立派な都市だ。


 しかし、この栄華を誇る洛陽も、一時は廃都となっていた。

 その破壊されつくされた街で、曹操と袁紹は袂を分かったのだ。



 かつて、漢の朝廷が一人の悪漢に牛耳られていた時期があった。

 悪漢の名は董卓といい、袁紹は彼を嫌って討とうとしていた。


 しかし、正面からいきなり剣を抜いて挑んでしまうところが袁紹の愚直なところだ。

 袁紹は董卓が当時の帝に退位を迫ったとたん、その場で剣を抜いて言い放った。


「皇帝の位は臣下がとやかく言うものではない。

 それを力で押し通すなど、許されることではないぞ!

 貴様の野心は見え透いている、この袁紹が成敗してくれる!!」


 袁紹の言い分は確かに正しい。


  何の罪もない帝を強制的に退位させるのは、悪いことだ。

  しかもそれが董卓の私欲のためであることは、皆が感じている。

  董卓より袁紹に理があることは明白だ。


 しかし、袁紹の行為は現実的ではなかった。


  董卓は、当時都にいたどの諸侯よりも多い、二十万の兵を率いていた。

  おまけに、董卓の後ろには天下無双の豪傑、呂布が控えていた。

  董卓自身も武勇を誇る豪の者で、確実に袁紹より強かったと思う。


 華々しく火花を散らしたはいいが、誰も袁紹に味方する者はいなかった。

 内心で袁紹を応援していた者は多かっただろうが、実際には誰も加勢する者はいなかった。


(袁紹め、無茶をする……)


 曹操は袁紹の身を案じたが、加勢はしなかった。

 その代わり二人の間に割って入り、董卓をかばう形で袁紹を引かせた。


「どうしても董卓を討つというのならば、この曹操が相手になろう!」


 さすがに親友の曹操を斬ることはできず、袁紹は何もできずに退場していった。

 自分とは逆の立場に行ってしまった、曹操に恨みの視線を残して。


  それが、この洛陽であった一度目の決裂。


 その後袁紹は洛陽を去り、董卓の手を逃れた。

 つまり、曹操は機転を利かせて袁紹を救ったのだ。


  もちろん、曹操も董卓の言いなりになる気などなかった。

  これは董卓に近づき、討ち取る機会をうかがうための作戦だ。


 しかし、その時の曹操の気持ちを袁紹が知っていたかと問えば、それは否だ。

 敵を欺くには味方からというが、その時の袁紹は確かに親友の曹操に裏切られたと思ってひどく傷ついていたのだ。

 その一件は曹操と袁紹の絆に、ひどい亀裂を生じさせた。


 曹操はその時、失ってもまた取り戻せばいいと思っていた。

 その頃の曹操は、取り戻せないものなどないと思っていた。


  それが若さゆえの過ちであったと気づいたのは、大切なものを失ってからだ。



 今この洛陽は、順調に復興の道を歩んでいる。

 董卓に一度は焼け野原にされたかつての都にも、再び人は集まり、にぎやかな街並みを取り戻しつつある。


(取り戻せると、思っていたのだが……)


 曹操は活気あふれる洛陽の通りで、一人ため息をついた。


  街は元のように戻った。

  しかし、元に戻らないものもある。


 この街で壊れてしまった袁紹との絆は、結局生きている間は元に戻らなかった。

 いつか、雌雄を決してどちらかがどちらかに降伏することになれば、そのうち元に戻るんじゃないかと心の底で思っているうちに、袁紹は遠いところに行ってしまった。


 しかし……今こうして再び会えるということは、取り戻せる可能性があるということではないか。


  袁紹からの、再び会いたいという手紙。

  それも、絆の壊れた思い出の地である、ここで。


 袁紹も、取り戻したいのかもしれない。

 そう思うと、曹操の顔に自然と笑みが浮かんだ。


「さて、あやつはどこにいるのか……」


 曹操は、洛陽の中心を走る大通りでぐるりと辺りを見回した。

 洛陽は広く、その中から人を探し出すのは思いのほか大変だ。

 しかし、曹操には見つけ出す自信があった。


  袁紹がいそうな場所の見当はつく。

  絆が壊れるきっかけとなった、元宮中の辺りだろう。


 曹操はまっすぐに、歩を進めた。

 そしてあと少しで大通りというところで、ふと見知った顔を目にした。


 目の前を、一人の少年が横切った。


(あれは!!)


 かすかに曹操の方を振り向いたように見えた、その顔に見覚えがあった。

 洛陽は、曹操が許昌に都を移す前の首都です。

 曹操と袁紹はかつてこの都で、一緒に仕事をしていました。


 曹操と袁紹が最後に一緒に仕事をしたのは、董卓討伐連合軍です。そこで二人は洛陽を取り戻すために一緒に戦い、洛陽で二度と戻らぬ別れを告げました。

 この始まりの古都で、悪夢は曹操を迎え入れます。

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