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袁紹的悪夢行  作者: 青蓮
幕間~痴話喧嘩
115/196

劉氏~愛惜の館にて(2)

 今回はなんと、お色気?回です。

 悪夢行はひたすらホラーとシリアス要素しかなくて、キャラも男性ばかりを描いてきました。

 次回作では女性キャラや恋愛要素も入れたいと思っているので、少し練習です。


 悪夢に引き込まれた劉氏が連れてこられたのは、どういう場所だったのでしょうか。

「劉、待っておったぞ」


 見知らぬ楼閣に放り込まれた劉氏の後ろから、袁紹の声が響いた。

 だいたい生前と同じ、優しい声。


 はっと振り返って袁紹の姿を目にしたとたん、劉氏は震えあがった。


「あ、嫌……いやあああ!!!」


 部屋は、女々しい装飾と淫靡な色使いで染め上げられた高級な娼館の一室。

 そこに、場違いなくらい上品で、見慣れた物体があった。


  間違いない、自分と袁紹が何度も夫婦の夜を過ごしたあの寝台だ。


 袁紹は、その上に寝そべって劉氏の方を見つめていた。

 床を共にする夜と同じ、きれいな水色の単一枚で。

 しかし、今日は姿勢が違った。


  肘から先を思わせぶりに交差させた腕で支えて、上体を起こしている。

  うつ伏せで腰から足の形がくっきり見える。

  足を軽く開いているせいで、膝から下が淫らに露出している。


 こんなことを思っている場合ではないが、姿形は文句なくいい男だと思う。

 夫ではなく宝飾品のように侍らせるなら、間違いなく最適な男だ。


 結婚相手として紹介された時も、第一印象は「きれいな人」だった。

 あの時一目見た瞬間に、この人となら幸せになれそうだと思ったのに。


  どうして、こんな事に……。


「ふふふ、劉よ、おまえは生前こう言ってわしを責めたな。

 あなたは高貴な私と下賤な女どもを同じように扱う、それが嫌だと」


 袁紹は今のところ何をする訳でもなく、劉氏の方を見つめてこう言った。


「だがな劉よ、わしはおまえを他の女たちと同列に扱ったことなど一度もないと思うのだが。

 子を嫡子として育てるのは当たり前として、おまえには他の女たちよりずっと丁寧に接したし、おまえが嫌がるからついに他の女たちを家に入れることはなかった。

 おまえはどの辺りを見て、同等に扱われたと思ったのだ?」


 どうやらすぐに地獄に連れて行く気ではないらしい。

 劉氏はひとまず落ち着きを取り戻した。


 話が通じるなら、まだ打つ手はある。

 ここできっちり諭して、あいつが悪いんだと分からせればいい。


  大丈夫、私が負ける訳がない。

  正しいのは、私なんだから!

  筋の通った方が、最後に必ず勝つものよ!!


 揺るぎない決意を胸に、劉氏は答える。


「ふん、知れたことよ。

 どんなに扱いに差をつけても、結局抱く時は同じでしょう?

 あなたは獣のような女たちを抱いたのと同じ手で私を抱いて、貶めたのよ!」


 それを聞くと、袁紹は苦笑した。


「くっくっく……おまえなら、そう言うと思ったぞ。

 だから今日は、下賤な女と同じように抱かれることがどういうことか、分からせに来てやった」


「!!」


 袁紹の言葉に、劉氏はぞわりと悪寒を覚えた。

 この淫らな部屋は、このためにあったのか。


  かすかな風に、袁紹が寝そべっている寝台のカーテンがたなびく。


 薄絹のカーテンからちらちらと見える袁紹の姿は、まるで娼婦。

 生前は見せたこともないような色香をまとい、劉氏が来るのを待っている。


 それに引き寄せられるまま寝台に引き込まれたら、どうなるか……考えるだけで吐き気がした。


  きっと、あの氷のような体温で執拗に抱かれるのだ。

  そして、あの汚らわしい手で体のすみずみまで撫でまわされる。

  氷柱のようなものを押しこまれて、体温を奪い尽くされて死ぬのだ。


(嫌よ、そんな死に方は絶対に嫌!!)


 虫のように体中を這い回る嫌悪に、劉氏は身震いした。

 そして、すぐに反論を考えて必死で言い返す。


「ふん、扱いの程度というのは相手の貴賤によって変わるもの。

 私はあの女どもよりずっと高貴なんだから、ずっと丁寧に扱って当然なのよ。

 その私をあの女どもと同じように抱くなんて、外道にもほどがあるわ。それで同等に扱ったなんて言える訳がないでしょ!」


 びしっと言い放って、袁紹の出方を待つ。


  大丈夫、間違ったことは言ってない。

  袁紹だって名家の一員として育てられたんだから、これくらいは分かっているはず。


 ためらいもなく言い切って胸を張る劉氏に、袁紹はため息をつく。


「……そうか、そこまで言うか。

 どこまでも気位の高い女だな、おまえは」


 そりゃそうよ、と劉氏は心の中でうなずいた。

 しかし、袁紹は首を横に振って続ける。


「だから、おまえは罪深いのだ。

 自分は特別だと思って疑わない、だから他の人間の命を塵のように扱って何の疑問も持たない。

 他人をひどい目に遭わせても、身分相応という言葉で全て片づけてしまう」


 それのどこが悪いのか、と劉氏は毒づいた。

 だが、袁紹は明らかに怒りを含んだ声で続ける。


「おまえも他の女たちも、生まれが違うだけで皆同じ人間なのだ。

 皆、おまえと同じように痛みや苦しみを感じる。

 身分などに囚われてそれが分からぬおまえは、もはや人間と言えぬわ!!」


 袁紹の怒声が、静かな部屋に響いた。

 劉氏は一瞬、気おされてぶるりと震えた。


  何、この迷いのさなは?


 劉氏は、目の前の袁紹に違和感を覚えた。

 自分の知っている袁紹と違う。

 生前の袁紹は、こんな人じゃなかった。


  生前の袁紹は、いつもどこか自信なさげで不安そうだった。

  自分が半分卑しい民だということをよく分かっていた。

  だから私に逆らわなかったし、私がびしっと諭してやればすぐに大人しくなった。


 こんな風に言い返されるなんて、初めてだ。

 しかもあんな、迷いのない鋭い目でにらみ返されるなんて。


 劉氏は、信じられないながらも己の不利を悟った。

 何とか袁紹とにらみ合ったまま、ずるずると後ずさる。


  このまま相手にしたら、まずい!


 なぜ袁紹がこんなに聞き分けの悪い男になったのかは分からないが、今の袁紹は簡単に説得できる相手ではない。

 腕力ではどうやったって敵う訳がないのだ。

 ここは一旦逃げて、作戦を練り直す他ない。


「くっ……この、分からず屋!!」


 悔しさをぶつけるように吐き捨てて、劉氏はひらりと身を翻した。

 後ろにあった扉に、一目散に走り寄る。


  鍵がかかっていないかと心配したが、その必要はなかった。


 なぜなら、劉氏の手がその扉に届くことはなかったのだから。

 生前、袁紹は自分に自信が持てず劉氏の言いなりになってしまっていました。

 しかし、死後の悪夢の旅路が袁紹を強く変えていったのです。


 そうして強くなった袁紹は、自分を本心では蔑んでいた劉氏にリベンジしに来ました。もちろん劉氏は袁紹がなぜ変わったのかを知りません。

 袁紹は今度こそ劉氏に勝ち、卑しい血をひいた我が子の無念を晴らせるでしょうか。

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