魔石のつぶやき
ここシルヴァンテスでは、魔術師が日常的に魔石を使う。
魔石の中には妖精がいて、魔術発動の際に効果を高めたり、魔術師の足りない魔力を補ったりしている。
今までは、魔術師と魔石の協力関係はうまくいっていた。
しかし近頃、魔石の中の妖精の存在が忘れられ、魔術師は自分の魔術を過信して、魔石の力を軽視するようになってきた。
そんなある日のことだ。
魔石保管庫の中で、魔石の中の妖精たちが文句を言っていた。
「最近、魔術師たちの魔石の使い方が荒い」
「そーだ、そーだ! 魔力が回復する間もなく、すぐ次の仕事に引っ張り出される!」
「おかげで、この前なんか魔石が熱を出しちゃったぞ!」
「我々のことをただの魔力源だと思っているのだ! もう少し魔石の福利厚生を考えろー!」
「いつまでも大人しく言うことを聞いているからいけないのだ!」
「我々も抗議の姿勢を示さないといけない!仕事は放棄しよう!」
盛り上がってきた妖精たちは、今までのうっ憤をぶちまけた。
どのように魔術師たちに抗議するかで、夜通し議論が続けられた結果、
すべての仕事を拒否することになった。
魔石界初のストライキである。
夜が明けて魔石を使おうと魔術師がやってきた。
「今日は、ダンジョンに向かうから飛行の補助に風の魔石を使うかな」
などと言いながら、魔石保管庫の魔石を取ろうとして……手が止まった。
なんとすべての魔石が固まって、ボール状になっている。
風の魔石を探そうにも、魔石の塊のどこにあるのかわからない。
赤い魔石やら、青い魔石やらごっちゃになって、カラフルで派手な魔石の塊がそこに鎮座している。
これでは、魔石が使えない。
こんなに大きなボールを持って飛行することはできないのだ。
慌てて魔術師は、上司に報告に行った。
呼ばれた上司も初めてのことにどう対応してよいか、わからず困惑している。
「こんなことは、初めてだ。どうしたらいい……
そうだ、魔石師を呼べ!」
魔石師とは、魔石の加工、メンテナンスなどを行う者である。
呼ばれた魔石師たちも、どうしたらよいかわからなかった。
魔石に魔力を充填したり、見つかった新しい魔石を加工したりはするけれど、
こんなふうに塊になった魔石は見たことがない。
塊から一つ一つの魔石を分離させることはできなかった。
どの魔石師もお手上げだった。
一方、魔石の中の妖精たちも困っていた。
勢いに任せて皆で固まって、ストライキをしてみたものの、要求を伝えるすべがなかった。
妖精の言葉がわかるものがいなくなって久しい。
呼ばれてやってきた魔石師たちも妖精のことなど忘れていて、魔石が結合した物体を前に皆困惑するばかりである。
魔石が光ってアピールしても気が付かない。
「一致団結とか言って、固まってみたが、この先どうすればいいのだ?」
「仕事放棄はしてみたものの、どうやって我々の要求を伝えるのだ!」
「だれか魔術師どもに要求を伝えられないのか!」
「しばらくこのまま様子を見るしかない。我々がいないと困るのは、魔術師だ。
そのうち機嫌を取りに来るんじゃないか?」
「いつまで待てばよいのだ?」
妖精たちも失敗に気が付いた。要求を伝えなければ、ストライキにならない。
主だった魔石師たちがどうにもできなかったので、駆け出しの魔石師であるセイディにまで声がかかった。
セイディは、独り立ちしたばかりの新米魔石師だ。
それでも魔石師だった祖母の教えに従い、魔石を大切に扱ってきた。
『魔石の中には、妖精がいるのよ。そのおかげで魔術師は魔術がうまく使えるの。だから私たち魔石師も魔石を大事にしないとね。そうじゃないと、きっと妖精が怒ってしまうわよ』
もちろんセイディも妖精の言葉はわからないが、魔石の機嫌のようなものはわかるのだ。
機嫌のよい魔石は、ピカピカと光るし、機嫌が悪いと、どよーんとして輝きも少ない。
その程度のことはわかるものの、呼び出しを受けて魔石保管庫に来たセイディは途方に暮れた。
魔石の塊は初めて見た。他の魔石師と同じようにどうしたらよいか、わからない。
しかし途方に暮れていたのは、セイディだけでなく、魔石の妖精たちもだ。
彼らは、少しは通じるかもとピカピカ光って、意思疎通を試みていた。
魔石の必死のアピールに、セイディは気づいた。
「もしかしてこの魔石、私に何か伝えたがっている?」
魔石は、『そうそう』と言うようにさらに光を増した。
ピカピカどころじゃない、ピカピカピカーッという光り方だ。
セイディは恐る恐る聞いてみた。
「魔石の妖精様、『はい』なら一回、『いいえ』なら三回光ってくれますか?」
早速魔石が光る。ピカ。
セイディは再び魔石に話しかける。
「それでは、妖精様。今度は『いいえ』と三回光ってください」
ピカピカピカ。
意思疎通の第一歩だ。セイディも妖精たちも嬉しくなった。
「何か伝えたいことがあるのですか?」
ピカ。
妖精たちが何かを伝えたいことはわかった。
しかしそれをどう聞き出せばよいのか、セイディは頭を抱えた。
ひとまず魔術師の責任者に報告をする。
「魔石が何かを伝えたがっている? 本当か?」
「はい。確かめました。でもその内容をどう聞き出せばよいのか、わからないのです。
今は、『はい』と『いいえ』しかわからないので」
「伝えたい内容がわからないのは、困ったな。
誰かいい案はないか?」
「文字盤を使ったらどうでしょう?」
魔術師の一人が提案する。
「ああ、あれか。そうだな。用意してくれ」
「文字盤とは?」
「文字が書いてある板だ。それを示して会話をしてみてくれ。
時間がかかるだろうが、それぐらいしか、思いつかない」
そうして用意された文字盤を持って、セイディはまた魔石保管庫へ。
魔石はピカピカ光ってセイディを歓迎する。
「やっと話が通じる奴が来た」
「でも『はい』と『いいえ』しか伝えられなくては、要求が伝えられないぞ」
「何やら板を持ってきた。あれをどう使うのだろう」
妖精たちが騒いでいるのも知らず、セイディは文字盤の準備をする。
「妖精様、これで示す言葉が合っていたら、一回光ってください。関係ない文字でしたら、光らなくて結構です」
「では、いきます」
一文字ずつ示してゆく。
あ、い、う、……『た』のところでピカと光る。
一文字ずつ試してゆくので時間がかかった。
ようやくつながった言葉は、
『待遇改善を要求する』
「なるほど。ストライキですね」
ピカ。
また一文字ずつ聞いてゆく。これまた時間がかかる。
『要求は、週に一回の休み。仕事の後の魔力補給。魔力が枯渇する前に使用をやめる。以上である』
ピカ。
早速セイディは、妖精たちの要求を魔術師たちに伝える。
「なんだって? 魔石の待遇改善? それが要求なのか?」
「そのようです。こちらに要求を書いておきました」
「うーん。できない要求ではないが、魔石が待遇改善の要求をするとは……」
「そんなにひどい使い方してたっけ?」
「魔石もキレたりするんだなぁ……気を付けよう……」
「俺たちより待遇よくない?」
魔術師の反応はさまざまである。
とにかく魔石が使えないと困るので、魔術師たちは妖精の要求をのんだ。
それほど無理な要求でもなかったからだ。
「やったぞ! 我々の要求が通った!」
「言ってみるもんだなぁ。これで少し楽になった」
「あの便利な魔石師もここで雇うよう要求しよう!」
こうしてセイディも王宮で雇ってもらえるようになった。
魔石の妖精たちは、今では好き勝手なことをセイディを通じて要求できるようになった。
三時にはおやつ代わりの魔力をよこせとか……
それを魔術師に伝えるセイディの葛藤も気にせずに。
今後の妖精たちの要求がエスカレートしないことを祈るばかりである。




