数字が正義の就職面接
「それでは面接の方、始めさせて頂きます。」
とある会社の会議室にて、面接官四人と志望者五人が座って相対する。
「私が、今回面接をさせて頂きます。田原と申します。」
ややクセのある七三分けの最年長と思しき男性の面接官が最初に自己紹介する。
「同じく穂村と申します。」
田原の右隣に座るハーフアップの若い小柄な女性面接官は、真っ直ぐと志望者たちを見つめる。
「同じく油沢と申します。」
田原の左隣に座るボブヘアーの女性面接官は、眠たそうだが気迫のある視線を志望者たちに向ける。
「同じく津張と申します。」
穂村の右隣に座る若い男性面接官は、志望者たちと同じように緊張している様子だ。
続いて志望者たちの自己紹介に移る。
「それではまずは、そちらの方から順番にお名前と出身校と前職がございましたら簡単に紹介をお願いします。ではどうぞ。」
田原が向かって右側の志望者を示す。
「はい! 光江正真と申します。真当大学法学部を卒業後、株式会社栗韻製造に入社いたしました。そこでは自社製品の営業販売を担当し、常にお客様の視点に立ちながら適正な商品の提供、そして新たな商品価値の発見を意識しながら、期待値以上の売り上げを多く記録することができました。この経験を貴社でも存分に活かしていきたいと思います。」
「ありがとうございます。営業をされていたのですね。」
「はい! 入社当初から担当していました。」
「難しい営業で期待以上の記録を多く出せるとは、なかなかのやり手で。津張さんどう思います?」
「そうですね…とても誠実なのが伝わってきますし、当社を選んでいただけるのであれば、ぜひとも一緒に働きたいですね…。」
「面接官が緊張しちゃダメだよ。」
「あっ、すいません!」
「失礼。彼、面接官初めてなものでしてね。」
「津張くん、しっかりね。」
穂村が津張の肩を叩く。
「はい! お互いに頑張りましょう!」
津張は、志望者たちと目を見合わせた。
「それでは続いての方お願いします。」
田原が光江の右隣の志望者を示す。
「はい。七家倉戸と申します。潰閉大学経営学部を卒業後、十年間フリーターとして飲食店やスーパー、コンビニエンスストアなどのアルバイトを転々といたしました。現在は無職です。多くのアルバイトで培った『瞬発力』や『決断力』を貴社でも活かしていきたいと思います。」
「ありがとうございます。フリーターを十年やられていて、今回が正社員の応募は初めてなのですか?」
「いいえ。大学卒業後、数十社に正社員として応募したのですが、全て不採用となっています。」
「数十社受けて不採用? それはとても大変でしたね。因みになぜ全て不採用となってしまったのか、原因をご自分で考えたりしましたか?」
「原因は、考えるまでもなく、SNSで炎上してしまったことです。」
面接官が一斉に「何!?」という目を七家に向ける?
「私、高校時代にアルバイトをしていたコンビニエンスストアの飲料コーナーのバックヤード側からエアガンを乱射する様子をSNS上に投稿して大炎上しました。その後、大学時代にもアルバイトをしていたイタリアンのレストランで、スパゲッティを頭の上に乗せてドレッドヘアーのようにしている姿をSNSに投稿してこちらも大炎上しました。それが就職試験に大きく影響し、新卒での就職の道を絶たれてしまった経緯がございます。」
光江ら他の志望者たちも鳥肌が立つような驚きを感じている。
田原の七家への目が鋭いものになる。
「SNSに職場での不適切な行為の様子を投稿したわけですね。それで就職不可能となり、フリーターとしてアルバイトを転々としたと。因みにフリーター時代は、特にそういった不適切行為はされていませんか?」
「いいえ。学生時代以上に不適切行為を繰り返して参りました。」
その場の全員が一斉に七家に大きく見開いた目を向ける。
「ピザ店のアルバイトではピザ生地にスパンコールを練り込んでキラキラのピザを作ったり、アイスクリーム店のアルバイトではアイスをバーナーで全て液状化させ、回転寿司店でのアルバイトでは、タッチパネルメニューの選択項目を全て『ミニたこ焼き』にしました。」
(救えねぇ…)
津張が心の中で呟く。
「七家さん、なぜあなたはその様な行為を繰り返してしまうのですか?」
尚も田原の質問が続いた。それは追及にも見える。
「それは『挑戦心』が僕の『自制心』を食べてしまうからだと思います。」
「『挑戦心』が『自制心』を食べる?」
(ヤバイやつが隣にいる…)
光江は七家に恐怖心を抱き始める。
「『自制心』が咀嚼され、消化されてしまう音が聞こえた時、僕の手は自然と投稿ボタンに引き寄せられます。しかしそれが私の『瞬発力』や『決断力』に、"光"を与えているのだと思います。まさに光合成です。」
((土ごと踏まれろよコイツ!!))
光江と津張の七家への拒絶心が頂点に達する。
「七家さん、あなたのそういった行為が社会にどれだけの影響を与えるのか、ご自覚されていますか?」
真っ直ぐな目で七家に問いかける田原。
「はい。タンポポの種のように広く拡散され、遠い場所に根付いてしまいます。」
「それらの行為で培った『瞬発力』や『決断力』は社会で通用すると思いますか?」
「私は通用すると信じています!」
((なんで目がキラキラしてんだよ…))
七家の純真な悪意から感じるおどろおどろしさに押し潰されそうな光江と津張。
田原がここで七家へ最後の質問を投げかける。
「七家さん、それらの投稿で得たインプレッション数を覚えていますか?」
「はい。最高で987万、最低で506万、平均は772万です。」
田原と七家の視線がぶつかり合う。室内は沈黙に包まれる。
「………素晴らしい数字をお持ちで。当社での活躍、期待しています。」
「「は!?」」
突拍子もない言葉に思わず声が出る光江と津張。
「これほどの方がいれば、我が社は安泰ですね。」
破滅に向かうとしか思えない期待を口にする穂村。
「え?え?」
もちろん困惑する津張。
「ありがとうございます!」
「何が?」
人が過ちを褒められて感謝する異常な光景にもちろん絶句する光江。
「それでは続いて…」
「ちょっと待ってください! 田原さん!」
平然と次へ行こうとする田原を身を乗り出して止める津張。
「なんだい?」
「なんだいって…あの人の話ちゃんと聞きました?」
「もちろん。」
「それで、採用に傾いたんですか?」
「そうだよ?」
「気は確かですか?」
「もう、津張くん! 面接の後にしな!」
穂村が津張を着席させる。
「穂村さんまで…」
ほのかに憧れを抱いていた穂村に恐れを抱く津張。
「それでは気を取り直して、続いての方お願いします。」
田原が七家の右隣の志望者を示す。
「はい。吉倉家郎と申します。株提大学法学部を先月中退し、就職活動を開始しました。中退となってしまったものの、大学時代には日本全国を飛び回り、中々できない貴重な体験や刺激のある出来事をたくさん経験してきました。貴社ではそれらで培った『行動力』を存分に活かしていきたいと思います。」
「ありがとうございます。大学を中退されているとのことですね。ちなみになぜ大学を中退されてしまったのでしょうか?」
「はい。SNSで炎上してしまったことです。」
光江と津張がピクリと動く。
「吉倉さんもSNSで炎上されていると。一体、吉倉さんは何をされて炎上したのですか?」
「私は主に飲食店の調味料やセルフサービスのコーナーで遊ぶ様子を投稿していました。」
「飲食店での不適切行為ですね。それがもとで大学に居づらくなり、中退したということですか?」
「いいえ。自分の秘められた可能性を生かせなくなると思ったためです。」
((何言ってんだコイツ…))
カッコ悪いことをしているヤツがカッコ良いことを言っている様子が滑稽すぎて逆に笑えない光江と津張。
「自分に秘められた可能性とは一体なんですか?」
「私は飲食店での不適切行為を繰り返しながらあらゆる楽しみ方を模索してきました。例えば卓上調味料で鼻うがいをする行為。調味料によって鼻の中が爽快になったり不快になったりして、毎回どちらになるか…というスリルを楽しむことができます。そしてドリンクバーの機械に洗剤を入れる行為。洗剤が出るボタンは一つ、果たして洗剤を口にしてしまうのは誰だ…というのを見物する、自分が上の世界に回った感覚が味わえる遊びもいくつも生み出しました。」
(倫理観に恨みでもあるのかよ…)
溢れ出そうな感情を必死で抑える光江。
「そういったアイデアの捻り出しを繰り返すことで、私は新たな物事を創り出す『創造力』を育てることが出来ました。」
(想いを巡らす『想像力』は殺したみたいだな…)
無表情に吉倉を見つめる津張。
「吉倉さん、あなたが育てたその『創造力』は、社会で役立たせることが出来るとお思いですか?」
田原が追求するような表情を向ける。
「もちろんです。私の『創造力』は、今までにない価値を生み出し、周囲の人たちを感動させてきました。」
((悪い意味でな))
無表情の光江と津張。
「たくさん批判の声もありましたが、それくらいに影響力があるということだと思っています。」
((天才的な発想力だ!))
心の中で笑う光江と津張。
吉倉の言葉を受け取った田原は最後の質問をする。
「相当に自信がおありのようですね。しかしながら本当に影響力があるのかどうかは、ご自信の感覚だけでは不明確です。影響力があるという具体的なエビデンスはございますか?」
「はい。SNSでのインプレッションは最高764万、最低304万、平均は578万です。」
「素晴らしい! 当社での活躍を期待しています。」
「なんでですか!」
思わず津張が立ち上がる。
「津張くん! どうしたの!?」
穂村が津張の袖を掴む。
「どうしたのじゃないですよ! あの人とんでもない事してるんですよ!? さっきもそうですよ! バイト中の不適切行為に飲食店での迷惑行為! そしてそれを常習的に繰り返している上、美談のように語っている! 反省の色が何もない! そんな人に一体どんな魅力を感じるんですか!?」
「津張くん…」
田原が静かに顔を向ける。
「今の時代はね、"数字"が命なんだよ。」
「"数字"?」
「今、人や物事の価値を決めるのは"数字"。SNSでのフォロワーやインプレッションの多さが人の序列を決めている。だから今、世間はとにかく"数字"を欲している。"数字"がどれだけの力を持っているか、君もインターネットに触れていればわかるはずだ。そして七家さんや吉倉さんのエピソードを思い返してみてください。この現代において非常に合理的な生存戦略だ。」
田原の言葉に穂村と油沢も頷く。
「……その"数字"に伴う"人間性"が無ければいけないと思います…。」
津張は先輩たちに戦慄しながら訴えた。
「"人間性"ですか…数字で測ることができない非効率な項目ですね。」
「そんな…田原さん…」
「せわしく動いている社会で効率的に成果をあげることが大事ですよ。」
「それでも、傲慢な態度で活躍している人なんて数が稼げてもいつかボロが出て崩壊します! 光江さん! 光江さんもそう思いますよね!?」
今のところ唯一まともな経歴を持つ光江の声を求める。
「あ…はい! 私もそう思います。瞬間的に注目を集めるよりも、より長く人々からの信頼や期待を保てる人の方が、時間が掛かってもより良い栄光を掴めるはずです! それにこのお二人がしているのは、単なる犯罪行為です!」
「他の志望者を貶める行為はおやめくださーい。」
油沢が淡々と制する。
正当な主張が潰され唖然とする津張と光江。
「油沢さんは、この人たちになんとも思わないんですか?」
津張は、先ほどからあまり発言がない油沢に問う。
「めちゃくちゃ思うことあるよ?」
「油沢さん…ですよね!」
津張と光江はこの日初めての安心感を得る。
「七家さんは、経営学部を出ているのに従業員として経営を潰すような行為に走っている。吉倉さんは、法学部を出ているのにも拘わらず法を犯す行為を楽しんでいる。インプットに対するアウトプットが著しく相反している。」
「その通りです! この二人、おかしいんですよ! 採用するのはあり得な…」
「でも! そのギャップがなんか魅力的。」
「はぁ~…」
倒れこむように椅子に腰を落とす津張。光江は虚ろげな目をしながら俯いた。
「津張くん、これが今の社会だよ。」
津張の肩を叩く穂村。
「受け入れられないっすよ!」
先輩たちに顔を背ける津張。
「まあまあ。気を取り直して。それでは次の方お願いします。」
田原が吉倉の右隣の志望者を示す。
「はい。西山広発と申します。暴砲大学情報学部を卒業後、情報商材系の事業を始め、投資や恋愛などに役立つ数多くの情報を販売し、数億円規模の売り上げを達成することができました。現在はそれに加えてインターネット上で世の中の悪事や有名人の裏の顔を公開していく活動をしています。これらの経験を活かして貴社の内部を徹底的に統制しクリーンな社内環境を実現しつつ、利益向上に貢献していきたいと思います。」
((開き直ってるぅ!?))
焦燥感と嫌悪感を抑えながらその場で耐え忍ぶ光江と津張。
「情報商材のビジネスをされていたのですね。若くしてビジネスを始めて成功するなんてすばらしいですね。」
(頼む田原さん、こんなやつに踊らされないでくれ…)
届かぬ願いを祈る津張。
「情報商材に目を付けるなんて時代を読む力がおありですね。」
(穂村さん…そんな人だと思わなかったよ…)
穂村への憧れが儚く消えていく津張。
「現在は世の中の悪事や有名人の裏の顔を公開しているとのことですが、具体的にはどういった悪事や裏の顔を公開してきたのでしょうか?」
田原の顔はほのかに笑みを浮かべている。
「特に反響があったものとしては、某俳優がキャバクラで何人ものキャバ嬢にジャイアントスイングをしているということ、そして某インフルエンサーが運営しているブランドの商品開発にその某インフルエンサーが一切関わっていないということ。これらを公開した時はインプレッションが破竹の勢いで伸び、アフェリエイト収益も過去最大規模になりました。」
「やはり芸能人とインフルエンサーの闇は、なによりも人々の注目を集めるわけですね。犠牲は伴いますがとても効率的な"数字"の稼ぎ方だと思います。」
(闇に魅了されている…)
欲望が渦巻く空間で生気のない眼をしている光江。
「因みにその某俳優と某インフルエンサーの具体名は…」
「そちらは有料コンテンツになりますので、ここでは答えかねます。」
「ここに来てさらに利益という"数字"に執着している…彼は逸材だ…。」
(地獄だ…この世の地獄だ…)
絶望に打ちひしがれている津張。
「それでは、破竹の勢いで伸びたインプレッション数はいかほど?」
「某俳優の件は1009万、某インフルエンサーの件は889万です。」
「素晴らしい! 当社でもそれくらいの"数字"を得られるように精進をお願いします!」
目を輝かせる田原に思わず津張が立ち上がって反論する。
「待ってください! こんな人雇ったら、我が社の内部事情を全部暴露されますよ!」
「津張くん、我が社が何かやましいことをしているとでも?」
「あっ、そういうわけでは…」
胸をつんざくような田原の目に狼狽する津張。
「ちょっと! 津張くん! あなた今日なんか様子おかしいよ? どうしたの?」
津張の元憧れの人である穂村が津張の肩に手を添えて宥める。
「おかしいのはみなさんですよ!!」
穂村を手を振り払う津張。
「さっきから数字数字数字…なにが"数字が大事"ですか! 数字のために常識や倫理を捨てるなんてあり得ないです! 世の中には稼ぎの程度とかインプレッションやフォロワーの数では測れない良さもたくさんあります! 人となりや芸術とかの才能、諦めない努力…これは数字が取れなくとも素晴らしい価値を持っています! 数字だけで人の格を決めるのはやめましょうよ! 序列をつけるのはやめましょうよ! 数字は今の時代、ものすごい魔力を持っているとは思います。でもそれだけに魅了されて人を判断するのは、どんなに数字を持っている人がやっていようが真似できません! 数字だけじゃなくて、本人が実際に何をやったか、その数字を得るまでにどんな道を歩んできたか、その人の本質を評価するのが正当じゃないんですか!!」
津張の言葉は無表情の田原や油沢の心にはなかなか届いていない。
「光江さん! あなたもそう思うでしょ!?」
唯一、数字に惑わされていない志望者の光江にもバトンを渡す。
「は、はい! 僕も数字だけが評価基準になっているのはおかしいと思います。SNSをやっていなくても、表に立っていなくても、スポットライトが当たらないところでも、自分の信じることを突き詰めて、大衆からの注目なんか求めず、近くの人の役に立って数字には表せない素晴らしいものを積み重ねている人もいます。先ほどから聞いているように、周囲に迷惑をかけたり、他人を貶めたりして注目を集めるなんて、それは自分が幸せになることですか? それを見ている人も幸せになるんですか? そんな方法で集めたインプレッションは、詐欺や強盗で稼いだ金と同じようなものではないですか? そんな数字だけで人を崇め奉るなんて、自分の役割に誇りをもって人を幸せにしている人たちへの冒涜です!!」
面接官たちに"数字"に対抗する意志を真っ直ぐに向ける津張と光江。
二人の思いがこだまし、静寂に包まれる中、田原は静かに一枚の書類に目をやる。
「確かに数字というのはそこまで重要ではなさそうですね。」
「田原さん…」
何かが動いたように感じた津張。
「本当に重要ではないと光江さんはお思いのようですね。」
「わかって…いただけましたか…?」
奇跡的な光景を目の当たりにしたかのような光江。
「ええ。わかりますよ。あなたの出身校を見れば。」
「「は?」」
呆気にとられる津張と光江。
「光江さんの出身校は…あー確かに光江さんにとって数字は重要ではないようですね~。」
「そ、そんなことは…」
「光江さん! 負けるな!」
情熱の狼煙をなんとか持ちこたえさせようとする津張。
「数字は無くても情熱はある。確かに数字なんて関係ないですね~。まあまあ、情熱と真心に偏…おっと数字は関係ないようですね~私も見習いたかったです~。」
「…光栄です。」
「光江さぁぁぁぁぁぁぁん!!」
死にゆく戦友を呼び起こすかのごとき津張。その時、別の誰かの絶叫もこだまする。
「アキャーーーーーーーーーー!!」
西山の右隣、最後の志望者の女性が立ち上がり、奇声を上げた。
「私の番はァ! 私の番はまだですかァァァァァ!!」
「おっと、お待たせしてしまい大変失礼いたしました。それにしても声が大きいですね。」
一同が突然の事態に驚く中、田原は冷静に対話を続ける。
「はい! 小鞠マキ!私の特技は!大きな声で!叫ぶことです!!!」
「ここで一芸採用を狙ってきましたか! 良いですねぇ。まさしく数字が命の今の世の中を鋭く捉えた判断です!」
「私は広い場所で自分の声を響かせる活動をしています! 駅、公園、デパート、舞台が多岐に渡ります! そしてもちろんSNSでも発表しています! 平均インプレッションは900です!!」
「素晴らしい! あなたには『爆発力』がある! 無論採用です!」
「ありがとうございまぁぁぁす!!!」
小鞠の喜びの声が響く。
「待ってください! 私の『瞬発力』と『決断力』も負けてはいません! ほら!」
七家が立ち上がると、スーツの内ポケットから防犯用カラーボールを取り出し、窓へと投げた。オレンジ色の塗料が飛び散る。
「私も!『行動力』と『創造力』は、この中の誰にも負けません!」
吉倉も立ち上がり、天井にあるエアコンを起動させ、面接官に風が最大風力で吹くように調整する。あまりの冷たさと風圧に思わず穂村、油沢、津張は立ち上がって移動する。吉倉はエアコンの操作盤を巧みに操って逃げる三人を追いかけるように強風の風向きを移動させる。
「良いですね~! みなさん! 勢いがありますよ! これは数字を稼げますよ!」
強力な涼風をものともせず席に着きながら天を仰ぐ田原。
「アァァァァァァァ!! あの風を吹き返すほどの奇声を!! ワキャァァァァァァァ!!!」
自ら正面から風に当たりに行く小鞠。
「田原さん! 私、貴社の広告塔になっている超大物美人女優の黒い裏の顔を知っているのですが、お聞きになりますか?」
西山が身を乗り出して田原に顔を近づける。
「何!? うちの広告塔が…? ぜひお願いします。違約金による特別利益が期待できます…。」
ニヤニヤしながら西山の話に耳を傾ける田原。
津張は強風から逃げて光江のそばに駆け寄った。
光江は混乱状態の周囲を見渡して呟く。
「決めた、僕はもう社会をやめてインターネットで独自の世界を広げます。」
大荒れの中で光江が静かに立ち上がった。
「光江さん…私も社会を捨てて役者にでもなろうかな…。」
津張も荒れ果てた社会の縮図を見て諦観する。
"数字"に取り憑かれた者たちを差し置いて光江と津張の二人は強い"意志"と共に立ち去って行った。




