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最終章あらすじ(ネタバレ注意)

【起 ― 死は終わりではなく、引き金だった】


アダソン夫妻の死は、終幕ではなかった。

それは、二十五年間止まらずに回り続けていた世界が、

初めて自分自身の重さに気づいた瞬間だった。


夫妻がいなくなった直後、世界は奇妙な静けさに包まれる。

暴動は起きない。即時の混乱もない。

だが、世界中に点在するサイバーサイジング社・百二十五の支社で、

ほぼ同時に、同じ異変が起き始める。


入館カードが更新されない。

承認キーが失効する。

署名は存在するが、判断者がいない。


誰も追放されていないにもかかわらず、

数十万人の社員が、ある朝突然「会社に入れなくなる」。


封鎖されたのは、建物ではなかった。

封鎖されたのは、判断そのものだった。


アメリカ本社は完全に閉鎖され、

森に囲まれたその敷地は、

もはや企業施設ではなく、

人格に依存しきった文明の墓標のように沈黙する。


この時点で、世界はまだ理解していなかった。

これは金融危機ではない。

これは技術事故でも、単なるテロ事件でもない。


これは、人類が

「考えなくてよかった世界」を

完成させてしまった結果だった。



【承 ― 国際破産手続き】


兄弟は、サイバーサイジング社に対し、

国際破産手続きを提出する。


それは逃亡ではなかった。

これ以上、世界の基盤を

無責任に延命させないための、

唯一の遮断だった。


だがその決断を合図に、

混乱はさらに拡大する。


リーマン・ショックを超える規模で、

サイバーサイジング・ショックは連鎖を始める。


誰も壊そうとしなかった。

誰も逃げていなかった。

それでも、世界は止まった。


このとき兄弟は、理解してしまう。


この世界は、

「次に渡してはいけない形」になっている、と。


だから彼らは、破壊を選ばなかった。

復讐もしなかった。


彼らが選んだのは、拒否だった。


考えない世界。

依存する世界。

正しさを人格に預ける世界。


そのままでは、

「次の世界樹」を渡せないと、

心の底から理解してしまった結果だった。



【転(制度化) ― 壊れた後に生まれた法律】


やがて世界は、

遅すぎる学習に辿り着く。


もし、あのとき。

夫妻が「まだ早い」と言わず、

制度を先に置いていたなら。


だが当時の判断は、間違っていなかった。

合理だった。

善意だった。

世界は、確かに回っていた。


だからこそ、

その正しさは永遠だと

信じられてしまった。


だが正しさには、期限がある。

期限切れの正しさは、

最も静かに、

最も残酷に世界を縛る。


責任を引き受けたことそのものが、

未来の逃げ道を消していた。


それは過ちではない。

だが、不可逆だった。


サイバーサイジング社は、制度で動いていなかった。

人で動いていた。

しかも、たった二人で。


取締役会は存在していた。

倫理委員会も、法務部も、形式上は整えられていた。

だがそれらは、

「止めるための機構」ではなかった。


夫妻が生きている限り、

止める必要がなかったからだ。


彼ら自身が、

常にブレーキであり、

例外であり、

最終判断だった。


だが制度は死なない。

人は、死ぬ。


その瞬間、世界中で同時に起きたのは、


判断できない。

決裁できない。

止められない。

修理できない。

問い合わせ先すら存在しない。


誰も経験したことのない、

全面的停止だった。


電力、通信、交通、医療、金融。

サイバーサイジング社の技術は、

すでに世界の基盤そのものだった。


それが、一斉に止まる。


人々は、ようやく理解する。


自分たちは

「便利だった」のではない。

「考えなくてよかった」だけだったのだと。


説明書も理論も、技術文書も残っている。

だが二十五年間、

判断を誰かに預け続けた世界には、

「押していいかどうか」を

決める力そのものが残っていなかった。


この混乱は、後に

一つの名前で呼ばれる。


――サイバーサイジングショック。


サイバーサイジングショックの最中、

世界は象徴を必要とした。


混乱の説明ではなく、

感情の着地点を。


そして、

世界はここで、ようやく自覚する。


人格に依存する企業は、

その人格を消費し、保存し、神話化し、

最終的には

制度の代わりに人を犠牲にするのだと。


サイバーサイジングショック以降、

世界各国はほぼ同時に、

同種の法律を制定し始める。


代表取締役社長挨拶の画像と文章は、

個人崇拝を防ぐため、

制度文書としての規格化が義務付けられる。


経営者の発信は、

思想・倫理・感情を直接語ることを禁じられ、

職務としての範囲に

厳密に制限される。


代表取締役社長の活動そのものも、

象徴として市場や社会に

影響を与えすぎないための

行動規制法によって縛られる。


人は、もう神になってはいけない。

企業は、人の人格を信仰してはいけない。


だがそれらはすべて、

壊れた後に作られた柵だった。



【結 ― 正しさには、期限がある】


この一連の崩壊と制度化の中で、

アダソン兄弟の人生は、

完全に逸れていく。


夫妻の死後、世界は説明を欲しがる。

原因を。

責任を。

顔を。


その矢印が向かった先が、

アダソン兄弟だった。


彼らは守られる立場から、

疑われる立場へと

一気に押し出される。


「なぜ止めなかったのか」

「なぜ引き継がなかったのか」

「なぜ、そこにいなかったのか」


答えようのない問いが、

責任の形をした刃となって降り注ぐ。


やがて兄弟は、

“後継者”ではなく、

**“責任を負わされた者”**として

記憶され始める。


会社に誰一人として

出入りできない状態が続く中で、

残された選択肢は、

一つしかなかった。


夫妻は国葬で送られる。

だがそれは、追悼ではなかった。

偶像化の完成だった。


生前から使われ続けていた

代表取締役社長挨拶の公式画像。


若さを保ち、

穏やかに微笑む二人の姿は、

更新されることなく、

世界中の端末に固定されていく。


老いない。

変わらない。

判断を誤らない。


夫妻は、人間であることをやめさせられ、

「永遠に正しい経営者」という

バービーのような像へと加工されていった。


それが重大な人権侵害であったと

理解されるのは、

さらに後のことになる。


そして――


兄・ジェイムズは、

守る者から切る者へと

永久に配置され、

制度だけを信じる

冷たい合理の側に立つ。


弟・マックは、

現場と感情と混乱のすべてを引き受け、

世界を理解するために

自らを壊していく。


そして二人は、

もはやサイバーサイジング社の後継ではなく、

全く別の思想と構造を持つ組織――

AIIBSOを創立する。


それは再建ではない。

復讐でもない。


二度と、

人格に世界を預けないための、

冷酷な拒否の結晶だった。


この章は結論ではない。

これは、戻れなくなった地点だ。


暗殺が起き、

入れなくなり、

破産し、

ショックが起き、

偶像が完成し、

法律が生まれ、

人生が逸れた。


すべては、

「制度を人に任せた」ことの、

現実でも起こりうる帰結だった。


物語は、この不可逆点を越えて、

いよいよ最終章へ進む。


――正しさは、誰に預けられるのか。

――そして、その代償を、誰が支払うのか。


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