8-8 エリック・サーティーンは、サイバーサイジング社のことを――あまりにも、よく知りすぎていた。
社内の意思決定の流れ。
どの部署が何を担当し、どこで情報が滞り、誰の判断が最終的に通るのか。
警備体制の癖。
リムジンの運行時間。
「例外」として扱われている日常の動線。
そして何より――
アダソン夫妻が、どこまでを「人の判断」に任せ、どこからを「制度」に委ねようとしていたか。
それを、彼は理解していた。
いや、理解しようとしていた、というより、執着するほど観察していたと言った方が近い。
彼は“外側から眺めた者”ではない。
会社の内部構造を、自分のものにするように読み解いていた。
だからこそ、意思決定の癖も、情報が滞る場所も、誰の判断が最後に通るのかも――不自然なほど正確に把握していた。
その背景には、彼自身の仕事があった。
スマートサーティーン社の工場では、印刷機そのものは複数メーカー製だった。
だが、工程管理・進捗制御・承認フロー――
それらを束ねていたのは、サイバーサイジング社製のシステムだった。
✔ 基幹システム
✔ 制御ソフト
✔ 管理・承認フロー
それらはすべて、サイバーサイジング社の設計思想の上にあった。
重要なのは、そこだった。
エリックは、機械を支配したかったわけではない。
彼が欲しかったのは、「判断の流れ」だった。
印刷業務、梱包・発送業務、経理・売上管理の完全自動化――
彼の言う“自動化”とは、機械化のことではない。
❌ 印刷機をすべてサイバーサイジング社製にすること
⭕ 意思決定のルートを一本化すること
彼が求めていたのは、
・どの機械を使うか → 問題ではない
・誰が判断するか → そこがすべて
という世界だった。
だからこそ、彼は知っていた。
・制度化が進めば、自分の意見は通らなくなること
・兄弟への継承が完了すれば、交渉の余地は消えること
・そして、夫妻が“最後の緩衝材”であること
彼にとって夫妻は、尊敬の対象であると同時に、最後に説得できる存在でもあった。
だからこそ、彼は「交渉」という形を取った。
だがそれは、対話ではなかった。
彼の言葉は、次第に強さを帯びていった。
理解を求める口調ではなく、
正しさを押し通す口調へと変わっていった。
その時点で、彼の中ではすでに――
「譲る」という選択肢が消えかけていた。
それは対話ではなく、“自分の考えが正しいと証明される未来”を要求する言葉だった。
制度とは、誰かの正しさを保証しない。
だからこそ、彼は制度を嫌った。
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