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アダソン夫妻という制度―― 早過ぎた正しさが世界を止めるまで 正しさが制度になる前に崩れる世界を描く、人権と文明の批評思想SF  作者: マック アダソン
第4章(上) 25年後の終わりを選んだ夜――アダソン夫妻暗殺事件 〜サイバーサイジング・ショックは、ここから始まった〜
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4.両親の死を知ったアダソン兄弟

挿絵(By みてみん)


アダソン宮殿附属医療棟の廊下で、兄のジェイムズと弟のマックは並んで座っていた。秒針の音だけがやけに大きく響いていた。向かい合っていたわけでもない。言葉も交わしていない。ただ、同じ方向を見ていた。それは処置室の扉だった。ジェイムズは「待つ」という行為の中で、すでに何かを悟り始めていた。マックはまだ、悟ることすら拒んでいた。


やがて白衣の医師が一人、静かに姿を現した。走らない。慌てない。しかし目を合わせようとしない。その瞬間、ジェイムズのほうが先に理解した。理解したというより、理解してしまった。マックは、まだ分かっていなかった。


「……お待たせしました」

「できる限りの処置を行いました」

その“間”が異様に長かった。

「しかし――」


医師の声が、ほんのわずかに揺れた。医師は深く一度だけ頭を下げた。


「ご両親は……お亡くなりになりました」


マックの口がわずかに開いた。声にはならなかった。音だけが喉から落ちた。ジェイムズは何も言わなかった。ただ視線を床に落としたまま動かなかった。動かなかったのではない。動くと壊れると分かっていたからだ。


医師は続けた。

「到着時にはすでに心肺の活動は確認できませんでした」

「損傷が非常に大きく、医学的に助けることは不可能な状態でした」


マックの中で音が消え、世界が遠くなり、自分の身体が軽くなったような感覚だけが残った。自分が座っているのか立っているのかさえ曖昧だった。ジェイムズは泣かない。声を出さない。視線も上げない。ただ、拳だけがゆっくりと握られていった。握った指先に力が入っているのを、本人だけが気づいていないようだった。


そのあと、兄弟は短い通路を案内され、別の扉の前で立ち止まった。中から聞こえるのは、マイクの調整音と、ざわめきだった。世界中の記者が集められ、会見の準備が進んでいた。ジェイムズは扉を見たまま、そこへ入るという発想をしなかった。マックは扉を見ていたが、そこに何があるのか理解できていなかった。兄弟はそこに入らなかった。入る権利がないのではなく、入れる状態ではなかった。代わりに、医師が扉の向こうへ消えていく背中だけを、二人は同じように見送った。


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