4.両親の死を知ったアダソン兄弟
アダソン宮殿附属医療棟の廊下で、兄のジェイムズと弟のマックは並んで座っていた。秒針の音だけがやけに大きく響いていた。向かい合っていたわけでもない。言葉も交わしていない。ただ、同じ方向を見ていた。それは処置室の扉だった。ジェイムズは「待つ」という行為の中で、すでに何かを悟り始めていた。マックはまだ、悟ることすら拒んでいた。
やがて白衣の医師が一人、静かに姿を現した。走らない。慌てない。しかし目を合わせようとしない。その瞬間、ジェイムズのほうが先に理解した。理解したというより、理解してしまった。マックは、まだ分かっていなかった。
「……お待たせしました」
「できる限りの処置を行いました」
その“間”が異様に長かった。
「しかし――」
医師の声が、ほんのわずかに揺れた。医師は深く一度だけ頭を下げた。
「ご両親は……お亡くなりになりました」
マックの口がわずかに開いた。声にはならなかった。音だけが喉から落ちた。ジェイムズは何も言わなかった。ただ視線を床に落としたまま動かなかった。動かなかったのではない。動くと壊れると分かっていたからだ。
医師は続けた。
「到着時にはすでに心肺の活動は確認できませんでした」
「損傷が非常に大きく、医学的に助けることは不可能な状態でした」
マックの中で音が消え、世界が遠くなり、自分の身体が軽くなったような感覚だけが残った。自分が座っているのか立っているのかさえ曖昧だった。ジェイムズは泣かない。声を出さない。視線も上げない。ただ、拳だけがゆっくりと握られていった。握った指先に力が入っているのを、本人だけが気づいていないようだった。
そのあと、兄弟は短い通路を案内され、別の扉の前で立ち止まった。中から聞こえるのは、マイクの調整音と、ざわめきだった。世界中の記者が集められ、会見の準備が進んでいた。ジェイムズは扉を見たまま、そこへ入るという発想をしなかった。マックは扉を見ていたが、そこに何があるのか理解できていなかった。兄弟はそこに入らなかった。入る権利がないのではなく、入れる状態ではなかった。代わりに、医師が扉の向こうへ消えていく背中だけを、二人は同じように見送った。
⸻




