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1.親子の最後の会話

――そして、物語は第4章へ進む。


第4章 25年後の終わりを選んだ夜――アダソン夫妻暗殺事件

〜サイバーサイジング・ショックは、ここから始まった〜


――なぜ、彼は引き金を引いたのか。

エリック・サーティーンという男と、サイバーサイジング崩壊の起点。


25年後。

それは、突然訪れた悲劇ではなかった。

ましてや、衝動や狂気だけで説明できる出来事でもない。


あらゆる選択が、あらゆる判断が、静かに、しかし確実に積み重なった末に、

――そこへ至るしかなかった夜だった。


この夜に起きた出来事は、単なる暗殺ではない。象徴と構造を同時に破壊するための出来事だった。


それは、象徴を失わせるための殺害であり、意味を奪うための暴力であり、

そして――

企業という存在そのものを揺さぶるために仕組まれた、象徴破壊型の企業テロ事件だった。


後にそれは、「サイバーサイジング・ショック」と呼ばれる。


だがその本質は、爆発でも、混乱でも、恐怖でもない。


企業という“器”の中身を奪い取る、象徴的・心理的・社会的ハイジャック。


すなわち――

経営者という象徴を狙い、企業の意味そのものを乗っ取る、企業ハイジャック型テロ事件だった。


誰かが突発的に引き金を引いたのではない。世界そのものが、そこへ向かう構造を選び続けていたのだ。


だが、その夜までは、誰もそれを“悲劇”だとは思っていなかった。


むしろ、すべては静かで、穏やかで、祝福にすら包まれていた。


この章で語られるのは、英雄の最期でも、悪の暴走でもない。


「正しさ」を疑わなかった人々が、どのようにして取り返しのつかない地点へ辿り着いたのか。


そして、なぜその引き金を引いたのが、エリック・サーティーンという男だったのか。


――その答えは、

この夜の出来事の中に、すべて記されている。

挿絵(By みてみん)


そして――25年後。


アダソン夫妻の息子であるアダソン兄弟は、両親に大切に育てられ、何不自由なく幸せに成長していた。


兄のジェイムズは30歳。

弟のマックは28歳。


二人は、わずか2歳違いの兄弟だった。

かつて幼かった彼らは、今や、次の時代を担う後継者となっていた。



一方で、夫妻もまた、50代半ばから後半に差しかかっていた。

しかし、その姿は、年齢を感じさせなかった。

FBI時代から身についた習慣のために、日々の所作にも、身体にも、わずかな隙もなく20〜30代の若さを無意識に保っていた。

まるで、時だけが彼らを追い越せずにいるかのようだった。



そして――

運命の7月13日、金曜日。


その日、アダソン夫妻は、いつもと同じようにアダソン宮殿を出た。

特別な予定ではなかった。

警備も、厳重な警戒もなかった。



ただ一つだけ、いつもと違うことがあった。


その日は、アダソン兄弟だけが、アダソン宮殿で有給休暇を取っていた。

本来なら、事件が起きたその夜は、家族で食卓を囲み、祝いの時間になるはずだった。


後継準備のために、夫妻(両親)はアダソン兄弟に、国際諜報機関AIIBSOを創立させる指示をしていた。

創立は、もう1〜3週間後の予定だった。

昨年の25周年会見で、アダソン兄弟が自分たちの言葉で「引き継ぎたい」と語ったあの瞬間を、夫妻は確かに見ていた。

子供が成長した、と。

ようやく、次の章へ進める、と。


だからこそ、その朝は、静かで、普通で、そして――何も疑う理由がなかった。


その朝、サイバーサイジング社のアメリカ本社に出勤する夫妻を見送るため、アダソン兄弟はレッドカーペットが敷かれた正面入り口広場にいた。

正門には、自家用の黒のリムジンカーと運転手が控えていた。


母親のアラクネアはアダソン兄弟に優しく声をかけた。

「ジェイムズ、マック。行ってくるよ」


「うん。いってらっしゃい、パパ、ママ」


「今日は二人ともお休みなんでしょう? ゆっくりしなさい」

と父親のアレックスが言った。


「パパ、わかった。マックと一緒に宮殿で過ごすよ」


「せっかくの休みだもの。仕事のことは忘れてね」

アラクネアは少し照れたように笑った。


「うん」


「ジェイムズ、マック」


「……?」


「ジェイムズもマックも、本当によく育ってくれた」

と父親は少し微笑んで話した。


「私たちの誇りよ」

と母親も微笑んだ。


「パパありがとう」


「ママもありがとう」

とアダソン兄弟は続けて話した。


「今夜、帰ったら少し早いけれど、AIIBSOの創立を祝おうか」


「家族でね」


「うん」


「楽しみにしてる」


「気をつけてね、パパ、ママ」


「いってらっしゃい」


そうして会話を交わし、夫妻は頷き、リムジンに乗り込んだ。

そしてリムジンカーのドアが閉まり、車が動き出した。


アダソン兄弟は、夫妻が乗ったリムジンカーに手を振ってからリムジンカーが門を出て見えなくなるまで、そこに立っていた。


しかし、夫妻も兄弟も誰もが、この日が親子の最後の会話になるとは思っていなかった。

このとき、誰も知らなかった。

これが、最後の会話になることを。


その夜――

悲劇が始まる。

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