14.なぜITだったのか――国家の外で守るということ
FBIで得た知見は、危険な刃にも、守る盾にもなる。
その扱い方を誤れば、国家の外で最も安い“権力”――情報の優位――に変わってしまう。
だから二人は、まず思想を整理した。
情報セキュリティとは、何を守ることなのか。
何を守るために、何を捨てるのか。
そして何より、利益と倫理が衝突したとき、どちらを優先するのか。
アラクネアはノートを開き、言葉を削っていく。
情緒を落とし、誤解の余地を消し、極端なほど明確な文にしていく。
アレックスはその隣で、現実の運用を考える。理念を掲げるだけでは企業は成立しない。
企業向けITサービスとして成立させるための事業モデルと収益構造――それを“正しく稼ぐ形”に設計しなければならなかった。
彼らが選んだのが、ITだった。
理由は単純で、そして冷酷だった。
国家の中だけでは、技術と情報は守りきれない時代が来る。
境界は薄れ、攻撃は国家の外から来る。
企業が、民間が、自分の情報とシステムを守れないなら、国家を守るという言葉は空洞になる。
「国家を守る」ことが初めて具体的な顔を持ったのは、子どもを抱いた瞬間だった。
「この世界は、この子たちが生きる場所だ」
その言葉が、いまは別の意味を持っている。
“この子たちの世界”は、官の内側だけでは守れない。
だから、民間へ移植する。
国家レベルの情報倫理を、企業の現場へ移植する。
それは転職ではなく、移植だった。
ただし――民間は、国家よりも誘惑が多い。
金の匂いが近く、妥協が早く、合理化が正義として通る。
だからこそ、倫理指針が必要だった。
会社を作る前に、柵を作る必要があった。
そしてその柵は、守るために作られたにもかかわらず、
いつか「外へ出る方法」そのものを奪うことになる。




