12.昼間の食卓――嘘をつかない説明
数日後。昼間の明るい時間。食卓には、いつも通りの料理が並んでいた。特別な日ではない。だからこそ、この場が選ばれた。
アラクネアがゆっくりと口を開く。
「パパとママはね、もうすぐお仕事を変えるの」
ジェイムズはすぐに反応した。
「どうして?」
マックは言葉は出さないが、母親の顔をじっと見ている。
アレックスは急がずに答えた。
「世界を、もっと安全にするためだよ」
ジェイムズは少し考えてから言う。
「じゃあ、FBIじゃなくなるの?」
「そうだね。でも、守るのをやめるわけじゃない」
アレックスは声を低く、穏やかに続けた。
「悪い人になるわけでも、弱くなるわけでもない。やり方を変えるだけだ」
ジェイムズは完全には理解していない。けれど、FBIに憧れていた分、胸の奥で小さな反発が跳ねた。
「なんで?」が、もう一度言いたくて、言えない。
その代わり、彼は食器を持つ手に少しだけ力を入れた。
マックは椅子の上で足を揺らしながら、ぽつりと聞いた。
「おうち、かえる?」
アラクネアはすぐに答えた。
「帰るわ。いつもと同じよ」
それが、子どもたちにとっていちばん大事な情報だった。食卓に不安や焦りは持ち込まれなかった。嘘をつかず、しかし恐怖も与えない。それが二人が選んだ伝え方だった。
そしてその静かな伝え方は、二人の思想そのものだった。
組織の論理より、人の生活を見る。
数字や成果より、誰かの人生の輪郭を見る。
だからこそ、ここまで来た。




