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6.翌朝――何も変わっていない朝
翌朝、目覚めると世界は驚くほどいつも通りだった。カーテン越しの光、コーヒーの匂い、廊下を走る子どもたちの足音。夜明け前に帰宅したはずなのに、何一つ変わっていないように見える。
アレックスはいつも通りスーツに袖を通し、アラクネアは書類の入ったバッグを肩に掛ける。二人とも、FBIを辞めると決めた翌日であっても出勤した。
まだ、辞めていない。辞表も、存在していない。決断と行動のあいだには、時間が必要だった。
そして、その時間は子育てとぶつかる。
帰宅が遅い朝、子どもは言葉にできない形で親を探す。
夫婦はその視線を、仕事より痛いものとして受け取る。
“国家を守る”という抽象が、“子どもを眠らせる時間に間に合うか”という具体へ落ちてくる。
この感覚がのちに、会社の文化そのものになる。




