4.午前四時、アダソン宮殿の門前
再び高速道路を走り、フィラデルフィア郊外に入る頃、空がわずかに白み始める。信号は点滅に切り替わり、街は眠ったままだ。
長い並木道の奥、重厚な門の前で車を減速させ、エンジンを切る。時計は午前四時前後。そこにあるのはアダソン宮殿だった。代々続く家族の歴史が積み重なった場所であり、子どもたちが眠る「帰る場所」だった。
窓に明かりはない。屋敷は暗く、静かに呼吸している。
この夜、ジェイムズとマックを寝かしつけていたのは、長年アダソン家に仕えてきた使用人――ハウスキーパーであり、ナニーのような存在だった。子どもたちはいつも通りの時間に絵本を読んでもらい、「今日はパパとママ、遅くなるけど朝はいるわよ」と伝えられて、安心して眠っている。家は静かに機能していた。親が遅く帰っても揺らがないように、子どもの夜を守る仕組みが、そこで淡々と働いていた。
車の中で、アラクネアが屋敷を見上げて言う。
「……ここに帰ってくると、肩書きが全部、置いていかれる気がするわね」
アレックスは答えた。
「だから、ここで決められたんだと思う」
FBIの会議室ではなく、国家の建物でもなく、“家の前”で決断が確定した。二人はすぐには車を降りなかった。眠る子どもたちを起こさないように。最後に、もう一度だけ確認する。
「後悔しない?」
「しないわ。あなたは?」
「……しない」
それが、FBIを辞める決断の最終確認だった。




