19.二度目の家族写真(スーツと、二人の子)
マックが生まれて間もないころ。
夫妻は再び、家族写真を撮ることを選ぶ。
場所は、前回と同じ。
アダソン宮殿の奥にある、専用の写真スタジオ。
宮殿の中にありながら、そこは控えめだった。
装飾は少なく、背景は白すぎない。
光は、主張せず、記録のためだけに置かれている。
ジェイムズのときも、ここで撮った。
同じ場所。
同じ構図。
同じ距離感。
変わったのは、腕の中の重さだけだ。
カメラを構えるのは、前回と同じ使用人カメラマン。
代々この家に仕え、
「写る人間が、無理をしない瞬間」だけを切り取る人だった。
「前回と、同じでよろしいですね」
その一言に、説明は含まれていない。
記録の連続性を、当然のものとして扱っている。
夫妻は頷く。
この日も、衣装は華やかではない。
FBI当時の職場のスーツ。
仕事のための服。
生活の中で着ていた、現実の服。
ジェイムズは二歳。
前回より、少し背が伸びた。
照れたようにしながらも、誇らしげだ。
マックは、眠っている。
小さな呼吸が、母の腕の中で規則正しく続く。
撮影前。
ジェイムズが、ためらいながら言う。
「ぼく……だっこ、する?」
アレックスはしゃがんで、目線を合わせる。
「抱っこは、まだ難しい。
でも——手は、繋げる」
ジェイムズは少し考えてから、頷く。
そして、父の指を握る。
小さな手。
だが、その手があることで、
写真の中の配置が完成する。
アラクネアは、マックを抱いたまま、
スーツの袖口に視線を落とす。
布の硬さ。
縫い目の感触。
現場の時間を、身体が覚えている。
彼女は、小さく言った。
「……私たち、まだここにいるんですね」
アレックスは、視線を正面に向けたまま答える。
「いる。
でも、考え始めてる」
「同じです」
それだけで、十分だった。
言葉を足す必要はない。
シャッターが切られる。
音は最小限。
フラッシュも、強くない。
光は、押しつけずに残る。
ジェイムズは父の手を離さない。
マックは目を覚まさない。
アラクネアは、動かない。
その一瞬が、そのまま記録になる。
後になって、夫妻はこの写真を見返すことになる。
——ジェイムズのときも、ここで撮った。
——同じ服で、同じ構図で。
——違うのは、守る対象が増えたことだけ。
この写真は、誇示ではない。
記念でもない。
“決断の前の証拠”だった。
——ここまでやった。
——ここまで守った。
——だから、次を考えていい。
そう言ってくれる、
静かな証拠だった。




