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15.FBIのスーツで撮る家族写真(“見せられる範囲だけ”)
出産から間もない頃。
夫妻は、FBI当時の職場のスーツ姿で、ジェイムズとの家族写真を撮る。
理由は単純ではない。
誇示でもない。
彼らの“生活の現実”の記録だった。
——仕事と家族が、同じ時間の中にある。
——そのことを、忘れないため。
撮影の前。
アラクネアがスーツの襟を整えながら言う。
「……変ですね。
母親なのに、職場の服で」
アレックスがネクタイを結び直しながら言う。
「変じゃない。
今の僕たちそのものだ」
「でも……ジェイムズに、後で見せたら」
「見せるのは、銃でも事件でもない。
“姿勢”だけだ。
僕たちが、守るために働いていたってこと」
彼女は頷く。
その“守る”は、もう抽象じゃない。
腕の中にある重さになっている。
撮影の瞬間。
ジェイムズは眠っている。
小さな呼吸が、写真の中心にある。
アラクネアは思う。
——この子が大きくなったら、
私たちは、どこで働いているだろう。
その問いは、まだ答えにならない。
ただ、静かに芽だけが出る。




