26/93
6.赤い薔薇のブーケと花婿のタキシード
ドレスを着終えたとき、使用人がブーケを運んできた。赤い薔薇。彼女が好きな色。彼女が机の隅で育て始めた、あの“急がせても咲かない時間”の色。
アラクネアはブーケを受け取った。香りが先に胸に入る。赤い薔薇の香りは、言葉より確実だった。
彼女は思った。
——私はこの花を、誰かに“見せるため”に持つんじゃない。守るために持つ。
ブーケのリボンは深い赤。結び目がきっちりしている。適当に結ばれたものではない。アレックスの“段取り”の匂いがした。
一方アレックスは紺のタキシードに身を包んでいた。華美ではない。だが線が正確で、無駄がない。
彼の同僚が言った。
「……お前、そんな顔できたんだな」
アレックスは短く答える。
「仕事じゃないからだ」
冗談ではない。彼は本当にそう思っている。
胸元には、赤とオレンジの薔薇の小さなブートニア。情熱と、信頼。
二つの色は、これから先の象徴になる。まだ会社は存在しない。だが未来は、もうここに置かれていた。




