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8.アダソン宮殿(守るための場所)

アダソン宮殿にも行った。

家主である彼が、ほとんど使っていない場所。


彼女が想像していた“宮殿”とは違った。

煌びやかさより、静けさが先に来る。

広すぎる廊下は音を吸い、窓から入る光は柔らかい。

誰かが住むためというより、何かを守るために存在している建物だった。


「……誰もいないみたい」


「普段は、ほとんど誰も入らない」


「なのに、どうして……私を?」


彼は少しだけ足を止め、窓の外――庭の薔薇の列を見た。


「ここは、使うためじゃない。守るための場所だ」


彼女は歩きながら、その意味を考えた。

守る、という言葉が、彼にとってどういう重さを持つのか。


回廊の先で、彼は庭に続く扉を開けた。

そこには、赤とオレンジの薔薇が、風に揺れていた。


それはまだ彼らが会社の象徴色を持つより前のことなのに、

まるで未来が先に置かれているようだった。


彼女が薔薇に近づくと、彼は少し離れた場所で立ち止まった。

手を伸ばして触れろとも言わない。

説明もしない。

ただ、彼女がそこにいることを許した。


彼女は、心の中で確信した。


この人は、私を変えない。

私の孤独を“直すべきもの”にしない。

ただ、同じ場所に立つ。


それが、恋だった


挿絵(By みてみん)

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