3、子どもたちの護り
丁重にモノセロス子爵家の応接室に通されたエズメとヒルダ、そしてオシアンは、無事に子爵と、幼い兄妹に面会することが出来た。
トーマス第二隊長が、モノセロス子爵に予め、オシアンが連合帝国の公爵位を持っていることを伝えていたからだ。
エズメは勿論、オシアンの主であるヒルダでさえもオシアンが連合帝国の公爵だと知って、大いに驚いていた。
だのに何故、トーマス第二隊長は知っていたのか。
エズメは本人に尋ねたが「タレイアから聞いた」としか返ってこなかった。
タレイアとは一体何者なのか、少々気になるエズメとヒルダだったが、オシアンが「邪悪なモノの気配ではない」と言うので、深く考えないことにした。
さて、アリコーン伯爵の遺児たちだが、兄は幼いながらも堂々と振る舞い、次期伯爵であることを示す「アルミラージ男爵」という儀礼称号を名乗った。妹は まだあどけない様子で、グラディスと名乗った。
憔悴しきった様子のモノセロス子爵が言った。
「今月中に、私の孫であるアルミラージ卿が新たなアリコーン伯爵となることが決定しました。とはいえ、私はあのような惨劇の起きたグリードル屋敷に、孫たちを戻したくはないのです」
「御心中、お察しする」
オシアンが頷き、穏やかな表情で兄妹を見た。
「如何に御兄妹が妖精の愛し子であっても、小さな妖精らでは歯が立たない相手も多いはず。我々が、新たなアリコーン卿と令妹に一日も早く安心してお過ごし頂けるよう、力をお貸ししよう」
子爵は少しの間、軽く目を瞠った。初対面のオシアンが、兄妹を護る妖精たちの存在に気付いたことに驚いたのだろう。しかし、相手がただならぬ存在であることを思い出したのか、すぐに表情を戻した。
「オシアン公にそう仰って頂き、心強い限りです」
子爵がそう言うと、アルミラージ卿もオシアンに一礼した。
「どうか、よろしくお願いいたします」
祖父と兄に倣わねばならないと思ったのか、グラディスも、たどたどしく膝折礼をしてみせた。
* *
「あの兄妹についていた妖精たちは『害虫が湧いた、奴らの仕業』と言っていたわね」
エズメは、兄妹には事件の詳細を尋ねなかった。
事件当時について、彼らは子ども部屋にいたので何も知らないと話し、オシアンがそれを真実と判定したからだ。ならば、問い質すのは幼い二人の心の負担になるばかりで無意味。
代わりにエズメが話を聞いた相手は、幼い二人の周りにいた、妖精たちだった。
害虫と聞いて、ヒルダが心底嫌そうに顔を顰めた。
「……妖精たちが害虫と呼ぶ奴らと言ったら、例の、忌々しいゴのつく奴らか?」
「ゴブリンに決まっているでしょう」
エズメが断言すると、ヒルダの目から輝きが失せた。そんなヒルダを、オシアンは訝しげに見つめた。
「ゴブリンは邪悪だが、さして強くはない者どもだ。それなのに、君が苦手そうにするのは意外だな」
ヒルダは、思い出したくもないという顔で答えた。
「自分でもどういうわけか分からないんだが、見るだけで嫌悪感が抑えきれなくなるんだ。……何というか、その、ものすごく、気持ち悪い」
エズメは頷き、ヒルダを落ち着かせるように、その肩をトントンと軽く叩いた。
「あれが好きという人間は皆無でしょうけれど、あれに対するヒルダの反応は激し過ぎるのよ」
エズメは知っていた。ヒルダには、ゴブリンが大量発生した屋敷の中で槌矛を振り回し、屋敷のドアや壁、床まで穴だらけにした前科があることを。それ以来、聖騎士団本部におけるヒルダの異名は「女狂戦士」となった。
「それは一旦措くとして、妖精たちが口にしていた『子どもたちの護りを置いて来た』というのが良く分からないわね」
実は、オシアンは連合帝国の何代目かの皇帝の即位に大いに貢献したことから、連合帝国の爵位を持っています。だから、王様なのにオシアン「公」なのです。名前と爵位名が同じなのはご愛嬌ですが。




