1、グリードル屋敷の惨劇
くろくまくん様から頂いたリクエスト「エズメとヒルダの旧大陸でのお話」にお応えして、新作を始めました。くろくまくん様、ありがとうございます。
旧大陸の西端、ライオネル半島をを本拠地とする連合帝国。北部連邦や南の大陸を中心とするメガラニカ連邦の宗主国でもあるこの帝国が、女帝ブリジット一世の元で黄金期を迎えていた頃の話である。
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アリコーン伯爵を当主とするグリードル家は、炎竜湾西岸に広がるアリコーン伯爵領内に邸宅を構えていた。そのグリードル屋敷で、幼い子どもたちを除く伯爵の家族と使用人たちが全員死亡するという事件が発生したのは、炎竜湾を挟んで東側に広がる大国、レグザゴーヌで開催された第三回万国博覧会から二年後の、万聖節前夜のことだった。
事件から二日後の朝。八歳になる家政婦長の息子が異変に気付き、邸宅の外に出て助けを求めたことから事件が発覚した。
伯爵夫妻の間に生まれた七歳の長男と五歳の長女は、子ども部屋にいたところを警察官たちによって無事に発見された。どちらも事件に巻き込まれた様子はなく、衰弱はしていたものの命に別状はなかった。万聖節前夜ということで大量に与えられた菓子を部屋に持ち込んでいたことが幸いしたらしい。彼らは部屋に誰も来てくれないので、菓子を少しずつ食べて空腹をしのいでいたと語った。とはいえ、家政婦長の息子が邸宅から脱出しなかったら、脱水症状を起こして危なかったかもしれない。
万聖節前夜、この地方では例年、嵐の王が妖精たちを引き連れて大規模な悪霊狩りを行うために、大嵐となる。一部の伝承によれば、嵐の王がこの時期に大嵐を起こすのは、炎竜湾の海水を大きく波立たせ、湾の底に眠る深紅の炎竜がその上に堆積していく泥で窒息しないようにするためだとも言われている。それが本当かどうかは分からない。
分かっているのは、例年通りの、歩行さえままならない悪天候の中、大嵐に備えて厳重に戸締まりをしたグリードル屋敷に外部からの侵入者があったとは考えにくいということだった。
屋敷の隅々まで確認した警察官たちは、あまりの惨状に目を覆いたくなったという。被害者たちには皆、致命傷の他に防御創があった。それぞれの利き手には凶器となり得るあらゆる物が握られ、血で汚れていた……。
「これはまるで、屋敷中の大人たちが一人残らず殺し合いをしたようじゃないか――」
だがしかし、どうしてそのような事が起きたのか。警察は著名な探偵小説家に書簡を送り、意見を求めた。
探偵小説家は書簡でこう返答した。
――帝都に駐屯する聖騎士団第二隊の力を借りるべきだ。この事件にはおそらく、人間ではない存在が関わっている!
「そういうわけで、ヒルダ・フォスター君とエズメ・ロイド君の二人には、アリコーン伯爵領のグリードル屋敷で起こった事件を捜査してほしい」
聖騎士団第二隊長ドミニク・トーマスからそう命じられた時、ヒルダは少し面食らったようだった。
「私たち二人だけですか?」
トーマス第二隊長は、喜怒哀楽の読み取れない顔を崩すことなく答えた。
「人手が足りないのだよ。使い魔持ち二人を向こうに送るのさえ本当は痛いところだが、かの有名なブレンダン・オブライエン先生からのご指名だ」
エズメは眉を寄せた。
「トーマス第二隊長。私は現在、使い魔持ちではありません」
しかし、トーマス第二隊長は眉一つ動かすこともなかった。
「それなら、ロイド君は向こうで良き魔物を見つけて契約して来ると良い。幸い、あの地方は帝都と違って、まだ魔力に満ちている。ここにいるよりは良き魔物と巡り会える可能性が高いだろう」
「もし人員が必要になった場合は、追加で送ってくださるのですよね?」
エズメがそう確認すると、トーマス第二隊長はこう答えた。
「おそらく、そういうことにはなるまいよ。タレイアが……僕の使い魔が、そう言っているからね」
新たな登場人物、ドミニク・トーマス第二隊長。年齢はヒルダたちより五歳上で、とにかく表情に乏しい男性です。使い魔の正体は、まだ秘密です。




