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こうして企業の属人化問題は進行する

 “企業の属人化問題”。

 簡単に言ってしまえば、ある仕事が少数の担当者以外には分からなくなってしまう状態を言う。当然ながら、その担当者が何らかの理由で仕事ができない状態に陥ってしまった場合、下手すれば業務の続行が不可能になってしまうので大いに問題なのだ。

 僕は、まぁ、情報技術業界で働いているのだけど、偶に「担当者がいなくなったので、アプリの運行が不可能なった」なんて話を聞いたりもする。こういう状態に陥らないようにする為には、運行資料を充実させたり、チームで仕事をする体制を作ったりといった工夫が必要なのだけど、ぶっちゃけこれが中々に難しい。

 何故なら……

 

 僕の仕事は属人化している。

 僕しかできない仕事が山とある状態だ。その切っ掛けは上司が人事異動で他の部署に移ってしまった事だった。そうなると当然ながら、他の部署から別の上司がやって来る事になるのだけど、その人に大いに問題があったのだった(因みに、僕は外注社員なので基本的に異動はない)。

 「俺、仕事やりたくないから覚えない」

 仕事を教えようとした時、その人はそう言った。僕は思わず唖然としてしまった。なにしろメールだとかチャットだとか証拠が残るやり取りでは『精進します』といった殊勝な返答をして来ていたから。情報技術職は当たり前だけど、それ相応のスキルが求められる訳で、スキルがない人が尻込みするのはある程度は仕方ないにしても、まったくやる気を見せないのは流石にどうかと思う。比較的簡単にできる仕事も中にはあるのだし。

 そして、この上司のやる気のない態度は、非常に困った事態でもあったのだった。

 僕の担当しているシステムは合計で3つもあり、しかもほぼ年中無休で24時間稼働している(その内の一つは、予算規模が大きい)。もし、何らかのトラブルが起こったら対応しなくてはならない。

 そして、対応できるのは僕だけ。

 とどのつまりは、僕は年中無休、24時間体制で軽く拘束されてしまう事になる。しかも名目上の担当者は上司と別の社員の二人で、だから当然手当も何も貰っていない。

 もしかしなくても、何らかの法律に違反していると思う。

 更に、問題は僕の待遇だけじゃない。

 「あの…… もし、僕がコロナ19に罹ったりしたらどうするつもりですか?」

 コロナ19が流行していた時期に、僕はそう上司に訴えた。ところが上司はそれに何も応えなかった。

 そう。

 僕が仕事ができない状態に陥ってしまったなら、システムの運行に支障が生じてしまうのである。こんなの企業全体にとっても大問題だろう(因みに、けっこうな規模のシステムである)。

 そして、結局上司は何ら対策は執らなかったのだった。

 僕はあきれ果ててしまった。

 (幸い、毒性が強い時期のコロナ19には僕は罹らなかった)

 

 ――ただ、それから状況に変化が起こったのだ。

 

 ある時、システムの運行に別の会社が関わる事が発表された(仮のその会社の名前をAとしておこう)。

 その会社が一緒にシステム運行をやってくれるというのだ。或いは、上層部は属人化の問題を理解していたのかもしれない。

 もっとも、不安点もあった。何故か“運行に必要なスキル”を全く訊かれなかったのだ。質問をしてみたら、「全体的な連絡事項として伝えてある」との事だった(上の人間達が、必要なスキルを全て把握しているとは思えなかったのだけど)。

 何にせよ、A社の人がやって来て運行に参加するようになった。しかしどうにもおかしい。ソースが読めるのなら簡単にこなせるような仕事ができない。不安に思った僕はその人にこう尋ねてみた。

 「あの…… Java(プログラミング言語の一種です)は読めますか?」

 その人はあっさりとこう答えた。

 「いえ、読めませんが」

 僕が愕然となったのは言うまでもない。これじゃトラブル対応なんてできるはずがない!

 そして、結局、僕が24時間年中無休のトラブル対応を一人でし続ける事になったのだった。

 

 上司の分の仕事を僕がやるのはまだメリットがあるような気がしないでもない。恩が売れているのだから(問題は、上司にほとんど感謝している素振りがない点だ)。でも、協同運行の会社の人の分に関してはメリットがあるようには思えない。

 “何をやっているのだろう?”

 と、僕は思っていた。

 

 ――ところがだ。そこからまた事態は急変してしまったのだった。

 

 「A社が撤退する?」

 

 数ヶ月で早々とA社が協同運行から撤退する事が決まった。詳しくは書かないけど、色々と準備はして来た訳で、“何なんだ、この茶番は?”と思わず言ってしまいそうになった(もっとも、一部の人は残るみたいだけど)。

 理由はシンプルで、A社があまりに仕事ができなかったからだ。例えば、僕なら3時間で終わる仕事に3日もかけ、大きなミスまであった。更にリーダー層が担当者に仕事を丸投げしていて、進捗管理すらしていない。「分からなかったら質問してください」と言ってあったのに、何も質問して来ない。僕が管理をやってしまえば良いのだけど、別会社だから指示系統が異なっていてそれもできない。話を聞いてみると、他のチームでもこれと大差ない状態であるらしかった。

 これで運行が任せられるはずがない。契約解除になるは当然だろう。

 

 そして、まぁ、元の木阿弥、前とほぼ同じ状態になった…… と思っていたのだけど、どうもそれも違うようなのだった。

 

 「追加で2システムの運行をお願いします」

 

 ある日、上司からそう言われた。

 僕は目が点になってしまった。

 しかも、「引継ぎは?」と訊いてみたら、「ないです」との事。

 僕は首を傾げた。いくらなんでも酷すぎやしないだろうか? なんで、突然そんな事になっているんだ?

 それにはどうもA社が関わっているらしかった。

 まず、他の部署で、A社にその2システムの運行を引き継いだらしい。ところがその2システムを引き継いだ担当者が何らかの理由で離脱してしまった。それでA社の別の人に引き継いだのだけど、その時の引継ぎがかなりいい加減でほとんど内容を理解しないまま行われたのだとか。

 そして、ほぼ同じタイミングで、A社の撤退が決まった。A社の担当者はその2システムを理解していないので引継ぎはできない。引継ぎなしでなんとかできる人にやってもらうしかない……

 で、

 「追加で2システムの運行をお願いします」

 と、僕の所に話が回って来たらしかった。

 

 「ふざけるなぁ!」

 

 と、僕が心の中で叫んだのは言うまでもない。

 それから僕はソースを読みまくって、なんとか運行ができそうな状態にまでした。したのだけど…… 多分、難しい部分は僕にしかできない。

 つまり、仕事の属人化が更に酷くなってしまったのだった。

 

 権力を持った人がやりたがらなかったり、そもそも能力的な問題だったりで、一部のある程度は仕事ができる真面目な人に仕事を押し付ける。

 人の弱さとも直結しそうな、人間の性質上の問題点。こうして企業の属人化問題は進行する。

 

 ……せめて契約金くらいはもっとアップして欲しいなぁ。

 と言うか、契約金を上げないで済んでいるから問題を放置しているのかもしれない。

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