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2.庶民的な公爵令嬢。







 そんなこんなで、アタシとシルヴィアは王都立魔法学園の中庭に足を運んでいた。芝生の上にシートを敷くと、彼女は嬉しそうに手に持っていたバスケットを開き始める。中から出てくるのは、どれもその手で作ったのであろう料理ばかりだった。

 サンドイッチのような洋風なものもあるが、シルヴィアの得意とするのは大衆受けする料理。いうなれば田舎のお母さんが帰省した子供に作るような、温かみのあるものだった。原作の中でもその腕前はいかんなく発揮されており、攻略対象によっては胃袋を掴む展開もある。



「さあ、お座りください。エレオノーラ様!」

「え、えぇ……」



 鼻の奥をくすぐる懐かしい香り。

 そういえばアタシは生前、都心に出たっきり田舎には帰らなかった。

 仕事に一生懸命だったのもあるけれど、こんなことになるならお母さんの手料理を食べに帰省するべきだったろうか。そんなことを思いつつ、アタシは手始めにスープを口にした。すると日本の味噌に似た味わいが口いっぱいに広がって、無意識のうちに深い息をついてしまう。

 その間ずっと、シルヴィアは緊張した面持ちでアタシを見ていた。そして、



「あのー……いかがでしょう?」



 意を決したように、そう訊ねてくる。

 アタシはあえて答えずに、次は葉物を煮つけたような料理を口に運んだ。程よい甘味に、醬油に似た風味を感じる。決して濃くはないのだが、薄味というわけでもない。バランスの良い食材のの選び方に、色合いも綺麗に整っていた。

 これは設定抜きにしても、文句のつけようがない。

 そう考えて、アタシは――。



「えぇ、とても――」

「あらー? あちらの方々は何故、庶民のゴミを食べておられるのかしら?」



 素直な感想を述べて、誘ってくれたことに感謝を伝えようとした。

 そのタイミングで絵に描いたような嫌味貴族が、本来のアタシの役割を演じる。ゲームではそこまで感じなかったのだが、いざ本気で喜びを抱いたものを貶されると――。



「――もし、そちらの方?」

「なにかしら」

「貴方のお父様は、たしか伯爵でしたわね?」



 さすがに、カチンときた。

 アタシはゆっくりと立ち上がり、その女性貴族のもとへ。そして思い切り胸倉を掴みながら、口調だけは丁寧に訊ねるのだった。

 想像もしていなかったのだろう。

 その女子はあからさまに狼狽えてから、しかし意地を張ってこう言った。



「えぇ、そうよ? このような無礼、お父様に――」

「ベルケンド伯爵」

「……え?」



 だが、それを遮って。

 アタシはその貴族の名前を口にした。

 何故知っているのか。それはもちろんアタシが、設定を隅々まで網羅しているヘビーユーザーだからだった。そして彼女の父親は、国王陛下に言えないような悪事をしているのも知っている。ただ今回に限っては、もったいないのでそこは暴かないことにした。

 しかし、恐怖心は植え付けるべきだ。なので、



「申し訳ないわね、エルザ様? アタシのファミリーネームは、ルクセンブルク、と申します。以後、お見知りおきを」

「ル、ルクセンブルク……! それって、公爵家!?」

「もしよろしければ、貴方の発言を撤回してくださいませんか? 無理なら――」



 満面の笑みを浮かべて、こう告げた。



「ちょっとばかり、国からの監査が入るかもしれませんね?」――と。






「あ、あの! ありがとうございました!」

「いいえ、構わないわ。アタシは美味しい料理を貶されるのが嫌いなの」

「…………!!」



 ひと騒動終えて。

 シルヴィアのもとへ戻ると、彼女は感極まったような表情を浮かべていた。そんな彼女に感謝も込めてその言葉を贈ると、いよいよ泣き出しそうなほどに喜ぶのだ。

 その表情を見ていると、ひとまずはゆっくりしても良いだろうと思う。

 作戦を練るのは、また明日から。そう考えて、



「それじゃあ、次はそちらの揚げ物、いただける?」

「……は、はい!!」




 シルヴィアの料理を純粋に、心の底から楽しむのだった。



 


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