表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ツーリスト  作者: 七海心春


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

忘れてた

いつも気まぐれな更新にお付き合いいただきありがとうございます。


 ロラン・アグリーはなかなか進まない時間に業を煮やしていた。今日一日が非常に長い。長すぎる。


 「ロランさん、どうされたんですか?」

 「いつもより眉間の皺が深いですよ」


 オルフェウス家は公爵家ではあるものの、比較的職場環境はゆるい。ただ、従業員たちはきちんと立場を弁えているので、軽口を叩いたりすることは状況によって受け入れられていた。

 

 今もひと休憩を入れようと茶を飲んでいたのだが、敬愛する主人の息子のことが気になっていると、侍女の二人にクスッと笑われる。


 ランバルトが今日学院を休んで異世界に旅行をしていることは彼女たちは知らない。知ればきっと仕事どころではなくなるだろう。ロランのように。


 「……そろそろランバルト様のお迎えにむかいます」

 「いつもより早いですね」

 「仕事上、キリがいいので」


 キリがいいもなにも、今日は何も手についていない。だが、心配している間に1日が終わってしまった。

 

 「今朝向かった屋敷を覚えていますか」

 「はい」

 「では、そちらに」


 約束は午後六時。まだ五時を過ぎたばかりだが、心配なあまりロランは馬車に乗った。



 『ーーまだ帰ってきたないぞ』


 馬車が到着したのは、今朝も見た白い家の前だった。扉の前に立つと自動で扉が横に開く。おそるおそる足を踏み入れると、ソファーの上で精霊猫が丸くなっており、煩わしそうに片目を開けてロランを見つめた。


 「構いません。こちらで待たせてもらってよろしいでしょうか」

 『構わぬ。座って待て』


 精霊はゆっくりと体を起こして、グイーンと伸びをする。ふるりと背中を振るわせるとその場でふわっと消えた。


 「……消えた」


 いったいどこにいったのか、と気になるが彼の言う通り椅子に座らせてもらう。


 柔らか過ぎず硬過ぎない座り心地のいいソファーだ。透明の机には、色鮮やかに塗られた本がある。


 「……きょうと、なら、おきなわ、ほっかいどう…」


 知らない地名ばかりだが、これは異世界ということはわかった。ここに置いてあるということはきっと見ても構わないものだろう。


 だが、興味があるとはいえロランは誇り高き公爵家の家令だ。若干27歳という若さで王都の屋敷を任せて貰えるほど、信頼がある。その信頼を裏切るような真似をしてはいけない。


 (どこに罠があるか分かりませんからね)


 どこの家も足の引っ張り合いばかりだ。いくら異世界とはいえ、下手なことはできない。


 『お主、本は好きか?』


 そこにまた現れた精霊猫は器用に本を抱えていた。この本はとても使い込まれているものだが、綺麗に保存されていたらしい。


 「……これは?」

 『異世界、いや日本という国の歴史書だ』

 「そんな高価なものをなぜ私に?」

 『まったく高価ではないぞ。これは高校生、坊ちゃんたちの年齢の学生が学ぶ教科書だ。桜が使ったものだから書き込みがあったりするが、歴史を知るには手取り早いだろうまだ時間があるだろう? 桜がこの国の成り立ちや歴史を知れば安心して貰えるだろうと言って、お主に見せてやれとな』


 ロランはくたびれた本を受け取り、そろりとページを開く。そして、癖のない文体で印字された文字が綺麗に羅列しているのを見て、驚いた。読みやすく美しい。

 

 『興味がないなら、その辺の旅行雑誌でも見ておれ。喉が乾いたならそこのウォーターサーバーで好きに水を飲むといい』


 武蔵が顎でしゃくった先にある、不思議な魔道具。ロランはおもむろに腰を上げてその魔道具に近づいた。この部屋の仕組みや、見たことのない魔道具たち。本当はずっと気になっていた。


 『そこにある紙コップをここにセットするのだ。冷たいものが飲みたいのであれば青いボタンを温かいものならこの赤いボタンを長押ししたら出てくるぞ』

 「ウォーターサーバー、ですか」

 『いつでも綺麗で美味しい水を飲める魔道具みたいなものだ』


 この国ではこれほど手軽に水を飲めるシステムがあるようだ。ロランはコクリと喉を鳴らす。

 

 レアヌ王国では基本的に水は平民が飲むものとされている。その水も綺麗なものではないので、貧しいものが飲むという意識が一般的だ。ただし、腹を壊す可能性もあるため推奨はしない。


 ウォーターサーバーの前で悩んでいると精霊猫がロランの肩に乗った。重さを感じないのは精霊のせいか。もふもふの手がにゅっと伸びて、紙コップをさす。


 ロランは武蔵の指示に従って、コップを取り、セットする。そして青いボタンを押すとブーンと音が鳴りと振動が伝わってきた。驚いてボタンから指を離すと髪コップにぽちょっと水が落ちる。


 『手を離すのが早過ぎだな。もう少し長く押せ』

 

 今度はしっかり長くボタンを押す。すると、みるみるうちにコップの中に水が溜まった。ボタンから指を離し、コップを顔を持ち上げる。そして顔を近づけて匂いを嗅いだ。


 (ーー匂いがない)


 純度の高い透明の水。透き通り、コップの底まで丸見えだ。なにより、この紙コップとやらは手のひらまで水の冷たさを教えてくれる。


 ロランはゆっくりと紙コップに口をつけて、まずはひと口水を含んだ。そしてカッと目を見開く。


 「……冷たくて美味しい」


 口当たりのよい水だった。こんな美味しい水はなかなか飲めない。


 『もうすぐ帰ってくるだろう。土産物を探しているようだから、好きに飲んで本読んで待ってればいいさ』


 軽やかにロランの肩から降りた武蔵が、また、ソファーの上で横になる。ロランは武蔵の対面に座ると、彼の睡眠の邪魔にならないよう配慮しながら、教科書を読みつつ大切な主人を待った。


 

 ***


 「たっだいま〜。あ、ロランさん。お待たせしました」


 桜が自宅に戻ってくると、ロランが高校の日本史の教科書を広げてソファーに座っていた。彼は桜がドアから入ってくるのを見て、その後ろに立つ主人の顔を見て表情を緩める。


 「おかえりなさいませ。楽しまれたようですね」

 「あぁ」


 ランバルトは照れくささを見せながらも、表情には「楽しかった」と書いていた。それに両手いっぱいにお土産だ。また日本に来れるようにロランへの賄賂として酒やつまみ、そしてお菓子などを購入した。


 ちなみに時間のない中、ランバルトはもう一度牛丼を食べて、ペペラチーノを購入している。帰りの馬車で飲むためのお持ち帰り用だ。スコーンとドーナツは明日の朝、行きたくない学校に行く前に食べるものらしい。


 「オルフェウス様、お着替えを」

 「あ、あぁ。そうだな」

 「そのお洋服やお鞄、靴も合わせて一式はご購入で宜しかったですか?」


 スニーカーはOldBlanceの人気モデルで2万円近くするものだが、白のTシャツとデニムはウニクロでそれほど高いものではない。下着等を含めても5万円でお釣りが出るだろう。


 「あぁ」

 「でしたら白銀貨5枚いただきます」


 ランバルトはロランを見て、ロランはポケットから財布を取り出すと白銀貨5枚を取り出して桜に手渡した。


 「ありがとうございます。ちょうどですね。オルフェウス様、余ったお小遣いは換金しますか?」

 「いや。また、きた時に使うからそのままで」

 「承知しました」

 「その、この財布も買い取らせてもらえないだろうか」


 ランバルトは斜めにかけたボディバックから茶色の二つ折りの財布を出した。昼間は桜の奢りだが、夜はランバルトが自分で出すといった。お土産を購入した際、初めて自分でお金を払い楽しかったらしい。


 「……でしたら、今度いらした時、お好きなものを購入されてはいかがですか? どちらの国でも使えるものを」

 「……そうだな。そうしよう」

 (ーーよかった。さすがに公爵家の息子にじいちゃんの形見を持たせるわけにはいかないし)


 財布のことをすっかり忘れていた桜は急遽、祖父が使っていたまだ綺麗な財布をランバルトに貸した。本人は気に入ってくれたが、その財布は桜が社会人になって初めてもらった給料で購入したものだ。


 高いものではないが、桜が気に入って、祖父も気に入ってくれたもの。捨てるに捨てられず、ずっと置いているが、だからと言って他人に「どうぞ」と渡せるものではない。


 「ロランさん」


 ランバルトが服を着替えている間、桜は一枚の封筒を差し出した。ロランはそれを見てひょいと片方の眉を上げる。


 「これは?」

 「この国の技術、写真というものです。本日のオルフェウス様の様子がわかるものです。どうぞご確認ください」


 ランバルトがお土産選びに慎重になっている時に、コンビニでプリントしたものだった。

 ロランは封筒を開けて、一枚の写真を取る。


 「ほぅ」

 「ずっと驚いて笑って非常に楽しそうでした」

 「えぇ。この顔を見ればわかります」


 ロランは一枚一枚丁寧に写真を見て、封筒に戻すと胸の内側ポケットに収納した。


 「お気遣いいただきありがとうございます」

 「いえ。また安心して送り出していただきたいので」


 桜がにこにこして言うと、ロランは目を丸くしておかしそうに笑う。


 「えぇ、そうですね。こういうものがあると、ランバルト様も日常の励みになるでしょう」

 「着替えたぞ」


 ちょうど部屋から出てきた彼は、シャキッと正装していた。そして煩わしそうに顔を顰める。


 「この服に慣れてきた頃に元に戻すと余計に暑苦しいな」

 「それが普通です」

 「今度来るときは、そちらの服も持ってきてくださいね。あ、季節が変わったらまた必要なものが変わるので、ご注意を」


 秋ならまだ涼しいだろうが、冬は半袖だと寒い。


 「あぁ。近いうちにまた来る。桜殿世話になった」

 「いいえ。この度はご利用いただき誠にありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 こうして桜にとって初めてのアテンドは終了した。その夜、武蔵に「桜、手がかりは何か見つかったか?」と言われるまで、ほくほく顔だった。



お金のことを補足しておきます


白金貨=100万円

金貨1枚=10万円

白銀貨1枚=1万円

銀貨1枚=1千円

銅貨1枚=100円

鉄貨1枚=10円


ぐらいだと思ってください。

後々出てきますが、チートキャッシャーがあるので、換金できます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ