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穢れた世界の救い方  作者: 月影偽燐
3章.神域試練編
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21.追憶神アルゼルス

「『壊滅せし永痕(ヴァル・ゼーレ)』」


アルファルドは自身の負った傷を壊滅させることで腕を再生させる。


だがその行動は当然デュランが許すはずがない。


完全再生する前に拳銃の引き金を引こうとするが───


「ラァッ!」

「チィッ!」


アルファルドは再生が不完全な状態の腕で銃身ごとデュランを殴り飛ばした。


「再生、か……まあ当然だな」


デュランが吹き飛ばされたことは想定内なのか、追想のノアは冷静に状況を分析する。


そうしている内にアルファルドの再生が完了した。


万全の状態ではないとはいえ、この当時のノアを相手にするなら可能な限り全力を出せる状況にしたいというのは当然だ。


「───『黒死銃(レイヴン)』」


そして次に生成したのは擬似神装だった。


【……何となく想定はしていたが、まさかこの時代から使えたとはな】


普通神でないのなら擬似的なものとはいえ神装を生成することなど不可能だが、これほどの力があるのだ。


神格に近いものを得ていても不思議ではない。


それを見た皇帝ノアは地上に降り、その双眸でアルファルド達をしっかりと見据えた。


「そうか……最期まで戦い抜くつもりか。ならばこちらは全てを圧倒しよう。エレン、デュラン、奴の配下はお前達が相手をしろ。それ以外は退却だ」

『はッ!』


片や一人の精鋭と数百の軍勢、片や二人の精鋭と一人の皇帝。


精鋭は一騎当千の力を誇り、皇帝は精鋭を軽く滅ぼす力を持つ。


エレンとデュランがいなくともノアが勝つのは間違いない。


だが、この時代のノアはどうやら勝利することだけが目的ではないようにも見える。


【現在ではアルファルドがこの世界唯一の皇帝だった……その座を誰かから……いや、過去の時代の俺から引き継いだのだとすれば、その当時は俺がこの世界を支配していた……?】


ならば一度はアルファルドやラフィナを配下として引き入れていたのだろう。


その原因となったのが眼下で行われている戦いなのかどうかは記憶のない今のノアには不明だが、どこかのタイミングでアルファルドが配下に加わっていたはずだ。


【つまり、この時代の俺はアルファルドを引き込もうとしていた……だから滅ぼすつもりはないのか】


先程エレンに怒っていたのは二つの意味があったのだろう。


一つは許可なく命を削る魔法を使ったことについて。


もう一つは引き込もうとしているアルファルドを滅ぼそうとしたこと。


(まあどのような理由だったにせよ、ここでアルファルドが滅びることはないわけだ)


これはおおよそ2万年前の追想だ。


アルファルドやラフィナが生きていた以上、この場で滅ぼされるということはまず有り得ない。


「───『壊滅の源弾(ヴェル・ゼグナ)』ッ!」

【ッ!?】


ユキを滅ぼした黒き壊滅の魔弾が皇帝ノアに向けて放たれる。


ノアはそれを───


「───浅いな」


ノアの手に唐突に現れた謎の銀刀。


ノアはそれを一閃し、あの『壊滅の源弾(ヴェル・ゼグナ)』を一太刀のもとに斬り滅ぼした。


「───『静滅銀刀(ゼグル)』」


それは、ノアの擬似神装。


だが、追想ではない現代のノアは信じられないものを見たように絶句する。


【嘘、だろ……?あれが、擬似神装だって……?】


内包する力はユキが滅んだ後の白雪を遥かに凌駕する程。


だがそれは本来なら異常。


擬似神装が、界律神装に勝つことなどまず有り得ないのだ。


(何故、俺にこんな力がある……?)


単純な疑問だ。


ノアが内包する力は一個人が持つにはあまりにも強すぎる。


───否、仮に分散されたとしても有り得ないレベルの力だろう。


少なくとも、力を失った今のノア程度なら分散された力でも圧倒できる。


(一体何処からこの力が現れた……?)


これ程の力が意味もなく与えられたはずがない。


例えば、リオエスタは破壊神として界律神から分離されたから破壊の権能を持つ、というのは当然の話だ。


だが、ノアの持つ力が何処から来たのかは誰も……それこそ、ノアすらも知らない。


それはきっと、追想の時代のノアでさえも。


「『無の混沌(ラグデネア)』」


追想のノアは右手のみに魔法を展開し、それを圧縮させる。


(あの魔法に、あんな使い方が……)


虚無の権能を覚醒させて魔法を使えるようになったのは良いのだが、現状、ノアは殆ど手探りで魔法の解析を進めている状態だ。


今のノアは魂を中心に周囲を無に侵食させるという使い方しかできなかった。


だが……


(やはり魔法は解釈や技量次第、か……)


解ってはいたことだ。


とはいえ、自身の力の使い方を学ぶのはこれが初めてである。


だからこそ、魔法の使い方として勉強になる点はあるのだ。


「ッ!?」


そんなノアとは対照的に、アルファルドは右手に圧縮された混沌を見た瞬間に目を見開く。


「───」


混沌はノアの掌の上で更に圧縮され、最終的に灰色の球体になった。


【あれは───】


ノアにはガルヴェイムの話していた灰色の球体とは少し違うようにも思えた。


(意識がなかったとはいえ、感覚が消えたわけじゃない……あれは、間違いなく『無の混沌(ラグデネア)』ではなかった。圧縮とか、そんな次元の話じゃないはずだ)


あの力は確実に『混沌災禍(ラグナヴィア)』よりも上位のものだった。


この追想の時代のノアは、あの力を使えるのだろうか───


「───征け」


追想のノアは圧縮された『無の混沌(ラグデネア)』を、灰色の球体を、アルファルドに向けて射出する。


「『壊滅結界(ヴェルフィリア)』ァァッ!」


咄嗟にアルファルドは『晴蒼の光砲(セルト・アーレ)』を防いだ結界を展開する。


だが───


「がッ!?」


球体はアルファルドの結界をまるで初めから存在していないかのように消滅させ、アルファルドの右半身を消し飛ばした。


それだけでなく、その背後にあった山々や空さえも無に帰させ、世界に修復不可能なレベルの大穴を空ける。


「……何だ、あれは……?」

【……虚無による、世界の崩壊……その一端なんだろうな】


ただの穴ではない。


その部分だけ、世界がまるごと消えているのだ。


そこにあるのは深い深い無だ。


【『無の混沌(ラグデネア)』であの威力……当時の俺は想像以上に怪物だったみたいだな】


だからこそノアにこのレベルの力があることについての疑問はより一層深まるが……


【……まあ、それに関しては考えていても仕方ないな】


どうせ今知る術はないのだ。


「ぐぅ……ッ!」


黒死銃(レイヴン)ごと右半身を消し飛ばされたアルファルドが唸る。


痛みによるものなのか、あるいはノアのその強さにどう足掻いても勝てないと感じたためか……


どちらにせよ、決着はついたと言っても過言ではない。


「……ああ、そうだ、ノアよ」

【どうした?】


何かを思い出したように、アルゼルスが今のノアに話しかけた。


「この追想が終わった後、また別の追想が始まるのだが……私はそれを見れぬ」

【……『縁記追想』を展開しているお前でもか?】

「ああ……何せ、卿の記憶だ。表層の記憶は追えても、深層意識に眠っているものまでは見れぬよ」

【……それもそうか】


第一、ノアの魂は虚無だ。


深層を認識できないのはアルゼルスに限った話ではない。


【ここ以外の追想は俺だけで見ろってことだな】

「その通りだ……それにしても、何故卿の記憶の中でもこの場面だけが表層に現れていたのか……」


無意識にしては場面が限定的すぎる。


まあノアの虚無は無意識にすら干渉するので、ガルヴェイムの試練の時のように無意識を操作していてもおかしくはないのだが……


(……その場合、それをする意味が解らない)


当時のノアに記憶を操作する理由がないのだ。


深層意識に潜れば、その答えが見つかるのだろうか……


「選べ、アルファルド。ここで滅ぶべきではないのはお前が一番理解しているはずだ」

「……チッ……いずれ必ず貴様を滅ぼす……!」


アルファルドのその言葉を受け、ノアは───


「やってみろ───できるものならな」


ここで、この追想は終わる。


追憶の世界が音を立てて崩壊し、追想が始まる直前の空間にまで戻ってきていた。


【……ここはまだ『縁記追想』の範囲内か】

「そうだな……これから卿は己の深層と向き合ってもらうわけだが、これだけは伝えなければなるまい」


恐らくそれは最終注意事項。


最後の追想をするにあたっての最悪の場合を伝える義務が、アルゼルスにはあるのだ。


「まず一つ考えられるのは記憶の融合……これが最も望ましい展開だ。現状の卿の記憶と前世の記憶が同一化し、今の卿の人格を保ちながら前世の力も十全に使えるようになる可能性が高い……とはいっても可能性が高いだけで、記憶が融合したとしても前世の力が封印されたままの可能性もある。その場合は前世の記憶から力の使い方を理解するしかあるまい」


前世の記憶と同一化し、それに伴って力が開放されるのが最善だ。


力が解放されなかった場合も有り得るが、前世の記憶から力の使い方は完全に理解できているはず。


後は工夫次第といったところか。


「次に考えられるのはただの記憶の閲覧だな。この場合は今の卿が過去の記憶を見るだけとなり、力の解放はまず望めない。見たものを模倣する程度しかできないだろう」


記憶を完全に取り戻すわけではなく、前世の記憶の知識を身につけるだけ。


それだけでも今のノアからすれば十分な強化となるが、相手がアルファルドであることを考えれば足りないだろう。


「そして最後に最悪の場合……卿の意識が前世に侵食され、乗っ取られる可能性がある。今の卿の意識は完全に消失し、前世の力を宿した怪物が誕生する」


今のノアの意識が消えて前世に乗っ取られるだけならまだいい。


きっと前世のノアもアルファルドを止め、この世界を救うために行動するだろうから。


問題なのは───


【……力があるだけで、意識がないのか?】

「ああ……意識を失った状態というわけではなく、その状態として完成された存在が誕生してしまうのだ。つまり、無意識のままに全てを滅ぼす可能性もあるということ」


ノアの虚無は無意識すらも力の範疇。


故にそうはならないとは思われるが、これはあくまでもその可能性があるという次元の話だ。


「そんな状態は普通なら有り得ない。たとえ人格が複数あろうとも、個人は個人だ。だが卿は世界の理に縛られることはない。矛盾という致命そのものと言ってもいい。故に普通なら有り得ないことも、可能性として視野に入れておくべきであろう」

【それは……まあそうだな】


ノアの虚無はノアにすら解らない。


八神からすればそれはもう未知の領域だろう。


最悪の可能性を常に考える必要があるのは当然だ。


追想に誘われたのか、ノアの意識が遠のく。


【……行ってくる】

「ああ」


ノアは己の過去を思い出す───


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


そうして、やがて。


「───ああ」


過去を見たノアが小さく呟く。


気がつけば、ノアは最初の神域に戻ってきていた。


「そうか───だから───」


驚愕はない。


あくまでも失っていたものを取り戻しただけなのだから。


「───ノア」


アルゼルスの声がかかる。


「心配しなくてもいい。この世界での記憶はちゃんとある。前世のことも、完全に思い出した」

「では……!」


続くアルゼルスの期待には首を横に振る。


「記憶は統合され、一つになった。だが、力は変わらんな」

「……つまり」

「ああ、力の覚醒の度合いは先程と同じだ……だが、技量に関しては比ではない」


今世では持ち得なかった技量は受け継がれた。


既に使える魔法に関しては自在に操れるだろう。


少なくとも、追想にあった『無の混沌(ラグデネア)』は再現可能だ。


だが、それでも───


(それでも、俺の力の真髄───ガルヴェイムの見た灰色の球体は、俺の記憶にはなかった。つまりあれは虚無の権能を十全に使えたはずの俺すら知らないものだ。俺でも真髄を使えてなかったというのか……?)


少なくとも虚無の権能の真髄が矛盾だということは気づいていた。


それに準ずる魔法もまた、前世は使えていたのだ。


それなのに、あの球体に関する魔法や知識は何一つとしてなかった。


(……だとすれば考えられるのは深層羅神か……?あの時、俺は間違いなく人間だった。神でないのなら深層羅神を使えなかったのも当然の話だ)


だとするのなら今どうにかできる話ではない。


一刻も早く試練を終わらせて神に完全昇華するしか方法がない。


(……仕方ない。その時まで待とう。それはそれとして、もう一つ考えなければならないことがある……)


今世では一度も考えたことがなかったが、前世の知識を踏まえるのなら絶対的に考えなければならないことがあった。


(アルファルドの目的は間違いなく自身の世界を奴から取り返すこと……だがそれは実質的に不可能だ)


ユキが滅ぼされた時、アルファルドは何故逃げたかをノアに問うた。


ノアの記憶にはその事実が鮮明に残っている。


だが、ノアにはどうすることもできなかったのだ。


(ラフィナの言う通り、俺は逃げた。当時の俺でも勝てないと理解していたから。奴の背後にいる、位階を支配する存在に……)


ノアやアルファルドのいた世界は現状、その世界の神に……この世界でいう界律神のような存在に強制的に支配され、滅びの危機に瀕している。


その神が世界の在り方すらも書き換え、その影響で世界内での争いが過激化していったのが大きな要因の一つだ。


アルファルドは己の世界を神から人の手に取り返す………つまり、神を滅ぼすのが狙いなのだろう。


(そんなこと、できるのなら俺がすでにやっている。実際、奴は当時の俺よりも弱い。だが、その後ろにいる存在のせいで、動けなかったんだ……)


その神だけを滅ぼすことならできた。


「……俺の力の本質以外なら、全て解った。アルファルドの目的も、あいつの力の底も」

「……ならば、倒せるのか?」

「……正直それはまだ解らん。力までは目覚めていないんだ。使い方は解っていても、上限というものは存在する」


今でも互角に戦えるか怪しい程度の力しか出せない。


もう少しでも解放できたなら話は別だが……


「当時の俺はあの追想レベルじゃなかった。あれですら力の一端に過ぎない。今の俺はその程度の力しかない」


力は失ったのではなく、眠っているだけ。


故に何かしらの解放条件のようなものを満たせば取り戻せるはずだ。


「そうでなくとも俺がやることは変わらない」


記憶を取り戻したことで意志はより明確になる。


「アルファルドを止めてこの世界を救う……そしてあの世界も、奴の手から解放する」


その為に、更なる力を───


「───ノア、試練はこれまでだ」

「ああ、そうだな。次は終焉……地底世界に行くんだったか。そういえば、何故地底世界の情報を秘匿していたんだ?」


何もないのならノアに隠す必要もない情報のはずだ。


隠していたということは相応の理由があるはず。


少なくともノアにはアルゼルスが理由もなしに情報を秘匿するようには見えなかった。


「あそこには何もない……今は、な」

「……つまり、昔は世界にとって重要なものがあったと?」


世界にとって重要なもの……ノアの知る限り、それは霊域核しかない。


「あそこは神以外が立ち入ることが概念的に封じられている場所……そうなるように、創造神が創ったのだ。霊域核に手を出されぬように」

「……なるほどな。話が見えてきた」


界滅爪は長く、鋭い。


それでいて神の力すら滅ぼしかねないアルファルドの壊滅の権能を纏っている。


神にしか立ち入れないという概念を滅ぼし、地底深くまで爪を突き刺す───その為に開発されたのだろう。


「地底世界にある霊域核を簒奪する為に開発されたのが界滅爪だったというわけだ。そして界滅爪は目的通り、霊域核の力を三千年にかけて奪っていった……今は何もないというのは、現状残っている霊域核は神域に保管されているからか?」

「その通りだ」


それ程の場所なら情報を秘匿するのも解らなくはない。


「……とはいえ、もう霊域核はないんだ。隠す必要があったのか?」

「……その判断は私に一任されていた。故に迷ったのだ。卿を蘇らせた時、私個人の意見としては卿を信用しきることができなかった。当然、今では信頼しているが」

「そうか……」


仮にノアが邪な考えを持っていた場合、アルファルドを倒し、霊域核の全てを取り戻したとしてもその力を奪おうとする可能性がある。


ノアはそのようなことは絶対にしないが、アルゼルスからすれば未知だったのだろう。


何せ、アルゼルスは追憶の化身のようなもの。


過去の全てを記憶していても、未来のことは解らない。


……未来神であるハーティアも、ノアの未来のことは見通せなかったようだが。


「まあいい、理由は解った。一応は記憶も取り戻したわけだし、試練は終わりということでいいのか?」

「そうだな。当時の力を完全に取り戻せたら良かったのだが……そんなことを嘆いていても仕方がない。故に試練はこれで終わりだ」


その宣言をした途端にアルゼルスの身体が光に包まれた。


同時に神域にも罅が入る。


「……崩壊が早いな」


周囲を見渡し、ノアが呟く。


「……元々限界だったのだ。『縁記追想』は他人の記憶を再現するもの。私の記憶ならともかく、別のものともなれば私にも、神域にも負担は大きい」

「なるほど、神はその時点で完成された存在……力の上限は変化しないというわけだ」


これが人間なら進化もできたかもしれない。


だが神にはそれ以上というものがないのだ。


(例外はある……あの存在は、きっとその一つだ)


前世のノアは知っていた。


ノアですら届かない存在がいることに。


(元凶は奴だろう。本当なら根本を解決したいが……昔も今も、俺にできることは殆どない。ならば最低限この世界を救うためにアルファルドを……そして俺達の世界の神をどうにかしなくては)


ノアとアルファルドが世界間のパスは繋いでしまっている。


その神がこの世界に侵入するのも時間の問題だろう。


「では、ノアよ」

「ああ、解っている」

「……そうか」


それだけ聞くとアルゼルスは満足そうに頷き、光の粒子となって消えた。


同時に神域も完全に瓦解し、山脈の地下空間へと戻る。


「……次は終焉……今の限界を試すにはいい機会か」


ノアは今出せる力の限界を知るためにも、今いる場所よりも更に下……地底世界へと身を投じた。


ノアは二つの世界の為、壊滅を阻止する───


少し短いですが、3ブロックはここまでとさせていただきます

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