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穢れた世界の救い方  作者: 月影偽燐
3章.神域試練編
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20.追憶の試練

ノアは山脈の表層にある永久凍土の如き硬度を誇る氷塊を魔法も魔力も使っていない拳による一撃で破壊し、その隙間から岩盤の間を潜り抜けて山脈の地下へと下りていく。


試練開始地点は整合の試練が行われた場所である山頂の真下。


(ガルヴェイムの言葉から察するに、恐らくは地上と地底世界の中間に位置する場所だとは思うが……)


そもそも地底世界が未知数だ。


結界門による障壁に覆われていない以上、生物はまず間違いなくいないだろうが、それ以前の時代の文明もあるかもしれない。


「……何にせよ、山頂の真下を辿っていくしかないか」


岩の隙間から地下へと通り抜けること数時間。


オルテア山脈そのものの高度をそのままひっくり返した程の深さの場所で、ノアはそれを見つけた。


神域特有の光だ。


「随分と深部に……だがまあこれで、追憶の試練を受けられるな」


この試練が今後の戦いをを大きく左右すると言っても過言ではない。


記憶を取り戻せば力の使い方も解るはずだ。


アルファルドを止めるには間違いなく戦闘に勝たなくてはならない。


三千年も計画を進めてきたのだ。そんなアルファルドが今更話し合いで止められるわけがない。


だがそれを為すには今のノアでは弱すぎる。


たとえ『光の剣戟』や『混沌災禍(ラグナヴィア)』があろうとも。


「最低でも、ガルヴェイムの言っていた灰色の球体の魔法……いや、それが魔法なのかもまだ解らないが、あれを習得するまでは勝てないと思った方がいい」


あれは魔法か、あるいは深層羅神のどちらかだ。


ノアはまだ明確に神になったわけではないとはいえ、無意識下の状態でなら使えるという可能性もある。


虚無に矛盾───


ノアを体現するそれらの力の深奥にあるもの。


それを、次の追憶の試練で明らかにする。


「俺の魂に刻まれた記憶……その力の根源を、思い出せ」


光が膨張し、瞬きをする暇もなくノアごと周囲を呑み込む。


強すぎる光にもノアは身を瞑ることなくただ前だけを見続け、そこに人影を見つけた。


「───お前が追憶神だな?」


そこ……純白でありながら様々な風景が突発的に写る妙な神域の中央に佇んでいた老人に、ノアは問いを投げかけた。


「如何にも。私が追憶神アルゼルス……卿の魂を見定める者よ」


随分と線の細い老人のような見た目をしておきながら、纏う神気は文字通り神そのもの。


この老人は、疑いようもなく追憶神だ。


「それにしても妙な神域だな。この世界の様々な場所の光景……過去のものが空間に写し出される瞬間がある。それも、この神域のほぼ全ての地点に、ランダムに」


空間の一部が一瞬だけ捻じ曲げられ、長方形の形に過去が写されるというものが神域内のあらゆる場所で起こっている。


今までの試練開始直後の神域もそれぞれの神の力がある程度流し込まれてはいたが、精々その力を多少宿し、内部空間の色が少し変化するといったところだった。


つまり、ここまで露骨な変化があるのは初めてなのだ。


豊かな緑が写されることもあるので、間違いなく過去の風景と言えよう。


(追憶、というのにも沿っているし、やはり記憶を司るのは間違いない。問題なのは、この試練そのものか、あるいはその後に俺自身の記憶を取り戻せるか、だが)


正直なところその辺りは心配する必要はないだろう。


試練を突破してしまえば、追憶の権能はその全てがノアに譲渡されるのだから。


その時にでも取り戻せばいい。


「……では、試練の内容を説明するとしようかの」

「ああ、頼んだ」


ノアはアルゼルスの言葉に耳を傾ける。


「試練といっても、卿は何もする必要はない。私が追憶の権能を使い、卿の前世の記憶を辿ろう。それを見て、当時の力を取り戻せたのなら万々歳。仮に取り戻せなくとも、力の使い方は前世を真似すれば良かろう……つまり、この試練は追憶というよりは卿自身の虚無の権能の使い方を学ぶものなのだ」

「……なるほど」


つまりこの試練は乗り越えるようなものではなく、ただ自身の過去を知ればいいだけのこと。


それによって思い出すのか、ただ知るだけなのかはノア次第だ。


「それでは早速、過去を垣間見るとしようかの」


アルゼルスの持つ杖が薄紫に輝き、その力を増幅させる。


(今まで受けた感覚からして、アルゼルスが使うのは……)


幾度となくそれを目の当たりにしたノアはその行動が解る。


根本的な力は違っても、その使い方は同じなのだ。


「深層羅神、『縁記追想』」


光はやがてノアの視界を完全に覆い、それに伴ってノアの意識は遠のいていく。


(追憶神の深層羅神……これが、過去を知る鍵だ)


その力によってノアは意識を失い、そして次の瞬間には覚醒していた。


(今、一体何が……?)


そこまで考えてやっと気づく。


今のノアは肉体を持っておらず、魂だけの状態になっていることに。


(これはどういうことだ……?)


実体を持たぬ半透明な灰色の球体……それこそがノアの魂だ。


この状態では五感が存在せず、普通なら周囲を確認することなど不可能だ。


だがノア程魂に精通している存在も稀だ。


ノアのレベルになるとこの状態でも視覚と聴覚程度なら擬似的に再現できる。


当然、思念によって周囲に自身の声を届かせることも。


視覚を得たことによって近くにアルゼルスがいることも確認できた。


「今から見るのは卿の過去そのもの。正確には過去の記憶を模した世界に入り込むのである。この深層羅神はその世界に影響を与えることもできるが、今回は過去を知るだけ。むしろ影響があっては困るだろう。その世界を展開する私自身はこの状態でもどうにでもできるが、そこに入り込む卿は違う。虚無を根幹とする卿の魂なら、記憶内部の存在も見破ることは不可能であろう」


要は世界に干渉しないためにこの方が都合が良かったということだ。


逆に世界を展開するアルゼルスは自分自身の設定なら弄れるのかもしれない。


ノアは魂の状態のまま『念話(レクト)』を使い、アルゼルスに意思を伝える。


【そうか……理由は解った。じゃあ早速過去を見に行こうか】

「……驚いた。魂の状態で明確な意思を保っている時点で普通ではないが、その状態で魔法まで使うとは……これは卿の過去もより一層気になるな」


普通は肉体と魂がセットになり、その存在の意思が明確となる。


つまり、どちらか片方の状態では明確な意思を保っていられず、昏睡に近い状態となるのだ。


それなのにノアは魂のみの状態で明確な意思を保っているだけに留まらず、魔法まで使って意思疎通を図った。


いくらノアが自身の魂の深層にまで潜り、虚無の権能を開花させたからといってそう簡単にできるようになることではない。


それも含めて、過去に何かがあるのかもしれない。


【……何にせよ、見ないことには始まらない】

「そうだな……では、いざ参ろう。追憶の世界へ」


再度、杖が放つ光が活性化し、二人を飲み込んだ。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


気がつけば二人は荒野にいた。


【ここは……俺のいた世界なのか】

「卿の深層に眠る記憶から抽出したのだ。間違いなく、卿の前世の世界であるな」


遠くから聞こえる金属音と爆発音。


戦争が行われていることは明らかだった。


「ふむ……現状の我らの世界程ではないが、この世界も随分と廃れておるな」

【僅かに思い出した記憶もそうだと言っている。俺が産まれる遥か昔から、この世界は争いが絶えなかったと】


確かに人が人である以上、争うのは当然とも言える。


だがそれだけで世界がこれ程までに廃れるとは考えにくい。


何かしら理由があるはずなのだ。


【……干渉さえしなければ、人間に近づいてもいいんだったか?】

「ああ、その状態なら大丈夫であろうが、くれぐれも魔法は使わぬように。魔法による干渉はあまりにも大きすぎる」

【……ちなみに、大きく干渉するとどうなる?】

「これは卿の記憶でありながら、過去そのものでもあるのだ。故に干渉し過ぎればこの世界の過去すらも変えてしまいかねん。それはこの世界の神に触れるも同義。卿ならまだしも、私がこの世界の神と事を構えるわけにはいかん」

【勝てないから、か……】

「理由はもう一つあってな、あまりにも過去を改変しすぎれば、たとえ我らの世界であっても強制力が働くのだ。あくまでも正史に基づいた歴史に、世界が勝手に修正してしまう」


歴史の改変というのはそれだけ高度なこと。


記憶や過去を司っている追憶神アルゼルスといえど、自分の世界の過去を大きく改変するのはまず不可能ということだ。


他の世界ならその作用は更に大きく働く。


【……なるほど。やり過ぎればこの追想にいる俺達も強制的に排除されてしまうわけだ】

「そういうことだ……故に人に近づくのは構わぬが、くれぐれも関わりは持たぬように」

【解った】


そうして二人は戦争が行われている場所へと移動する。


どうやら高台にいたようで、戦場を見下ろす場所に出た。


そして、二人の眼下では───


「これは……凄まじい」


アルゼルスの世界よりも遥かに高度な戦闘が圧倒的大規模に行われていた。


どうやら勢力は三つに分かれているらしく、それぞれ緑色、青色、灰色の軍旗が掲げられていた。


「規模は……それぞれ2万程度か。数もそうだが、何よりも兵の質が高い」


中でも目立つのはそれぞれの勢力から二人ずつ、合計六人だ。


緑色の勢力に属しているのは───


【ッ……!?あいつが……!?】


見覚えのある青い髪。


立ち姿こそ妖艶だが、他者を見下す瞳は相変わらず。


そう……後の穿界軍大将、ラフィナである。


(この時代から相応の力を持っていたのか……だがこれは恐らく俺がこの世界からいなくなるよりも数百年は前のはず。それまでに、誰かがこれらの軍勢を統一したのか?)


緑色の軍勢の中でも目立っているもう一人の男には見覚えはなかったが、次の瞬間、ノアは驚愕する。


その男が弾丸に撃ち抜かれ、死んだのだ。


【あの魔法……まさか……】


それをやったのは灰色の軍勢の将と思われる片割れ。


赤い髪で、拳銃を持った男───


【……デュラン】


かつて、ノアの忠実な部下だったデュランが、灰色の軍勢に属していた。


あの魔法は間違いなく『惨死の魔弾(ウルト・ジジェン)』だ。


【そうか……あいつもこの時代から……しかし、あっちに覚えはないな……】


灰色の軍勢のもう一人……穢れなき純白の髪を靡かせながら全体の指揮を取る少女のことは、ノアは覚えていなかった。


背丈はユキよりも更に小さく、丁度ユキとアルテマの間程度だろう。


そんな幼い少女のようにも見える灰色の軍勢の将だが……


「ふむ、あの少女がこの戦場においての最強のようであるな」

【ああ……間違いない】


内包する魔力量やその質が異次元だった。


少なくとも現状のノアに勝ち目はまずないだろう。


この時点ですでにアルファルドと互角に戦える程度の力は間違いなく持っている。


(彼女が戦場に出ればそれだけで済みそうなものだが……まさか青の軍勢に……?)


ノアの予想は見事的中する。


その証拠に、青色の軍勢の地点から戦場を巻き込みかねない程の魔弾が放たれた。


黒色のライフルによって放たれた弾丸はその軌道上の一切を焼き滅ぼし、灰色の軍勢の白い少女のいる場所にまで到達する。


「『晴天の蒼穹(セイル・レネア)』」


少女が呟いた瞬間、曇りきっていた空が一瞬で晴天に変化する。


更にその空が歪み、黒い壊滅の弾丸が吸い込まれる。


そして……弾丸が消滅した。


【嘘だろ……?】


あの弾丸は『壊滅の源弾(ヴェル・ゼグナ)』ではなかった。


壊滅の源弾(ヴェル・ゼグナ)』は単体を確実に滅ぼすための魔弾であり、周囲を巻き込むことはない。


今の魔弾は壊滅の力が弱い代わりに周囲も巻き込んで滅ぼすものだった。


いくら力が弱く設定されているとはいえ、それを無条件に消滅させるというのは普通なら有り得ない。


今のノアの『混沌災禍(ラグナヴィア)』でようやく拮抗できる程度だろう。


【あの少女も大概化け物だな。そして何より……】


何より、その魔弾を放った存在───


【……アルファルド】


壊滅の力を操るのはノアの知る限りたった一人。


青色の軍勢の将にいたのは……紛れもなくアルファルドだった。


【相変わらず、凄まじい力だ】


ライフルというのは近接戦闘には向かない。


にもかかわらず、アルファルドは単独で前線に踏み込み、その圧倒的な力を振るっている。


青色の軍勢のもう一人の将は……


【……見覚えがないな】


強さ、そしてノアとの関係性から考えるにその場所にはヴァディアがいるものと思っていたが、どうやらそうではないようだ。


そこにいるのは当然、グリアノスでもない。


内包する力から、将の中で最も弱いのがそいつだろう。


すでにデュランに殺された男を除いて、だが。


「……何にせよ、これが卿の世界なのだな。戦闘レベルの高さに恐ろしさすら感じる」


この時代のアルファルドと今のノアでようやく同等といったところ。


時期からして、ノアはもうすでにこの世界での最強として君臨していてもおかしくはない。


(それに、灰色の軍旗───)


ノアの虚無……それを示す色が灰色だった。


心の深層ではノアに忠誠を誓っていたと思われるデュランが属していることもある。


今この戦場に出ていないだけで、もしかすると灰色の勢力には当時のノアがいるのではないか───


そんなことを考えた矢先、灰色の軍勢の将である少女が声を大にして叫んだ。


「皆様、耐えてください!今一番厄介なのは青の壊滅!あれは私が抑えます!そう遠くない内にノア様が来ます!それまで、耐えるのです!」


その声に鼓舞されたように、灰色の軍勢の勢いが増す。


【ノア様、ね……】


これで確定した。


今この場にいないだけで、灰色の軍勢の主は間違いなくノアだ。


それならそれで何故ノアはこの場にいないのかという疑問も残るが……


「───『壊滅の散弾(ヴェア・ゼーリル)』」


アルファルドのライフルから散弾が放たれ、敵味方問わず扇状に殲滅する。


狙われたのは勢いを増し始めていた灰色の軍勢。


だがそれを許すほど、将の二人は甘くはない。


「───『幻死の散弾(ウルア・ジェルド)』」


迫る散弾を前に、デュランもまた同じく散弾を放つ。


散らばった弾丸は針に糸を通すかの如き精密さで灰色の軍勢の間をすり抜け、アルファルドの放った散弾に衝突する。


普通狙うことのできない散弾ひとつひとつの制御───それをデュランはまるで息をするかの如く熟す。


アルファルドの放った散弾はデュランの放った散弾によって灰色の軍勢に届くことなく完全に相殺され、その隙に軍の侵攻が始まる。


「チッ……やはりあの赤髪は厄介か……」


アルファルドの呟いた悪態はノア達の元にも届いた。


(この頃のデュランは俺が戦った時よりも強い……?)


今デュランの放った散弾は以前戦った時よりも確実に強かった。


穿界の痕弾(レイル・フェルゼ)』程ではないにせよ、小屋で戦った時に放たれたなら負けは確実だっただろう。


アルファルドへの抵抗として力を抑えることができていたのならまた話は変わるが……


「……またあの少女が動くようだ」


アルゼルスの言葉でノアは我に返る。


【まあ……それはそうだろうな。アルファルドを抑えるにしても、ずっと後手に回るというのは避けたいところだろう】


壊滅は強力だ。


軍勢を守るためにも、可能ならば発動前に止めたいというのは確実にあるはず。


それ故の行動なのだろう。


「『燐光の熾天使(ステラ・リエリア)』」


少女の魔法発動を期に、晴天の空から三つの光が舞い降りる。


それらはまるで命が宿ったかのように青みを帯びた銀色に輝き、戦場に降臨した。


【何なんだ……?あの魔法……あの、存在は……】


内包する力が半端ではなかった。


【有り得ない……怪物過ぎるだろう……まさか、あの天使一体一体が───】


───破滅災牙級だなんて。


「またその魔法かッ……!」


どうやらアルファルドはその魔法を知っているようで、発動した瞬間に悪態を吐く。


それと同時に天使三体へ向けて壊滅の力が宿った魔弾を放つが───


『───』


天使がまるで歌うように声を上げると、その魔弾は初めからなかったかのように無に帰した。


【……何となく解った気がする】


きっと少女の持つ力はガロンと同系統だ。


概念ではないが、権能と呼べるまで昇華された力なのなのだろう。


今まで使った魔法から考えると、その属性は───


【空と歌、といったところか】


ガロンが星と常闇の権能を持つように、あの少女は空と歌の権能を持つと考えていい。


ノアの虚無のように概念系統ではないものの、権能のレベルにまで昇華されているのなら相性次第ではノアにもアルファルドにも勝てる可能性はあるのだ。


【それにしたって、あの天使は強すぎる】


一体でこの追憶のアルファルドと互角と言ってもいい力を持っている。


つまり、現状のノアと同程度だ。


それが三体……しかも自律的に動くようで、少女はすでに別の魔法を展開しようとしていた。


「『晴蒼の光砲(セルト・アーレ)』」


蒼き光の砲撃が少女から空へ向けて放たれる。


「何故、空へ……?」

【……まさか】


ノアはその行動の理由を感じ取る。


光砲を撃った先にはあの天使達がいたのだ。


「チッ!あの砲撃を止めろッ!」


アルファルドの指示が飛ぶが、もう手遅れだった。


光砲が天使達に触れた瞬間、今度は地上に向けて乱反射したのだ。


その光は的確に青と緑の軍勢のみを撃ち抜き、光に触れた兵はまるで初めからその場にいなかったかのように消滅した。


「何という威力……それもこの数、この精確さで……」


この光砲による灰色の軍勢への被害はゼロ。


乱戦状態だったにもかかわらず、誰一人として死者どころか怪我人すらも出ていなかった。


当然、その光砲はそれぞれの軍の将にも降りかかる。


青色の軍勢のもう一人の方は他の兵と同様、この光砲で消滅していた。


だが、アルファルドとラフィナは……


「『壊滅結界(ヴェルフェリア)』ッ!」

「『傀儡防壁(グゼル・ゲルト)』ッ!」


各々の持つ結界や防壁の魔法で命までは落としてはいなかった。


だが決して軽傷ではなく、二人とも身体の一部を欠損している。


特にラフィナの傷は酷く、この状態から一命を取り留めたことの方が驚きといったぐらいだ。


「……流石に、勝てないか……撤退よ!退きなさい!」


状況判断し、勝ち目がないと悟ったラフィナは光砲に巻き込まれなかった部下達に指示を出す。


「また貴様に……!退けッ!殿は私が務めるッ!貴様らは自らの命を優先せよッ!」


アルファルドは何度もその少女に敗北しているようで悔しさを滲ませるが、状況を見誤るような人間ではない。


むしろ部下を優先して撤退する判断をした以上、将として、人の上に立つ者として優秀なのは疑いようもない。


だがそれを許す程、少女は甘くはなかった。


「逃がしません……!『蒼炎の(セアル)───』」


その、瞬間だった。


「───何をしている?」


空気が重くなったと錯覚する程の圧倒的な威圧感。


この戦場にいる誰もが、恐る恐る空を見上げる。


そこにいたはずの天使達が───バラバラにされていた。


「───ッ!?」


代わりにそこにいたのは灰色の髪をした男だった。


「───エレン、またこの魔法を使ったのか?」


男の右手には引きちぎられた天使の右腕が、左手には切断された天使の頸があった。


「も、申し訳ありません……!ですが、壊滅のアルファルドを確実に滅ぼすためには、この魔法しか……!」

「そんなことは聞いていない……俺は使うなと命じたはずだ。お前の命を削る魔法なんだ。許可なく使うな」

「……はい……申し訳、ありません……」


エレンと呼ばれたその少女が落ち込んだように下を向く。


【まさかとは思うが、あれが……?】


宙に浮いていた男は次にアルファルドの方を向く。


「さて……アルファルド」


男の紫色の瞳がアルファルドを捉える。


「何だ……灰色の皇帝、ノア」


やはり、灰色の髪をした男はノアだった。


今とは髪や瞳の色が違うが、確かに顔は同じだ。


「エレンはお前のことを滅ぼそうとしていたようだが……それよりも先に聞きたいことがある」

「……どうせ貴様の配下にさせられるだけだろう。当然断る。私と貴様では、思想が違うのだから」


やはりと言うべきか、この当時からノアとアルファルドは相容れない存在だったようだ。


「お前は戦争に敗けたんだ。大人しく軍門に下れ」

「断る。我らを滅ぼさないのなら撤退させてもらおう」


アルファルドは欠損した右腕を左手で庇いながらその場を後ずさろうとする。


だがそれは許されない。


「───動くな」

「───また貴様か」


誰も気が付かぬ間にデュランがアルファルドの背後に移動しており、その銃口を背に突きつけていた。


「貴様の死の概念では私は滅ぼせんぞ」

「構わん。貴様が動くなら私は躊躇なく引き金を引く。滅ぼせずとも、数秒は動けんと思え」


数秒もあればノアとエレンならアルファルドを滅ぼせるだけの魔法を放てる。


アルファルドにとって状況はまさに四面楚歌。


笑いが出る程に追い詰められていた。


「ははは……そうかそうか、よく解った」


アルファルドの黒い瞳に最後の闘志が宿った。


「───徹底抗戦だッ!足掻けッ!」

『はッ!』


アルファルドの勝ち目のない戦が、幕を上げた。


ノアは過去の衝突を垣間見る───

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