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穢れた世界の救い方  作者: 月影偽燐
3章.神域試練編
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17.整合の試練

この世界で最高峰の過酷さを誇るオルテア山脈。


どの季節でも変わらず大雪が降り続ける山々は全て圧縮された岩石で構成されており、その上に積もった雪も上に積もった雪によって圧縮され、頑強な氷となっている。


山脈の気温は氷点下を大きく下回り、雪や氷もまず溶けることはない。


そんな過酷なオルテア山脈を爆発的な速度で駆けていく存在が一つ。


そう、ノアである。


ノアはあれからグラエムを出て、そこからたった一日で山脈の麓に辿り着いた。


今日は移動を始めてから二日目。


当然と言わんばかりに休息も取ることなく、険しい雪山を登る。


「それにしても、確かにこれは凄まじいな」


あの部屋出た後にノアはすぐにでも出発しようとしたのだが、結界門付近でエルナが追いついたのか声をかけてきたのだ。


グラエムを出る前に言いたいことがあったらしく、ノアはその言葉を聞いた。


───『ノア様なら大丈夫だとは思いますが、オルテア山脈は魔力によって身体の保護ができる私達魔族や精霊でもまともに立ち入ることはできない地でした。『死の山脈』とまで言われていたぐらいです。二万年経った今でもここから見える様子に変化は見られないので、その辺りは変わらないと思います。変わっていることといえば結界外に充満する死の概念です。あの凶悪な雪山の全てにもきっと死の概念は内包されているでしょう。ノア様であれば気にすることもないかもしれませんが、どうかお気をつけて』


山脈に入った今になって思えば当然の心配だったようだ。


「死の概念が世界に充満する前から『死の山脈』と称されていたのも納得できる。気温は……まだ暖かい場所でもマイナス50度は優に超えていそうだ」


魔力的な何かがあるのか、普通では有り得ないような気温だ。


ノアは気温による影響を殆ど受けないためそのままの格好でもどうとでもなるが、それ以外の存在がいたなら凍死していてもおかしくはないだろう。


文字通り、ここを訪れた生物に等しく『死』を与える山脈というわけだ。


「まあ多少寒いとはいえ、この程度ならどうとでもなるな。問題は整合の試練か」


山頂も近い。


もう間もなく試練が始まるだろう。


整合神の課す試練がどのようなものなのか……ノアには検討がつかなかった。


「整合の権能ってのは確か八神の権能で唯一明確な概念を内包していないんだったか?」


アスティリアなら創造の概念が、リオエスタなら破壊の概念があるように、神々にはそれぞれ司る概念が存在している。


だが整合神ガルヴェイムの持つ整合の権能にはそれがないのだ。


「他ならまだ試練内容も想定したりできるが……こればかりは一切解らんな」


整合の権能は世界の安定を保つというもの。


真価がどうかまでは解らないとはいえ、そう外れたものでもないのは間違いない。


故に試練も安定やそれに類するようなものであるはずだ。


「だとすれば戦闘系ではないだろうが……ハーティアのように試練の過程として戦闘をする可能性もあるにはあるのか」


とはいえ整合の権能は基本的に戦闘には向かないだろう。


安定というのは平穏も意味する。


単純な戦闘能力ならレイシェルが最弱だが、ガルヴェイムも八神の中では下から数えた方が早いかもしれない。


「……何にせよ、警戒を怠るわけにはいかないか」


どんな試練内容にしてもノアにとっては乗り越えるべきものだ。


いくらノアの方が強くなっていたとしても関係はない。


常に全霊で挑むのみだ。


「さて……山頂はここか」


登頂し終え、ノアは周囲を見渡す。


豪雪の影響で景色など全く見えないが、オルテア山脈でこの地点が最も強く魔力を発していることは解った。


元々そうなのか、試練の開始地点だからなのかは不明だが、この場所が山頂であることに間違いはないだろう。


そうしてこの場にノアが来てから数分が経ち、ノアにも次第に苛立ちが見えてきた。


「───おい、こっちはグラエムの状況を差し置いて来てんだ。さっさと試練を始めろよ」


言葉に魔力を乗せ、可能な限り神に届きやすくする。


あまり意味がないとはいえ、多少は届きやすくなっているだろう。


その言葉が響いた数秒後、ノアの背後の空間が歪みつつ輝く。


どうやらようやく始まるようだ。


そうしてノアはその光に飲み込まれ───


「遅ぇよ」


ノアは神気を感じた方を睨みつつ悪態を吐く。


その場所にいたのは大柄な男。


発する神気や魔力から神であることは間違いない。


そしてこの場にいるという点も加味するなら、この男が何者かは誰でも解る。


「お前が整合神ガルヴェイムなんだろ?指定の場所まで来たのに、何故あんなに……いや、止めておこう。時間の無駄だ。さっさと試練を始めてくれ」


まるで自己完結したようなノアの発言にその神───整合神ガルヴェイムは少し頭を下げて謝罪した。


「済まぬ。少しばかり準備に手間取ってしまったのだ。貴殿の言う通り、我が整合神ガルヴェイム。それでは試練を開始しよう」


謝罪を終え、ガルヴェイムは頭を上げる。


顔を上げたその瞳には、灰色の闘志が宿っていた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


その瞳を見た瞬間、ノアは警戒をより強める。


(この闘志……まさか整合の試練も戦闘なのか?)


だがガルヴェイムがそこまで強いとは思えない。


権能の力で考えるのなら、最強は終焉であり、破壊、創造がそれに続く。


単純な戦闘だけで考えるのなら再生は最弱、その次に未来、追憶、整合が並ぶ。


ハーティアとて神域と深層羅神を使ってあの強さだったのだ。


いくら権能が半分程度になっているからといって、本来の強さでもあの延長線上でしかない。


それならハーティアはおそらく現時点のノアにすら敵わないだろう。


そんなハーティアと同程度の力なのだとしたら、権能を半分しか持たないガルヴェイムがノアに勝てる道理は───


「貴殿は忘れているようだが、力には相性というものがある」

「相性……?」

「たとえば、火は水に弱く、植物には強いといった風にな」

「それは、そうだが……」


だがそれは権能ですらない低次元な力の話だ。


権能や概念の力となれば最早その土俵からは大きく逸脱しているはずなのだ。


「今のは権能ではない力の話だ。そして、このような脆弱な力と権能を対比するのは無意味にも等しい。何故ならば、権能と呼ばれる力は他の力とは一線を画すからだ」


そうだ。


だからこそ、ガロンはあれ程までに強かったのだ。


この世界の力の強さは概念であるか、権能であるかなどの要因で変化する。


最弱となるのは概念ではなく、権能でもない力。炎や水などの属性魔法などがこれにあたる。


次は概念の力だ。デュランの使っていた死の力はここに分類される。


そして次が概念ではないが、権能と呼ばれるまでに深化した力だ。


ガロンは星と闇の権能を持っていた。


これは概念ではないが、権能ではあるので相応の強さがあったのだ。


そしてこの世界でも最強格とされるもの。


それが概念の権能だ。


アスティリアの創造の権能、リオエスタの破壊の権能など、八神の殆どがこれにあたる。


ノアの虚無の権能も当然ここに入る。


だが、ガルヴェイムの整合の権能だけは含まれない。


「我の力は概念ではない権能の力となる。つまり、八神で最も格が低いのは我なのだ」


ここまでは現時点でノアの持つ知識から解る。


だがそれならガルヴェイムがノアと戦闘をする理由にはならない。


そして、相性とは───


「……相性とは、四つある力の分類から更に大きく二つに分けた際に発生する」

「……下二つと上二つか?」

「その通りだ」


つまり、ガルヴェイムの整合の権能であろうとも相性で考えるのなら八神やノアと並ぶわけだ。


ここまで言われたのなら話は見えてくる。


ノアは自身の権能とガルヴェイムの権能を照らし合わせ、一つの答えを導き出していた。


「……概ね理解した。お前の整合の権能は俺の虚無の権能との相性が良いんだろう。もちろん、お前にとって」


虚無とは矛盾を発生させる力だ。


そして世界の安定を保つ整合はその矛盾の存在を許さない。


「整合は虚無に……矛盾に対して特効がある」

「正解だ」


たとえ力の総量に大きな差があっても、この世界の理からなる相性によって戦えるレベルにまでなるというわけだ。


ただ、それだけではノアとは勝負にならない。


「解っているのか?俺の虚無は文字通り存在していない側面も持っている。敵の皇帝……アルファルドが持つ壊滅の権能は理に縛られながらも強引にそれを壊し尽くすが、俺の虚無は根底から理に触れることがないんだ。虚無はお前の整合にすら影響されないぞ」


断りに縛られない虚無は相性が最悪である整合から受ける影響すら無に帰させてしまう。


結果としてどのような概念からも干渉を受けつけない力となるのだ。


それを整合神であるガルヴェイムが解っていないはずがない。


「そうだな───だがそれはただのこの世界だった場合の話だ」


ガルヴェイムがそう言うと、その足元を中心に爆発的な魔力が集った。


「……これは」


ノアは何をしようとしているのかを察し、もう一度ガルヴェイムの目を見る。


「なるほどな。この世界では整合は虚無に干渉できない。だが、確かにソレは例外だな」


ノアの言葉を聞いたガルヴェイムは小さく笑い、その術を展開した。


「───整合神域、『平庭』」


ガルヴェイムの足元に集っていた魔力が爆ぜ、霧散しながら神域を形作っていく。


灰色となった神域はその内部の全てが安定するように定められており、その理は当然ノアの虚無やそこからなる矛盾を消し去ろうとする。


「───なるほど、確かにこれは俺にとって不利な世界みたいだな」


ノアは己の魂の危機を感じ取っていた。


何もしなければノアでさえ滅んでしまいかねない程の強制力だ。


「───『混沌災禍(ラグナヴィア)』」


この神域ではノアは存在すら許されない。


故に神域よりも上位の力でそれを塗り替えるしかノアに残された術はなかった。


そう、『混沌災禍(ラグナヴィア)』であればこの神域の力を完封できるのだ。


(……とはいえ、『混沌災禍(ラグナヴィア)』を永続的に発動させるのは実質的に不可能だ。どこかのタイミングで神域から脱出、あるいは崩壊させなければならない)


この神域にいる限り、ノアは『混沌災禍(ラグナヴィア)』を解除できない。


解除した瞬間、無すら侵食し尽くす力がノアを襲う。


今のノアは以前と比べて遥かに頑丈であるが故に魂が滅びることはまずないが、損傷は免れないだろう。


そうなる前に決着をつけなければならないのだ。


「……さて、今からここで戦闘を行うわけなのだが、普通に戦っても我が貴殿に勝てる道理はない」


あくまでも普通ならば、だ。


この整合神域、『平庭』の中であればノアは『混沌災禍(ラグナヴィア)』の行使を強制させられる。


ガルヴェイムにとっては時間さえ稼ぐことができれば勝てる勝負でもあるのだ。


だが、そんなことはノアもガルヴェイムも当然許さない。


故に行われるのは短期決戦。


そのための秘策程度ならガルヴェイムが用意していないはずがない。


ガルヴェイムは己の権能をその両手に集約させ、物質を形作る。


「それは───」


ノアはそれに近いものに見覚えがあった。


(───血壊鎌(ヴェヌグス)にかなり近い。いや、同じか?)


「『整正剣(エヴェルド)』」


ガルヴェイムの手に生成されたのは灰色の謎の物質で構成された一本の長剣だ。


もしあの剣が血壊鎌と同じ存在なら、相応の力を内包しているはずだ。


「……擬似神装か」


だとするのなら『混沌災禍(ラグナヴィア)』があったとしても滅ぼされるかもしれない。


神装というのはそれだけ強力な存在なのだ。


「───では、征くぞ」


ガルヴェイムが言葉を発した瞬間、その身体がブレる。


高速で動いたのだ。


だがただ速いだけではノアにその刃が届くことはない。


(この速度なら余裕を持って躱せッ……!?)


斬撃を躱そうとしていたノアは悪寒が走った方向に咄嗟に白雪を滑り込ませる。


そうして鳴り響く金属音。


ノアは躱しきれず、受けるしかなかったのだ。


「……魔法は使っていなかったはずだ」


少なくとも整正剣を顕現させる以外で魔力は感じ取れなかった。


「魔法は使っておらん。これこそが我が整正剣の力。世界にあってはならない存在を自動的に修正する剣だッ!」


白雪と整正剣が衝突している部分からジジジジという嫌な音が聞こえる。


絶対不変である白雪と世界を修正する整正剣。


白雪はノアを護るために、整正剣はノアを滅ぼすためにそれぞれその力を発揮する。


「くッ……!」

「ぬぅ……!」


存在しないが故に干渉されない虚無と、それを許さない整合。


その力の強さはほぼ同等。


だからこそ鍔迫り合いが成立していた。


だが、完全に同等の強さではない。


時間が経過すれば少しでも強い方に形勢は傾く。


「これは……!」


ノアの持つ白雪が次第に整正剣を押し返していく。


相性が最悪であってもノアがそれを上回る。


それだけ『混沌災禍(ラグナヴィア)』があまりにも強すぎるのだ。


「はぁッ!」


やがてノアは整正剣を完全に弾き返し、体勢を整えた。


(世界の修正力……それをガルヴェイムが掌握している限り、あいつの攻撃は全て回避不可能だ。創造の権能による世界の改変程ではないとはいえ、世界の理に深く干渉できる能力と思った方がいい)


実際、ノアの推測は殆ど正解だ。


世界……界律への影響力として考えるのなら整合の権能は創造の権能の次に強い。


いくら力の最大値はノアの方が圧倒的とはいえ、界律に影響されればノアとて相応の影響は受ける。


まだ完全に虚無を制御しきれていない現状ではそうなってしまう。


(整合の権能に対抗するには同じ整合の権能で……いや、同程度の力でも、力の使い方で俺が負ける。それなら虚無をより深くして干渉は受けにくくする方がまだ可能性がある)


だがその方法はかなり難しいと言わざるを得ない。


ノアも自身の虚無の使い方を完全に理解できているわけではないのだから。


記憶が戻っていない現時点ではこれ以上の虚無の深化は見込めそうにない。


「くッ……」


それでいて『混沌災禍(ラグナヴィア)』も長くはもたない。


「……なるほどな。その魔法は魂への負荷が大きいわけだ」

「……まあ、そうだな」


ノアにとって厄介なのは整正剣。


あの刃に触れることは許されない。


整合は今のノアにとって特効となる。


力の強さならリオエスタの血壊鎌の方が上だろうが、その厄介さは整正剣が上回る。


(───そうだ)


そこでノアは少し前のことを思い出す。


(あの力なら……俺の練度では可能性は低いだろうが、他の力よりはまだ現実的だ)


その力と虚無を併用できたなら勝機は十分にある。


「……まだこれを俺の意思で完全に制御するのは難しいが……やるしかないな」

「何を……」


ノアは『混沌災禍(ラグナヴィア)』を解除することなくその虚無を意識の深層に沈める。


この状態であれば、ノアは『混沌災禍(ラグナヴィア)』を発動したまま有の存在になれる。


問題があるとするなら、無と有を同時に存在させていることこそが矛盾となること。


その点はきっと整合に干渉されてしまう領域だ。


そして、その状態で使う力が一つ。


「その力……その権能は……」


ノアの魂を純白の光が包み込む。


それは紛れもなく創造の権能。


その真価は『界律を創造することによる世界の改変』だ。


その効果は世界内部の力である整合の権能にも及ぶ。


当然、整合神域、『平庭』すらも。


「───矛盾というのは、確かに世界の整合を保つには邪魔な存在だろう」


ノアは右手に創造の権能からなる光を集わせつつ言葉を発する。


「───だが、それすらも許容する空間に変えてしまえるのなら、問題も、矛盾もなくなる。何故なら矛盾は整合に反するが故に矛盾と定義されるからだ」


矛盾の語源は『どんな盾も貫く矛』と『どんな矛も通さない盾』という逸話だ。


これはどうあっても成立しない。


何故ならそれは界律……そして整合の力によって結果が強制されてしまうからだ。


仮にこれが成立してしまった場合、世界は取り返しがつかない程の損傷を負う。


「───でもな、それなら話は簡単なんだよ。矛盾が界律によって強制されてしまうなら、界律の方を変えてしまえばいい。そうすれば俺の存在は整合の権能……つまりお前に強制されることはなくなる」


そうして、ノアはその右手を整合神域の地面に叩きつけた。


「たとえ不完全でも───使ってみせる」

「───まさか、貴殿はッ!?」


ここで初めてガルヴェイムが血相を変えてノアの行動を阻止しようと動く。


だが、それも一歩遅い。


ノアは、遂に踏み込んだのだ。


「───創造神域、『創白』」


───そう、神の領域へと。


ノアは神へと昇華する───


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