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穢れた世界の救い方  作者: 月影偽燐
3章.神域試練編
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15.反転神オルスト

オルストが魔法を発動させた瞬間、ノアの身体に異変が起きる。


「っ……!?」


一瞬……たった一瞬だけ、心臓が停止したのだ。


「うーん……解ってはいましたが、死ぬどころか多少狼狽える程度とは。君はとても頑丈かつ、治癒能力も高いようですねぇ。ああ、治癒能力に関してはレイシェルの権能でしょうか?」


呑気な口調で話すオルストに対し、ノアは焦りを見せる。


(心停止……?オルストが使うのは反転の権能による魔法のはずだ。相手の心臓を止める魔法というのがあるとは思えないが……?)


そこでノアは少し前のオルストの発言を思い出す。


(オルストは確か、この世界の物質には『裏』が存在しており、自分はそれを操ると言っていた。そこが鍵か)


あらゆる存在の『裏』を司るのなら、今の現象にも説明がつく。


といっても、それが正しいのかを確認する術はノアにはないのだが……


(……もし、オルストが『生』の裏である『死』を発生させたのだと仮定すれば、一瞬だけ起こった心停止も理解可能だ。問題はこの仮説が本当だったとして、それを防ぐ方法)


ノアはまだ殆ど反転の権能を理解できていない。


故に同じ魔法を同じ練度で使うのは現実的ではなかった。


『死』を裏返すことによっての無力化は厳しいだろう。


なら、あの攻撃をどうやって防ぐか。


(……いや、違うな。防ぐ必要はない)


幸いなことに、ノアの魂は虚無だ。


仮に死んだところで死した状態で無意識的に動くのみ。


それにただ死んだ程度なら再生の権能でそう時間もかからずに甦ることができる。


(オルストは神域も深層羅神も使えない。それならあいつの使える範囲での権能の真髄はその魔法にある……どうにかして、それを引き出した上で対等以上に戦えなくてはならない)


権能の半分を失った神と対等では駄目なのだ。


ノアが相手にするのは八神よりも遥かに強かったガロンを滅ぼした存在。


八神の一人、しかも八神でも最強ではなく、更に力の半分を譲渡しているオルストと対等なら、ヴァディアやアルファルドに敵うはずもない。


「……今の魔法がどういったものか、君に解りますか?」


しばらくの間黙ったまま動かないノアを見て、オルストはノアが思考していると察する。


それ故に放った言葉だ。


「……概ねは、な。今の魔法……『反命(ラフェル)』といったな。この魔法はおそらく、『生命そのものの反転』が可能な魔法なんだろう?」

「……ほう?」

「俺含め、生物と定義されている存在は皆等しく『命』がある。お前ら神々もそうなのかもしれないな。だが今の魔法は生きているという状態そのものを反転させる。生きている存在がその命を反転させられたらもうそこに残るのは『死』だけだ」


初手から並の生物なら即死しているような魔法を放ってくるとはノアも想定していなかった。


だが当然の如く、ノア相手ではあまり意味をなさない。


ならば現状のノアよりも遥かに強いであろうアルファルドなんかには確実に効果がないだろう。


(俺は虚無と再生で停止してもどうにかなった。アルファルドならその壊滅で魔法効果そのものを滅ぼしてしまいかねない。つまり、この魔法で俺やアルファルドを滅ぼしきることは絶対的に不可能だ)


全盛期のノアなら存在そのものを無にできただろう。


それこそ、存在しているのに存在していない状態を完全な形で実現できたはずだ。


存在していないもの……すなわち無の反転は有だが、『反命(ラフェル)』は生命の反転であるため、無を有にすることはまずできない。


つまり、前世のノア相手ではこの魔法は効かない。


アルファルドもその程度の力があると考えるべきだ。


「ふむ、あまり効果がないと解ってもなお警戒を解かない……どころか、更に警戒を強めていますねぇ……」

「今の魔法は俺にとってはそう大きく効くものじゃない。でも他の魔法がどうなのかは解らないからな」


反転の権能ということは間違いなく無を有にすることも可能なはずだ。


それはすなわち、ノアにとっての相性は最悪であるということを指す。


リオエスタの試練の時もそうだったが、ノアの実質的な不死性を無効化してくるような攻撃が多い。


それだけ、虚無という存在は世界にとって受け入れられるものではないのだろう。


「……君に頼っている立場で言うのもおかしな話ですが、君の能力そのものに関しては八神全員が嫌っていると思いますよ」

「まあ、虚無だもんな」

「『無』という概念は僕の反転よりもなお不安定すぎる力です。使い方を誤れば、その一回だけで世界が致命的な傷を負ってしまう。その特性を逆手にとって有り得ないほどの強さを得ることは解っていますが、神として、その力は到底許容できるものではない」


世界の存続を願う神にとっては容易く世界を滅ぼせる力を持つ虚無など一刻も早く消し去りたいはずだ。


実際、世界が危機に陥っておらず、その状態でノアが虚無の権能をひけらかしたのなら八神はノアを滅ぼそうとしただろう。


前世のノアはそれを解っていたのか、力を完全に封印したのだ。


当時のノアが何を考えていたのか、記憶のない今では誰も知らない。


だが今のノアの想いは明確だ。


「……俺は俺の目的のためにこの力を使う」

「……その目的とは?」


オルストもきっと答えは解っているだろう。


ノアの力こそ危険視しているが、その心までは八神の誰も否定していないのだから。


「この世界の救済……お前達が望んだことだろう?」


ノアはその望みを受け継ぐ気でいる。


これはリオエスタの試練からずっと思っていたことだ。


「……そうですか。まあ解っていましたとも。君の口から確認したかっただけですよ」


オルストはノアの言葉を聞き、再度にこりと微笑む。


「君の力は僕なんかとは比較にならない程強い。なのでこの魔法でどうこうできるとは考えていませんが……」


オルストの右手に再度光が集う。


だが今回の光は先程のものよりもかなり強い。


それだけ魔法も強いということなのだろう。


「この程度で滅びては駄目ですよ?」

「当然だ」

「……『事象の反転(ラゼ・フェルト)』」


そうしてオルストはその魔法を───


「ッ!?」

「油断、ですよ!」


その魔法を右手に纏ったまま、目にも止まらぬ速度でノアの懐に入り込んだ。


(そんな速度を……!?いや、そんなはずはない。今の俺の目で追えないのだとすれば、それは光速レベルだ)


おそらく八神でその速度を出せる存在はいない。


それなら何故ノアにも反応できない速度をオルストが出せたのか。


(認識の反転……一瞬だけ意識を反転させたのか……?)


ノアが相手ではいくら神々の権能と言えどその効果は減衰する。


無に干渉することはそれだけ難しいのだ。


しかし、現状のノアの持つ虚無では完全に無効化することはできない。


故に一瞬だけとはいえ、その意識は反転の権能に持っていかれる。


その一瞬の隙さえあれば、いくら光速には全く届かない神であろうともノアが反応する前に懐に入れるのだ。


(チッ……間に合わな……!?)


どうにか白雪を自身とオルストの右手の間に滑り込ませ、その魔法を受け止める。


だが───


「がッ!?」


何故か、白雪はオルストの右手に触れることはなく、その手はノアに吸い込まれるように直撃した。


(おかしい……確実に防いだはずだ……!)


魔法による衝撃でノアは大きく吹き飛ばされ、神域内の地面を数回バウンドする。


どうにか体勢を立て直すが、右手が直撃した胸部は大きく抉れ、肋骨が露出していた。


(……内臓にも数本刺さってるな)


折れた肋骨が肺に刺さったのだろう。ノアは通常なら死んでいてもおかしくはない程の量の血塊を吐いた。


(それにしても、何故防げなかった……?)


白雪は確実に間に合っていた。


オルストが攻撃の軌道を変えたわけでもない。


それなら確実にオルストの攻撃は白雪に当たるはずなのだ。


だが実際にはオルストの右手は白雪をすり抜け、殆ど無防備な状態であったノアに直接衝撃を与えた。


すり抜けるなどという能力は反転にはない。


あるとするなら、存在をないものにできる虚無ぐらいだろう。


すり抜けではなく、それ以外に反転にできること。


それは───


「……起こる事象の……反転……?」


そうでなければ説明がつかないのだ。


「まあその通りですねぇ……僕の右手と君の持つ刀……その二つが衝突するという事象そのものを反転させてしまえば、僕の右手は刀に触れなかったということになる……それだけのことですよ」


オルストの言うことを完全にそのまま受け取るのなら、反転の権能は実質的に創造の権能の劣化に近い。


莫大な力を使うとはいえ、自身の望んだ通りに世界を書き換えるのが創造の権能だ。


対して反転の権能は起こる事象を反転させるだけ。


ここだけを切り取って考えるのなら反転の権能が創造の権能に勝る部分はないようにも思える。


だが反転の権能はあくまでも神域でも深層羅神でもないただの魔法。


それに対し、創造の権能はその真髄の力だ。


反転の権能の真髄は間違いなく自身という存在の反転。


この世界に反した存在となり、世界からの干渉を完全に受け付けないというのが真髄だ。


要は分野が違うのだ。


(もしオルストが権能の真髄を使えていたのなら、きっとオルストが八神最強だったんだろう。それだけ反転の権能は八神の中でも異質だ)


ガロンに勝てていたかどうかまでは解らない。


ただ他の神と一線を画すのは間違いない。


それ程までの力を受け継ぐとなると、相応の覚悟が求められる。


「……まさか、こんな力を会話だけで渡そうとしてきていたとはな」

「ま、それだけ君は信頼に足るということだと考えてくれて結構ですよ」


その言葉の真意はノアには解らない。


「さあ、ここまでは小手調べにもならないでしょう?戦いはまだ始まってすらいませんよ?」


挑発的なオルストの発言。


だがそれに対してノアは不敵な笑みを返す。


ここまでの魔法を受けてもなお、ノアは自身が負ける姿を想像できなかった。


「命や事象の反転程度で滅んでいるのなら、俺はもうすでにこの場にはいない」


アルファルドから受けた『壊滅の源弾(ヴェル・ゼグナ)』の弾丸。


オルストの魔法でやられるのなら、あれに耐えられるはずもない。


「……『慈愛の天癒(レイ・ラーフェ)』」


ノアは再生の権能により負った傷を完全に復元する。


やはりアルファルドの弾丸が特殊だったようで、この程度の傷なら魂までは癒せなかった魔法でも瞬間的に治せるようだ。


「こう……だったか?」


反転魔法は理の裏を司る力。


故に理の中しか知らないノアは見よう見まねかつ手探りでしかその魔法を再現できないのだ。


神は魔法陣を必要としないのもあり、それを真似することもできない。


「……『裏反の幻至(ラネル・エフェス)』」

「ッ!?」


ノアが使ったそれは不完全な反転魔法。


だが不完全であるが故に、その効果は反転を司るオルストでさえも見抜けない。


何故ならオルストは完全な反転魔法しか知らないし、使えないからだ。


その瞬間、ノアの姿、魔力、そして魂までもがまるではじめからなかったかのように消え去った。


ノアが自身の使った魔法で滅んだとはまず考えられない。


それならばこれは魔法の効果によるものだとオルストは推測する。


(不完全な魔法であるなら相応の欠陥があるはず……)


周囲を見渡してもノアの存在の痕跡は何一つ見つからない。


だが、どこかにはいるはずなのだ。


「仕方ありませんねぇ……『穿裏の戒眼(ライレデニア)』」


オルストはそれまで殆ど閉じていた瞳を開眼させる。


薄い緑色のその瞳は世界の裏そのものを見通す魔眼なのだ。


そしてその瞳でノアを探し───


「……『黄昏之刃』」

「なッ!?」


次の瞬間には、光を纏った白雪姫によってオルストの両腕は切り飛ばされていた。


(どうやって……!?)


その姿を暴かれる直前、ノアは意図的に『裏反の幻至(ラネル・エフェス)』を解除した。


オルストの『穿裏の戒眼(ライレデニア)』は世界の裏を見通すが、その代わりに表の世界を見れなくなるという欠点がある。


故に普段はその瞳を閉じていたのだ。


その隙間を縫ってノアはどちらの瞳にも映らないように魔法を解き、それによってできた隙を狙って『黄昏之刃』による攻撃を放った。


魔法や魔力を使用した攻撃を使えば感知されてしまうかもしれないが故の選択だったが、どうやらそれは正しかったようだ。


「……ふふ、まさか僕の裏の瞳を欺くとは。八神ですら万全の創造神にしかできないであろうことをその状態でやってのけるんですねぇ……」


万全の創造神ということは、権能の半分を与えている今ではオルストの目を欺くことすらも難しいということなのだろう。


(……きっとオルストも反転の権能に含まれている何かしらの力で腕を再生させることは可能だろう。だが神域も深層羅神も使えないのなら、オルストはもう俺には勝てない)


ノアの攻撃手段は多岐にわたる。


『黄昏之刃』はその内の一つでしかなく、それどころか今の攻撃でオルストを斬り殺していてもおかしくはなかった。


「即席の反転魔法で反転神である僕をここまで追い詰める……どうせ負けるとは思っていましたが、まさかこのような形だとは想定していませんでしたよ」

「……違うな」

「……ふむ?」


手放しで賞賛するオルストに対し、ノアは淡々と告げる。


「即席であり、不完全だからこそお前の目を欺けたんだ。あれが完全なる反転魔法だったなら、逆にお前に見抜かれていただろう」


オルストは反転神だ。完全な反転魔法は全て網羅していると言っても過言ではない。


だからこそ、オルストの知らない反転魔法というのは不完全なものしかなかった。


「しかし、不完全な反転魔法でよくここまでできましたねぇ……表の世界に干渉することこそ不可能でも、君のそれは実質的に存在の反転にかなり近い」

「まあ軽い反転魔法で破られる程脆弱な力だがな」


裏反の幻至(ラネル・エフェス)』が最も作用するのは視覚だ。


それを『穿裏の戒眼(ライレデニア)』によって看破されてしまえば、後は『反命(ラフェル)』やそれよりも弱い反転の力で簡単に破られてしまう。


だが、破られるまでは確かにその存在のごく一部を反転させているのだ。


深層羅神には全く届かないとはいえ、不完全な魔法で辿り着いていいレベルのものではない。


(見よう見まねとはいえ、殆どヒントもなしに魔法を行使できる技術。そして効果が不明瞭な魔法を躊躇いもなく自身に対してかけられる胆力。なるほど、彼もなかなか頭のネジが飛んでいるようですねぇ……)


人間目線から見ればそれは神も同様だ。


しかしそんな神から見ても、ノアの魂やその意志は異質すぎるのである。


「効果が解らない魔法をよく自身に行使できましたねぇ……普通の人間なら恐ろしくて躊躇うと思うのですが」


オルストは思ったことを率直に言う。


その間に両腕を切断された傷は塞がっていた。


これは魔法や権能によって傷を塞いでいるのではなく、神本来の治癒能力だ。


再生こそレイシェルの権能だが、ただ傷を塞ぐだけなら数秒から数分で終わる。


ノアはそれを見つつも追撃はせず、ただオルストとの会話をする。


「そんな感情は神域試練が始まる前に捨ててきた。ユキとガロンの願いを叶えるためには不要な感情だ」


ノアはそう告げるが、感情や意志を持つ人間の中でそこまで割り切って自分自身を犠牲にできる存在がどれだけいよう。


「やはり、全ての意味で規格外ですねぇ。元々はこの世界の存在ではないことも関係しているのでしょうか……」


その可能性もゼロとは言いきれない。


だが記憶を失ってからの心境の変化や心の成長も間違いなくあるだろう。


根本はともかく、考え方は前世と今世でかなり変わっているはずだ。


「……まあ元から解っていたことですが……これは完敗ですねぇ……もう少し善戦できるとは思っていたのですが」

「もしお前が深層羅神を使えたなら、結果はひっくり返っていただろうな」


それだけ『界律反転』は強力だ。


「何にせよ、僕の負けですよ。というわけで僕の権能の全てを君に与えましょう。君ならいつか僕の深層羅神を使えるようになると信じていますよ」


現状、その目処は立っていない。


だがそれでも、ノアの返答は一つだ。


「ああ、当然だ」


オルストの身体が粒子に包まれる。


それは反転神の試練が終わったことを意味していた。


「次は整合神ガルヴェイムの試練……まあ彼も僕と同じで戦闘の関わる試練ではないと思いますよ。まあ僕の場合は結局少しだけ戦いましたが」

「整合神か……場所は?」

「グラエムから北に見える山脈……その頂上ですねぇ……ガルヴェイムもまた随分な場所を指定したものですよ」


結局グラエムは出ることになるようだ。


正直今のノアならグラエムを出ることは容易い。


入るのに手間がかかるのだが、方法はもう解った。


つまりどうにでもなる。


「……解った。できる限り早く向かおう」

「頼みますよ。君は、僕達の希望なのですから……」


神域が崩れていく。


それと同時にオルストは完全に粒子となり、その全てがノアへと吸い込まれていった。


そうして次の瞬間にはノアはヴァンデラの地下に戻っていた。


「希望、ね……」


神々の想いを受け継ぐ存在として、その希望まで一緒に背負うのは当然のこと。


そしてそれは当然神々だけでなく、この世界に住む全生物の希望でもある。


「……まあ、何でもいい。どうせやることは同じだ」


ノアはそのまま部屋を出て、階段を上がっていく。


次の試練は北にある山脈の頂上。


そこに行くまでにまずやるべきことがある。


それは四王への報告だ。


とりあえず四つ目の試練を突破したことを伝えなければならない。


事情を話したのだからあの四人には包み隠さず全てを伝えるべきだろう。


やることは決まっているため、ノアは別のことを考える。


まず考えるのは───


「五番目が判明したということは、これで全ての順番が確定した」


破壊、再生、未来、反転……


これがこれまで越えてきた試練だ。


そして次、五番目は整合であるときた。


七、八は終焉、創造であるため、六番目は自動的に追憶ということになる。


つまり神域試練の順番は───


「破壊、再生、未来、反転、整合、追憶、終焉、創造……ただ、本当にこれだけで終わるのか……?」


これを考えた時、ノアの中に一つの疑問が生じた。


「八神というのはこの世界の本来の神である界律神アスティリアを分割した存在だ。それらの権能を完全に一つに纏めてしまえば、きっと界律神は蘇る……」


もしかすると、それこそが最後の試練なのかもしれない。


だがそうなるとレイシェルの言葉と矛盾が生じてしまう。


「レイシェルは、界律神アスティリアは自身の愉悦のために世界を創造し、そして滅ぼしかけたと言っていた……だが、それは……?」


そう考えている内に最初に集まった部屋の目の前まで辿り着く。


「……まだ時間はある。考えるのは後にした方が良いな」


どうせ今考えても仕方のないことなのだ。


今考えるべきは四王のことと次の試練について。


目の前の問題を片付けなければならない。


「……行くか」


ノアはその扉を開ける。


するとそこには───


「……は?」


惨殺されたクレス、ジェラルド、アルテマの遺体が転がっていた。


「何、が……?」


状況を理解できず、ノアは数秒だけ呆然とする。


その隙を狙った攻撃が、ノアの側面から音を軽く超える速度で飛んできた。


「ッ……!?」

「なるほどなるほど、まあお前程の力ならこの程度の攻撃は容易に止めるであろうな」


そこにいたのは、紫色の髪をした男だった。


状況からして三人を殺したのはまず間違いなくこの男だ。


「……の、ノア様っ……!」

「その声……エルナかッ!?」


よく見れば部屋の奥は壁が崩れ、瓦礫と化していた。


その瓦礫に埋もれるようにして倒れていたのは、魔王エルナ。


(どういうことだ……?四王では間違いなくエルナが一番強い。だからエルナだけ生き残っているというのは解る。だがこの男、こいつだけ解らない……!)


この強さであるならばきっとこの世界の人間ではない。


この男がこれだけ強いのならクレスが王になれるはずがないのだ。


「さあさあ、もっと私を楽しませて見せろ、王共よッ!」


男が言葉を発した瞬間、その手に魔法陣が描かれる。


それはノア……ではなく、その後ろにいたエルナに作用した。


「う、ぁ……」

「これはッ!?」


魔法が完全に発動し、エルナはそれに突き動かされるかのように高速で男の目の前に移動し、ノアの方へと振り返った。


「うぁ……アアアアア!!」

「っ……理性が……?」


その咆哮はまるで獣のよう。


理性が完全に飛び、この世界の王でありながらその身体は三人を殺した男を守るようにノアに対して臨戦態勢を取っていた。


「……チッ」


ノアは四王と戦うつもりなど全くなかった。


だが、こうなってしまっては仕方がない。


「エルナ……痛いと思うが、我慢してくれ。そして、お前」

「ふむ、私のことか?」


男はまるで惚けるように聞き返す。


ノアからすれば、その男の動きは一挙手一投足が全て癪に触った。


「不快の極みだ。この世界を、この都市を穢すのなら……お前は俺が、魂ごと消し去ってやる」


王を殺した男の正体とは───

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