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穢れた世界の救い方  作者: 月影偽燐
3章.神域試練編
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13.四王

「そういえば四種族の王ってのはどんな奴らなんだ?」


ヴァンデラ内部の階段を下りながらノアがジェラルドに問う。


ノアはジェラルド以外の三人の王には会ったことがない。


人柄などは事前に知っておいても損はないだろう。


「まあ面識はないわな……オレ含め、四種族の王は通称四王って呼ばれてる。まず人間の王は人王クレス。王になってから十年程度の男だ。物腰は丁寧だが、王の中じゃ一番腹黒いだろうよ」


人間は四種族で最も寿命が短い。


それで十年間王をしているとなると人間としては別に短くもないだろう。


「魔族の王は魔王エルナ。今の四王だと最も王の期間が長く、二万年近く勤めてるらしい。こいつも物腰は丁寧だな。それでいて腹黒くないのがクレスとの違いだ」


エルナ……名前からして女だろう。


だが今の時代、強く、人望があれば性別など関係なく王になれる。


これ程の期間王をしているのなら相応の強さがあるはずだ。


「精霊の王は霊王アルテマ……こいつはまだ九歳だ」

「……何だって?」

「……九歳だ」

「……まじかよ」


聞き間違いかと耳を疑うノアだったが、どうやらそれは聞き間違いではなかったらしい。


「王になったのは七歳の時だから、二年だな。歳は歳だが、正直こいつが一番頭が良い。でも話し方がうぜぇ」

「いやそれは知らねぇよ」


口調などどうでもいいのだ。


「しかし、九歳が一番賢いのか?」

「いやぁ……魔王も十分賢いとは思うんだが、どうも才能的な意味でなぁ……」


戦闘もそうだが、頭脳というものにもある程度才能は関係する。


魔王は生きている年月から考えて相当知識はあるだろうが、結局はそれだけなのかもしれない。


まあ戦闘に関して言えば才能以前に権能を持っていればその時点で差があるのだが……


「っと、着いたぜ」

「ここか」


目の前には両開きの扉。


この向こうにそれぞれの王がいるのだろう。


ジェラルドが扉を開ける。


するとその向こうには───


「ッ!?ノア様!?」

「……は?」


唐突に名前を呼ばれ、ノアが困惑する。


よく見れば部屋の中には四つの椅子が円卓を囲むように並んでおり、その内の入口から正面を向いた椅子に座っていた女が目を見開いて立ち上がっていた。


「お前は……」

「あいつが魔王エルナなんだが……何だ?面識でもあったのか?」


灰色に近い銀髪の少女のような外見をしたのが魔王エルナらしい。


背丈はユキよりは高いとはいえ、ノアからすればやはり低い。


ノアはそれらの情報から記憶を探ってみるが、当然今の記憶には存在しなかった。


つまり、少なくとも今のノアに面識はない。


ただ、今の魔王は二万年程生きていると聞く。


それなら八神に蘇生される前の……前世のノアとなら面識があってもおかしくはない。


「……なあ、魔王」

「っ……!……何でしょうか?」

「俺のことを知ってるみたいだが、会ったのは二万年前だな?」

「は、はい」

「そうか……悪いが、その頃の記憶がないんだ。俺はお前のことを覚えていない」

「そう……なのですか」


エルナという名の魔王は目に見えて落ち込んでいる。


この分だと二万年前のノアは彼女を助けたりでもしたのかもしれない。


「そう気を落とすな。そう遠くない内に記憶は戻るはずだ」


少なくとも追憶神の神域試練後には戻っているだろう。


それまでにという話ならかなり不可能に近いとはいえ、これまで短期間で三回試練を突破しているのだ。


次の反転神の試練もこのヴァンデラの地下なのだから、試練の場所までの移動時間はないにも等しい。


ノアは試練の順番を知らない。


だが次……四番目が反転であり、最後の八番目が創造、その一つ前が終焉であることは聞いたので間違いない。


つまり追憶は五番目か六番目。


そう時間はかからない。


「そうなのですね……改めて、今は魔族の王をしております。エルナと申します」

「知ってるみたいだが、俺はノアだ。過去の記憶はない」

「ふぅん……君がそうなのか」


そんなノアとエルナの自己紹介に割って入る存在がいた。


ノアがそちらの方を向くと、そこには子供がいた。


薄緑色の髪をした女の子だ。


背丈はユキと比べても顔一つ分近く低い。


ジェラルドから聞いた中でその特徴に当てはまるのはただ一人……


「……霊王か?」

「いかにも、私は精霊の王……霊王アルテマさ」


姿は人間や魔族に近い。


だがよく見れば薄い羽のようなものが背中の後ろで浮遊しているのが目に見えた。


「再度聞くが、君がこのグラエムの異変を解決してくれたんだね?私も精霊の王として、礼を言わせてもらうよ」

「……いや、これに関しては成り行きでしかないんだ。確かに解決はしたかもしれないが……俺の目的は別にある」

「……ほうほう、それならその目的とやらを聞きたいものですね」


今度は人間の男が会話に割り込んでくる。


「僕は人王クレス。君も人間のようですし、魔族や精霊、獣人とではなく我々と手を組んだ方が得策なのではないですか?」

「お前なぁ……」


クレスの発言にジェラルドが呆れたような目を向ける。


この手の発言はジェラルドもしていた。


故にジェラルドはその手を取ることがないことを知っているのだ。


「……的外れな発言だな」

「……と、言いますと?」

「種族間のどうこうというものには一切興味がない。くだらない争いをする前に、考えなければならないことがあるはずだ。それに気づいていない時点で、お前も、ジェラルドも同類だよ」


ノアにとってどの種族を優遇する、深く関わるというのは全く以て無意味の問答だ。


魔王と霊王はある程度察しているのか、そのようなことは言ってこなかった。


それなのに、獣王と人王は言ってきた。


この時点でどの程度世界を考えているかなど明白だろう。


「それは……どういう意味ですか?」

「……君も少しは考えてみるといいさ。少なくとも、私よりは長生きしているはずだろう?」

「……チッ」


確かにアルテマはまだ九年しか生きていない。


だがその頭脳はこの中でもトップクラスだろう。


少なくとも、二万年は生きているエルナと同じ結論に至る程には。


「私は界滅爪が現れる以前から生きているので解りますが、この世界は間違いなく滅びの一途を辿っています。そしてこの前、あの右手に起こった異変……きっともう、世界の終わりは近いでしょう」

「エルナの言う通りだね。世界が滅びればそこに存在している生命……私達も全て消え去る。種族間のいがみ合いなどちっぽけなものさ」


詳細こそないものの、二人の発言はまさにノアの言おうとしていたことだ。


長く生きているエルナと、卓越した頭脳を持つアルテマだからこそ、その考えに行き着く。


「まさにそれだ。詳しく言うなら、この世界は間もなく滅ぶ。ジェラルドには言ったが、少なくともお前達の寿命が尽きる前にはな」


クレスはかなりギリギリだろうが、病などにかからなければ生きていてもおかしくはない年齢だ。


「具体的には、最短で13年弱、長くても50年も耐えられないそうだぜ」

『ッ!?』


三人がジェラルドの言葉に驚愕する。


エルナとアルテマまでも、だ。


「まさか……そう遠くない内に滅びるとは思っていましたが」

「こうも直近だとは考えてもいなかったな……」

「で、でもそれが嘘の情報の可能性も……!」

「大人しく諦めやがれ、クレス。ノア、一応聞きたいんだが、情報源って教えて貰えたりするのか?」


ジェラルドの問いに対するノアは返答はもうすでに決まっている。


ジェラルドにハーティアを見られてしまっているというのもあるが、何よりも今後、ノアの行動を縛らせないために四王に言っておきたいと考えているが故に。


「これはこの世界の神の一人、未来神ハーティアからの情報だ。間違いはない」


ノアの言葉を受け、四王は黙る。


否、何も話せなかったのだ。


「神などという不確定な情報を出されても……」

「オレ達に確かめる術なんてねぇぞ……」

「少なくとも私達は神に会ったことなどないが……」


クレス、ジェラルド、アルテマの三人はノアの発言の真偽が解らず、困惑した様子を見せる。


そんな中でも、エルナだけは違った。


「私は……信じます」


その言葉にアルテマが呆れたように言葉を返す。


「……君がかつて救われたという話は耳に挟んだよ。仮に彼がその相手なのだとしても、それは今回の件には無関係だ。信じたい気持ちも解らなくはないが、君はもう少し現実を見た方が……」

「いえ、その件とは無関係に、私はノア様の言葉を信じると言っているのです」


確かに、これまでの経緯から考えるとエルナがノアを庇うのは自然な流れともいえる。


だがそれはたった今、エルナ本人が違うと断言した。


「……なら、その理由は?」

「知っての通り、私はすでに二万年生きています。そして界滅爪がこの世界に現れたのは三千年前で、この都市を覆う結界が創造されたのは二千年前ということは皆様も知識としてあるでしょう?」

「まああくまでも知識としてだけたがなぁ……」

「それが一体どうしたというんです?」


ジェラルドとクレスはまだそこまで考えが行き着いていない。


だが……この質問をした張本人であるアルテマは一つの結論を導き出していた。


「ここでその話を持ってくるということは……まさかとは思うが、君は神を見たことがあるということかい?」

「……なに?」

「それは……」


そこまで口を挟まずに見ていたノアが、ここで口を開く。


「まず間違いないだろうな。この世界の神……権能を司る八神は、あの右手……穿界の魔手が現れた際に顕現して止めようとしたらしい。その折に見ていても、何らおかしな点はない」


ノアが現時点で持っている追憶神の記憶ではそうなっている。


これさえ創造神に改竄されていたのなら話は変わってくるが、その可能性は限りなく低いと言って良いだろう。


「……今、ノア様が仰った通りです。私はあの右手……ノア様の話では穿界の魔手というそうですが、あれが現れた時と、この都市を覆っている結界が創造された時……つまり、二回神という存在を確認しています」


他の三人は確証を持てないとはいえ、エルナが自身や種族のために嘘をつく存在ではないということは知っていた。


故に信じられなくとも信じざるをえないのだ。


「……神などという存在を信じたことはなかったよ。もし本当に神がいるのなら、あの手……穿界の魔手と言ったかな?あれがこの世界に存在しているのがおかしいと思っていた」

「違うな。あれは神にすらどうにもできなかった存在だ。お前だってこの前の戦闘が見えなかったわけではないだろう?」

「……」


いくら距離があるとはいえ、あれほどまでに大規模な戦闘だ。


闇や雷電はきっと見えていただろうし、虚無のおぞましさも感じ取れたはずだ。


「……私があの時に穿界の魔手の位置から感じた力は四つだ。常闇、雷電、霊域核……そして、何かは解らなかったが、もう一つ」

「それは私も感じました。ですが、最後の力には覚えがあります」


どうやらアルテマとエルナはガロンの常闇、ヴァディアの雷電、そしてラフィナの使用した霊域核の力は解ったようだ。


だがアルテマはノアの虚無までは完全には理解できなかったらしい。


「あの何も掴めなかった力……まるでそこだけ空間を切り取ったかのような無の空間。あれに覚えが?」

「ええ、二万年前、見たことがあります」


そこでエルナはノアの方を向いた。


「ノア様ですよね。あの力……虚無の権能は」

「……そうだ」


二万年前も今も、虚無の権能を持っているという事実は変わらない。


エルナは間違いなく二万年前にノアの虚無の権能を目撃している。


それがどの程度の強さのものなのか、ノアには解らない。


とはいえ、内包する力と考えるなら少なくとも今よりは遥かに強いはずだ。


前世のノアはまず間違いなくアルファルドよりも強かったはずなのだから。


「……正直な感想としては、あの力はどれも我々の理解できる範疇を超えているということかな。少なくとも私にはどう足掻いても使うことのできない力だよ」

「だよなぁ……まあオレは全部は気づけなかったが……」


ジェラルドは全ての力は感じ取れなかったようだが、それでも何か不吉な気配を感じていたのは確かだろう。


「まあつまり、敵はこの世界の外から来た存在だ。そして奴らはこの世界の神々よりも強い。何せあの雷電ですら二番手の奴の力だからな」

「……ちなみに、相手の最高戦力はどの程度なのですか?」


相手の最高戦力……


間違いなくアルファルドだ。


「向こうのトップは異世界の皇帝、アルファルド。そいつが持つ力は壊滅だ。具体的な強さは……そうだな、弱化しているとはいえ、俺の虚無が無条件で滅ぼされる寸前にまで追い込まれた程度といったところか」

「それは……凄まじいですね……」


エルナだけはノアの虚無を知っている。


故にそれを滅ぼしかけたアルファルドの壊滅に戦慄する他ないのであろう。


「それほどのものが……この世界を狙って……?」

「理由までは俺も知らん。だが、奴らが何かしらの目的のためにこの世界を滅ぼそうとしているのは事実であり、残された時間から考えて、打てる手はあと一つが限界といったところだ」

「ふむ……その手というのはもうすでに決まっているのかい?」

「ああ……」


それこそが神々の最後の計画。


八神は最後の希望として、その権能をノアに託したのだ。


「計画はもう始動している。それこそが俺という存在だ」

「……というと?」

「神々は己の権能をたった一人の存在に集約させ、全ての権能を持つ存在を創り出そうとした。その器に選ばれたのが、二万年間死した状態で眠っていた俺の魂だ」


逆に、これはノアでなければならなかった。


ノア以外の存在ではそもそも権能の力に耐えきれずに魂が自壊してしまう。


仮にそれに耐えたとしても、八神の権能を集めた時に完全顕現してしまう界律神アスティリアに肉体の主導権を乗っ取られてしまうだろう。


故に、神の権能よりもより強い力を持った存在に力を与えなければならなかった。


だがそれはアスティリアでさえも想定していなかっただろう。


彼女でさえも、ノアに力を集約させれば界律神が現れてしまうと思っていた。


それでもなお、頼らなければならなかったのだ。


しかし偶然が必然か、ノアには虚無の権能という神々の権能よりも遥かに上位の力を所持していた。


今でこそ神々と同等の強さだが、記憶や力を取り戻せば界律神など瞬殺できてしまう程度の力はあるはずだ。


それがあるのなら仮に界律神が顕現しようとも肉体どころか魂の内部で界律神を押し込めることができる。


少なくともその可能性は限りなく高い。


「つまり、神々は世界を救うために君を寄越したということかな?」

「そうなるな」

「まさかこれ程までに壮大な話だったとは……一種族に拘っていた僕が愚かに見えてきます」


ノアにとっては興味のない話とはいえ、実際にこの世界に生きる生物の中の一つ、人間としてならクレスの考えも別に間違いというわけではない。


ただ、今はそんなことを考えている余裕はないというだけの話である。


「話は概ね理解したんだが……それをオレ達に聞かせた上で、お前はどうするつもりなんだ?」

「問題はそこですね。私としては、ノア様にはできる限り協力したいところなのですが」


ここでノアが四王に提示する条件は明白だ。


「簡単な条件だ。俺がグラエム内で自由に動けるようにして欲しいというだけ。できないとは言わせないぞ」

「……その程度で良いのかい?我々も何だかんだそれぞれの種族の最強。君レベルの強さは持ち合わせていないが、無力という程ではないのだけれど……」


確かにここにいる四人はこの世界の基準なら上澄みだろう。


流石に神々と比べるなら弱いが、そんな神々を見たことがない存在が過半数を占めているのなら、彼らは今まで戦闘での敗北をしたことすらないのかもしれない。


だが、相手は現状のノアですら歯が立たない程の強者。


四王如きで相手になるはずがなかった。


「お前達もこのグラエム内部でなら最強なんだろうが、穿界の魔手を操っている軍勢、穿界軍が相手なら話は別だ。お前達が太刀打ちできなかった先日の異変、あれは穿界軍中将の仕業だった。中将と大将は俺が殺したが、元帥と皇帝はまだ生きている」

「敵軍のツートップが健在か……そりゃオレ達に勝てるわけがないのは解るけどよぉ」

「それだけでなく、創造神が世界創世後、すぐに創造したもう一人の神が敵の元帥に殺され、その身体を屍として操られている状態だ」

「……それはつまり、この世界の神すらも敵になってしまっているということですか?」

「そうだ」


これで四人も理解したはずだ。


自分達が首を突っ込んでいい話ではないと。


「俺は今、八神の権能を全て継承するための試練……神域試練というものを受けている。現在、三つまではクリアしているが、次の試練開始地点がこのヴァンデラの地下なんだ」


神域試練を他人に言ったことはない。


だが、この四人ならある程度は信頼していいだろう。


それぞれの思惑はあれど、世界を終わらせたくないというのはきっと同じなのだから。


「……解りました。エルナさんの証言もありますし、僕は信用します。グラエム、ヴァンデラを含めた全ての場所への立ち入りを認め、同時に妨害がないように都市の最重要事項としましょうか」

「まあそうだな。神が敵ってのは流石に踏み込んではいけねぇ領域だわ」

「かつて見た神は能力の次元がまるで違いました。私達がどう足掻いたところで、勝てる可能性は皆無でしょう。種族間のいざこざはこの際無視して、全面的にノア様に協力しましょう」

「できるのは邪魔が入らないように場所を整えるだけか……てもまあ仕方ないね。次はこの地下だったかな?それならそこまで案内しよう」


どうやら全員協力してくれるようだ。


ノアは仮に協力してくれなかったとしても強行突破するつもりだった。


だがそれをする必要がなくなったのならそれに越したことはない。


「ああ、よろしく頼む」

「任せてくれ」


一度デュランにそこまで通されているので、ノアは地下の場所を知っている。


それでも、案内してくれるというのならそれには乗るべきだ。


その行動は協力するという思考故のものなのだから。


これで四種族……この世界に存在する知的生物の協力は得ることができた。


後は神域試練だ。


それさえ突破できれば、きっとノアの手もガロンに届く。


「待ってろ……ガロン……」


ノアは四王に聞こえない程度に小さく呟く。


だがそこに込められた意志は確かであり、確かな闘志と殺気が宿っていた。


「すぐに、お前を解放してやるから」


種族の意思は世界を救う方向へと統一される───

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