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穢れた世界の救い方  作者: 月影偽燐
3章.神域試練編
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9.突破

レイシェルの魔法によって右腕も魂も完治していたノアは来た時とは比べ物にならない速度でグラエムへと戻っていく。


数日かけて来た道を数時間もかからずに駆ける。


魂の損傷というものは身体能力に大きく作用してしまう。


魂に傷を負っていたノアの場合、反応速度も含めた全ての速度は大きく低下していたのだ。


今の状態でリオエスタの試練をしたなら血壊鎌の攻撃速度にも余裕を持って対応できていただろう。


だがノアの力は贔屓目なしで八神と同程度。


それなら何故魂を損傷していたノアを相手にリオエスタもレイシェルも敗れたのか……


それはそう難しい話ではない。


神々はノアに半分近くの権能を譲渡している。


神の強さは権能に直結するため、半分の権能を失っているということは神の強さも半分になっているということ。


魂を損傷したノアと権能を半分譲渡した神……ここまできてようやく五分に近い。


しかし魂が修復されたからといってこれからの試練が余裕になるわけではない。


(あいつらもあいつらで何かしらの策があるんだろう。そもそも戦闘系の試練じゃないかもしれない)


ヴェレイドはまず間違いなく戦闘系だが、残りの五人もそうだとは限らない。


それに、仮に他も戦闘だったとしても余裕はない。


ノアも神も、互いの手の内を完全に理解しているわけではないのだ。


ノアは深層羅神や神域を含めた各々の権能の真髄を知っているわけではないし、神々も虚無の権能の底を知らない。


というかノアも虚無の権能の真価が見えない。


(まあ何となく虚無により『存在していないのに存在している』という矛盾からなるものだというのは解るが……)


それも絶対ではない。


それに、更にその先があるのかもしれない。


ノアにとってもそこは未知数なのである。


「……さて、そろそろグラエムも近いが……流石に変化は見られないな」


デュランやラフィナとの戦闘、そしてガロンとヴァディアの激戦からまだ十日も経っていない。


流石にたった数日で復興するのは不可能だろう。


この世界の技術はそれ程高いわけではない。


戦闘能力こそそれなりにあるようだが、穿界軍や神々と比べると天と地というのも烏滸がましい差がある。


ただの属性魔法などで勝負できる次元ではないのだ。


何かしらの権能と呼べる力がなければ戦いにすらならない。


そこで起きるのは一方的な蹂躙だ。


「そうならないためにも、俺がアルファルドを止めるしかないんだ」


再度それを認識したノアはその速度を大幅に上げる。


空間転移(レグ・ゼグラ)』は相変わらず使えない。


世界中の空間の魔力が乱れすぎている。


だからこそ、移動は魔法を使わずに自力だ。


そうこうしている内にノアはグラエムへと辿り着く。


眼前には結界。


そう、結界門がそこにはあった。


「……久々の結界門だな」


最早懐かしいレベルだ。


実際にはあれからそう時間は経っていない。


戦いの密度が濃すぎたのだろうか。


ノアは前回同様、結界門に右手を置く。


すると白銀色の雷がノアに襲いかかった。


「これも……前と同じだ」


前回は雷に撃ち抜かれながらもノアが害悪ではないと認識され、門が開いた。


それは、きっと今回も───


「……は?」


次の瞬間、ノアも想定していない事態が起きた。


右手が完全に弾かれてしまったのだ。


ノアはこの世界を害そうという意思はないにもかかわらず弾かれた。


本来ならそれは有り得ない。


この結界門は世界の、生物の害悪しか弾かないはずだ。


「これはどういう……いや、待て」


そこでノアは一つの結論を見出す。


「……俺が、虚無だから……?」


この結界門が見定めているのはその者の精神だ。


生物に害をなそうという考えがあるのなら弾かれるのも当然とも言える。


だがそもそもの話、その精神を観察できなければ開けていいかの判断すらもできない。


ノアは、その精神が虚無になってしまっていたのだ。


そうでなければ説明などつかない。


「これは……困ったな」


正直な話、今のノアが結界門を破ること自体は難しくない。


問題なのはそれによってグラエムに起こる影響だ。


グラエムの外で渦巻いている死の概念。


これはノアや神々……ユキを含めた神に連なる者達だからこそ耐えられたもの。


この世界に住む通常の生物に耐えられるものではない。


ノアが結界門を破壊してしまえばこの世界に生き残っている1000万の命が散るだろう。


どうにかそれを回避しつつこの中に入らなければならない。


この場面で何かしら使える権能は……


「……使うなら創造の権能だが……俺にここまでの改変ができるか……?」


念話(レクト)』程度を貫通させるのはそれ程難しくはない。


あれは魔法なのだ。


対して今必要なのは魔法ではなく、ノアという物質を通す力。


ノアの技術で創造の権能を使ったとしてもたかが知れているだろう。


「……いや、あの方法なら……だが、俺にできるかどうかはやはり未知数だな……」


ノアは一つの方法を思いつく。


だがそれが可能か不可能かは解らなかった。


それだけ難しいことをしようとしているのである。


「すぅ───はぁ───」


極限まで集中を高めるためにノアは目を閉じ、深呼吸をする。


これまでにノアがここまで集中力したことがあっただろうか。


少なくとも落ち着ける状態で集中したのはこれが初だろう。


故に、その集中力はこれまでの比ではない。


不意にノアはその目を開く。


「門そのものを改変できないなら……周囲の環境を変えてしまえばいい」


使うのは創造の権能と追憶の権能。


「『神天聖域(アレイトレア)』ッ!」


創造の権能による魔法で結界門周囲を囲うような結界を展開する。


「結界は制限をかければ効力を増す───」


故にこの結界では物質が阻まれることはない。


遮断するのは概念のみ。


それも、死の概念だ。


ここまで限定的な効果範囲ならば死の概念だけは絶対に通すことのない強固な結界と化す。


そして、その上で───


「───『限定的(エルネス)()時間遡行(ネヴェルゼス)』」


本来の追憶の権能を二回改造した魔法。


本来の『時間遡行(ネヴェルゼス)』は術者自身を過去に戻すという魔法だ。


そしてそれの逆ということは過去そのものを術者のいる現在に持ってくるというもの。


これは『置いて行かれた世界(ネヴェル・ネヴァリム)』と結果的には同様だ。


違うのは巻き戻せる時間。


置いて行かれた世界(ネヴェル・ネヴァリム)』はできても数時間だが、『()時間遡行(ネヴェルゼス)』なら追憶神が生誕したその瞬間まで巻き戻せるのだ。


だが、この魔法はこのままでは成立しない。


ただ過去へ遡ることと世界そのものを巻き戻すのはプロセスこそ逆だが、得られる結果は変わらない。


故にこの魔法は成り立たない。


だから必要になるのが範囲を限定することなのだ。


限定する範囲は『神天聖域(アレイトレア)』内部の空間全て。


推定半径100メートルの球状の範囲内が過去へと巻き戻る。


(穿界の魔手は三千年前から現れ、この門は二千年前に創られた……だがこの門が創られた当時はここまで死の概念は強くなかったはずだ。それなら、どうにでもなる!)


空間に満ちていた死の概念が急激に薄くなる。


「この状態なら───!」


そこで発動するのは『崩壊神撃(ガル・アヴェナ)』。


今のノアは破壊の権能の全てを所持している。


なのでこれよりも強い魔法を使うことも当然可能だ。


だがそれを使うわけにはいかない。


これよりも強い魔法を使えば、結界門どころかその内部にまで被害が広がってしまう。


(今の状態なら『崩壊神撃(ガル・アヴェナ)』でさえもギリギリなんだ……力の調整を怠れば、周囲一帯が吹き飛ぶ)


更に意識を深化させる。


己の魂と、所持する破壊の権能を見極めるように。


レイシェルが再生させた右腕で白雪を強く握る。


刀身に紅い魔力が満ち、僅かに周囲へ影響を与える。


だが、血は使っていない。


使ってしまえば威力が増す。


そうなれば破壊の力は結界門を超えてグラエムを襲う。


それを避けるために血は使わない。


(一点集中……この力を、一箇所に集約させる)


三つの権能の同時行使はラフィナに使った斬撃以来。


あの時は無理やり使っていたが、今は繊細な調節が必要だ。


(効果範囲は狭く……結界門を完全に破壊しなくてもいい。俺が通れる程度の穴さえ空ければ問題ないんだ)


通ることができたら後はどうとでもなる。


「───はッ!」


紅く染まった白雪を三閃。


刃は門を斬り裂き、ノアがギリギリ通れる程度の空間を作った。


「ッ!」


ここで遅れれば死の概念がグラエム内部へと侵入してしまう。


いくら空間の時間を巻き戻して弱くなったとはいえ、一般人が触れていいものではないのだ。


だが穴をすぐに塞げばそれを回避できる。


ノアは瞬時にその穴を通り、内側から再生と創造の権能を同時行使する。


破壊の権能はもう必要ないので切ってこそいるものの、追憶の権能は相変わらず発動中。


しかも『神天聖域(アレイトレア)』を展開しているので創造の権能はすでに使っている。


その上で、創造魔法を二重展開しようとしているのだ。


「ぐっ……!?」


二重展開をしようとしたその瞬間、ノアの魂に大きな負荷がかかる。


「何故……」


この世界では同時展開できるのは別々の魔法系統でしかできない。


技術などの問題ではなく、そのような理となっているのだ。


例外なのはその分野の神だけ。


創造神の権能を完全掌握していたなら、ノアも同属性の二重展開は苦もなくできただろう。


破壊の権能と再生の権能なら現時点でも可能だ。


だが創造の権能はまだ完全ではない。


故に、現時点での二重展開はできない。


それは理に反しているからだ。


背こうとすれば神ですら逆らえない程の莫大な負荷が魂にかかってしまう。


だが……否、だからこそ、ノアは二重展開をする。


「俺は───そもそもこの世界の存在じゃない。この世界の理なんて知ったことか」


ノアなら、この世界の理に逆らえる。


何故ならノアはこの世界で産まれた存在ではないから。


更に、ノアの力は虚無の権能。


存在そのものが理の範疇にない。


故に───


「───使えるはずだ。虚無であれば」


三つの権能に加え二重展開までして疲弊していた魂が活性化し、やがて無に染まる。


傍から見れば魂が消失してしまったかのようにも思えるその状態は、ノアの場合はその真逆なのだ。


まるで空間を抉り取ったかのような無がそこにある。


暴力的なまでの権能の力が周囲を汚染する。


そして───


「───はは、やっぱりそうじゃないか」


それらが全て霧散した後、そこには何もなかった。


正確には何事も起こらなかった状態へと世界が元に戻ったというべきか。


唯一違うのはノアの位置。


結界門の外から、内へと移動していた。


「案外できるものだな、この力も」


虚無により理に背いたノアだからこそ、それができたのだ。


創造魔法の二重展開を可能にし、再生と創造の権能により門を修復した。


その間に流入してくる死の概念はノアの虚無によって染め上げ、全てをなかったことにする。


そして、それら全てを解除した時にはまるで何事も起こらなかったように世界そのものを書き換えたのだ。


「これが───創造の権能の真髄か」


『過去を創造することによって起こる世界の書き換え』───


それこそがこの権能の真髄。


創造の神域試練の前に、もう気づいてしまった。


「……やっぱりあいつが最強なんじゃないか?」


権能そのものの単純な強さなら終焉が最も強く、次点で破壊だ。創造はどう足掻いても三番目までにしかならない。


だがその権能の内に秘められた能力───それぞれの権能の真髄だけで考えるなら、創造の権能に勝てるものなどないのではないかとも思えた。


当然、ノアの虚無やアルファルドの壊滅、ガロンの星と闇などは別だが……


「……まあいいか。それよりも、未来神の試練が先だ」


ノアはグラエムの……都市庁ヴァンデラへ向き直る。


どんな試練か……それはノアは当然、未来神以外の神々も知らない。


だが、一つだけノアにも解ることがある。


「───まあ、悪いようにはならないさ」


何故ならそれが……世界の救済こそが神々の願いなのだから。


ノアは再度、最終都市へ───


ここから2ブロック、始めさせていただきます。

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