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穢れた世界の救い方  作者: 月影偽燐
3章.神域試練編
35/48

8.再生神レイシェル

「───!」

「これは───」


その魔法によって現れたのは双頭の竜。


破壊神の深層羅神の破滅災牙とは違い、こちらは龍ではなく、竜だ。


(こいつ……破滅災牙とは真逆の力を持っているのか……?)


つまり、この竜が持つのは再生の権能に他ならない。


だが───


(レイシェルは攻撃をすると言った……だがこの竜……魔法名から取って生誕竜とでも呼ぼうか。その生誕竜から感じるのは攻撃には向かない再生の権能だ。だからどう攻撃されるのかが一切解らない……)


攻撃手段が不明……しかしそれでもノアはその攻撃を受けなければならない。


(耐えろと言われたということは、こちらからの攻撃と回避は禁止だ。だが防御そのものは何も言われていない。『混沌災禍(ラグナヴィア)』は……使わないでおこう)


前回は力の覚醒があったからこそ『混沌災禍(ラグナヴィア)』を使ったが、あれは最終手段だ。


全てあの魔法で解決していては駄目だということは誰にだって解る。


あの魔法はきっと、アルファルドにはあまり通用しない。


だからこそ、それ以外の全てを強化しなくてはならない。


そのために成長が必要なのだから自身が今使える最強の手段ばかり使ってはいられない。


「……さあ、行って」


レイシェルの声に従うように、生誕竜はノアに向かって突撃する。


ノアも試練通り、抵抗はしない。


するのは防御のみ。


生誕竜はその双頭をノアへと伸ばし、噛み砕かんばかりに力を込める。


その力は大したものだが、神々やノアからすれば全く足りない。


この程度ではノアの魂はおろか、その身体さえも傷つけられはしないだろう。


だが当然、神の魔法がこの程度で終わるわけがなかった。


(やはり再生……だが、これは……)


その瞬間、ノアの身体に異変が起こる。


「───がッ!?」


突然、ノアの全身が生誕竜の牙によって蝕まれ、魂にまで影響を及ぼす。


だが、生誕竜から感じるのは紛れもなく再生の権能だ。


再生に蝕まれる。


それが意味するのは───


(これは───過剰再生か!?)


再生の力が強くなりすぎるとその力が逆流するような現象が起こる。


行き過ぎた再生は毒のようなものなのだ。


つまり───


「……今、ノアは再生の権能を使えない……使っても意味がない。何故なら過剰再生に再生の権能を重ねるのは、事態をより悪化させる要因となるから……」

「チッ!?」


この状況を打破する手段は限られている。


一体何を使えばいいのか、それを瞬時に吟味するという本来ならできるはずのない芸当をしなければならない。


(再生が意味をなさないなんて……一体どうすれば……)


そんなことを考えた瞬間、ノアの脳裏に一つの言葉が蘇る。


───『私の呪いは終焉の権能とよく似ている。私の力を再生の権能で消滅させるのは非常に難しいだろう。何故なら、再生と終焉の権能は対を成すからだ』


それは以前、ユキに相応しいかを確かめるためにノアの力を試していたガロンの言葉。


もし、この言葉の意味が流用できるのなら───


「───『命の終(ツヴェルト)』」


ノアが終焉の権能から魔法を行使する。


するとその影響を受けた生誕竜は為す術もなく消滅した。


「……やっぱりそう来るんだ」

「考えたんだ。生誕竜は魔法だが、お前が使う魔法ということは同時に生命でもあるのではないか、とな」


実際その予測は当たっており、生誕竜の持っていた再生の力はノアの使った終焉によって消えた。


魔法でありながら命も宿していた生誕竜は『命の終(ツヴェルト)』によって終焉に導かれたのだ。


だが、レイシェルにとってもこの程度はあくまでも小手調べだろう。


「レイシェル───もったいぶらず、お前の深層羅神を見せろ。解っているんだ、お前は明確な攻性魔法を一つも持っていない。生誕竜はあくまでも再生の力しか持たず、その力をより強化しただけのものであると」

「───つまり?」


レイシェルはノアに続きを促す。


とぼけたのではない。


ただ、ノアが理解しているのかを試しているだけ。


ノアも当然、それに答える。


「お前は攻性魔法を持ってはいないが、その深層羅神は完全に攻撃するためにあるもの……そうだろう?」


再生神でありながら神の力の象徴の一つとも言える深層羅神は攻撃するためのもの、というのはいささかおかしな話だ。


再生神レイシェルの深層羅神。それは───


「……完全に理解しているみたいだし、そこまで言うなら私も使う───でも、滅びないでね」

「───ああ」


レイシェルが一つの魔法陣を展開する。


本来、魔法には魔法陣が必須だが、神が己の権能に準ずる魔法を使う時は魔法陣を必要としない。


それどころか深層羅神は権能の具現化のようなものであってそもそも魔法ですらない。


それなのに、レイシェルは魔法陣を展開したのだ。


(一体何故───いや、この魔法は───ッ!?)


魔法陣からどのような魔法かを読み取ったノアは大きく狼狽える。


そんなことを神がするとは想定していなかったから。


だが、もう遅い。


「───『命の返還(レ・リューティス)』」


それは生命そのものの本来持っている力を取り戻す魔法。


だが、これは───


(───これは、再生の権能とは真逆の力だ)


再生や生誕の力を生命として変換するのが再生神の持つ権能のはずだ。


だが今レイシェルがやっているのはその真逆。


命を力に返還しているのだ。


他の何物でもない、彼女自身の命を。


「───お前、死ぬつもりか?」

「───ふふっ」


何を考えているのか一切理解できないと表情を険しくするノアに、レイシェルは初めて笑みを見せる。


「───死ぬわけじゃない。どうせノアは試練を乗り越える。だから、私の最大限の力を最後に使うだけ」


そうして使われるのはもう一つ、『命の返還(レ・リューティス)』と対をなす魔法。


「───『命の変換(レ・ラーティス)』」


力へと返還された命が権能へと変換される。


そして、それは青白い光となり、『巡碧』へと放出された。


「───深層羅神、『命廻覇潰』」


文字通り、命を使い潰す莫大すぎる衝撃。


それを前にして、ノアは───


「……そうか、これがお前の……なら俺も使うべきなのかもな」


衝撃がノアへと迫る刹那にも満たない僅かな時間。


その間にその魔法の準備は完了されていた。


「───『混沌災禍(ラグナヴィア)』」


破滅災牙を無条件で滅ぼしたその魔法がノアを中心に展開される。


空間のあらゆる場所から生命の息吹が感じられたこの再生神域『巡碧』だったが、この魔法によりノアの周囲のみ生命の気配が消えた。


虚無と混沌に呑まれたのだ。


そしてその一瞬後、『命廻覇潰』の衝撃がノアを襲う。


それと同時に周囲の空間が衝撃によって爆散した。


衝撃はノアに限った話ではなく『巡碧』の全てに大きすぎる影響を及ぼしたのだ。


衝撃の威力は想像を絶する程だった。


再生の権能を司る再生神の神域であるというのもあり、この『巡碧』は破壊神の『死海』よりもなお頑丈だ。


正確には強度は同じでも壊れた瞬間に再生するため、瞬時に全てを消し飛ばさなければ滅ぼすことはできないのである。


だが、この『命廻覇潰』の衝撃はそんな再生神域ですら瞬時には再生できないような根源的ダメージを与えている。


それが再生神レイシェルの持つ深層羅神の強さなのだ。


代償があるというのはそれだけ術を強化できるということなのだから。


そして、何よりも不思議に思える点は他にもあった。


ここは再生神域だ。それを再生の権能しか持たないはずの再生神が破壊している。


(矛盾こそしていないが、何ともまあおかしな話だ)


ノアは他人事のようにそんなことを考えていた。


そう、ノアはあれだけの衝撃を受けてもなお無事だったのだ。


壊れた神域でノアはゆっくりとレイシェルへ向けて歩を進める。


歩きながら、周囲を見渡していた。


「───酷い有様だ。白い木々は原型がない程にへし折れているし、葉は消滅。空は修復できないレベルで裂け、大地は大半が消し飛んだ」

「───まさか、これでも生きて───?」


息も絶え絶えといった様子で座り込んだレイシェルが唖然とした表情でノアを見上げる。


レイシェルはきっとノアが死んでいると予測していたのだろう。


実際、魂そのものに作用せずに死んだ程度ならノアは自力で蘇ってくることができる。


だが以前までの……破壊神の試練ならこんなことは絶対にできていない。


「───存外、魂の損傷というのは無視できないものだな。修復しただけでここまでになるとは俺自身も想定できていなかった」

「……なら、これがノアの本来の力……?」


レイシェルの瞳に一瞬だけこれまでになかった感情が映る。


それは畏怖だ。


リオエスタと同じく、レイシェルまでもがノアの力を恐れた。


「……こんなこと、私に言えたことじゃないのは解ってる……でも、言わせて」

「ああ」

「……その力は……何なの……?世界の外の存在で、理に縛られないというのは解る。でも、それじゃ説明がつかない。底が見えない。私はあなたが……怖い」

「ああ、そうだろうな」


ノアはレイシェルの抱いたその感情を正面から受け止める。


ノア自身も、自分が何者なのかを理解できていないのに。


それなのに相手からの拒絶を一身に受け入れる。


「俺も俺が何者なのか、未だに解らないんだ。それでも、この世界の現状に一枚噛んでしまっているというのは解ってる」


ノアのせいというわけではない。


ただ、アルファルドがこの世界にやってきたのはきっとノアが過去この世界に来てしまっていたから。


ノアを追ってきたのか、あるいはノアが世界間を移動したことによって二つの世界に何かしらのパスができていて、それによって世界間の移動がしやすくなっていたのかは解らない。


だがどちらにしてもノアがこの世界に来ていなければこの世界は滅びの危機に瀕することはなかったはずなのだ。


「……そう」


それを聞いてもなおレイシェルの顔から怯えの表情は消えない。


無理もない話だが、ノアを頼っておきながらノアの力を恐れるというのは良くないだろう。


レイシェルとて、最低限の礼儀は弁えている。


だからこそ、怯えなどのどうしようもない根源的な部分は態度に出たとしてもそれ以上のことはしない。


「……ごめん、この態度が良くないのは解ってる……でも、私は……」

「気にするな。俺の力は本来存在してはいけないものだってのは俺が一番理解しているつもりだ。だがその上で、この力を使って救うんだ」


どんな力でもそれを振るう存在によって正義にも害悪にもなり得る。


だからこそ、ノアは世界に存在してはいけないはずの虚無の権能を、世界を滅ぼさないために使う。


───それもこれも、全て二人のために。


「レイシェル」

「……なに?」

「お前の願いも、きっとリオエスタと同じなんだろう。八神が世界を想う優しい神だというのは俺もよく解っている。だからお前の願いも全て、俺が背負おう」

「……ぁ」


その瞬間、レイシェルは理解した。


自分も原因の一つとなっているのだからその責任を取る……そして、ユキとガロンの願いのために世界を救う……


それは確かにどちらもノアの本心であることに変わりはない。


だがそれならこんなことを言うのだろうか。


二人を大切に思うなら、二人の願いだけでもいいはずなのに。


なのにノアは神々の想いも一緒に背負うと言ってくれている。


ノアもきっと、この世界を想ってくれている。


レイシェルはそれを理解した。


(……ああ……あなたも、根幹では私達と同じ……)


レイシェルから畏怖の感情が消える。


その願いは、その心は自分と何一つ変わることはないと信じることができたから。


「……ん、解った……私の願いも、あなたに託す……だから……」

「ああ、救おう。皆のため、この世界を」


それを聞いたレイシェルは二度目の笑顔を見せた。


だがその笑顔は先程とは大きく異なる。


見た目相応の、無邪気な笑顔だ。


きっとこれが彼女の本当の姿なのだろう。


それにつられたのか、ノアもレイシェルに向かって微笑む。


この瞬間、二人は互いの根性を理解し合ったのだ。


レイシェルの小さな身体が青白い粒子に包まれ、ノアに吸収される。


(……全部、受け止めよう。神が俺に向ける畏怖も、その願いも全て)


この感情は神域試練前には持っていなかったもの。


ノアもこの短時間で成長しているのだ。


力や権能ではなく、その心が。その魂が。


光が完全に吸収され、神を失ったことで神域が崩壊していく。


気がつけばノアは湖の前に立っていた。


「……」


感傷がないわけではない。


レイシェルはノアに力を授け、一時的にとはいえ実質的に死ぬ選択を取ったようなものなのだから。


「……これ以上これを考えるのはよそう」


神域試練はあと六回。


毎回これでは精神的にも疲労する。


「……やはり神域が崩壊すれば元の場所に戻るみたいだな」


周囲を見渡したノアが二回の結果から推測を立てる。


「次は……ああ、そういえば聞いていなかったな」


レイシェルは次の試練が何なのかを話さなかった。


単純にノアが聞くのを忘れていただけかもしれないが……


「……仕方がない。試すか」


ノアは『念話(レクト)』を発動させる。


通信先は終焉神ヴェレイド。ノアと唯一この魔法で通信したことがある神だ。


だから通信するならヴェレイドしかいないのだが……


「……遅いな」


数分経っても一向に繋がらない。


一度ノアが諦めようとしたその時、『念話(レクト)』の先からノイズが聞こえてきた。


【───】


これまではそれすらもなかったのでノアは耳を疑う。


「……ん?」


それは人の声のようにも聞こえる。


【……ヴェレイド、聞こえるか?】

【───ぁ───あー、あー、よし、こっちは聞こえるぜ、ノア】


どうにか通信できたようだ。


【次の試練について聞きたいんだが……】

【あー……レイは口数少ねーからなー……】


どうやらレイシェルの説明不足だったらしい。


あの様子だと口数の少なさよりも単純に教えるだけの時間がなかったようにも思えるが……まあそれをヴェレイドが知ることはないだろう。


神域試練の中で何があったかを神々が知ることができるのならその限りではないが。


【次の試練だったな。次はハティの……未来神ハーティアの試練だ。場所は最終都市グラエムの中心部、お前も行ったことのある都市庁ヴァンデラの最上階になるな】

【ああ、あの場所か】


最上階といえばデュランとの戦闘で実質的に屋上のようになってしまった場所だ。


あれから数日しか経っていないため、復興はまだしていないだろう。


何故あのような場所なのかは不明だが、その辺りは考えていても仕方がない。


【それ以降の試練はハティに聞いてくれ。あいつなら忘れることもねーだろうしよ】

【解った。ちなみに、お前の試練はいつなんだ?】


ノアはまだ試練の順番を知らない。


創造神が最後なのだろうと予測はしているが、それ以外の順番は見当もつかなかった。


【俺か?俺はな───】


ヴェレイドの含んだような笑いが聞こえる。


【俺は七番目───創造神アスティリアの一つ前だぜ】

【そうなのか】

【言っておくが、俺は八神じゃ最強だ。手を抜くつもりもない。リオの試練を乗り越えたからって甘く見てたら一瞬で滅ぶぜ?】

【知っている】

【───ほう?】


ノアは神の中で誰が一番強いのかは何となく解っていた。


この世界の神での最強は間違いなく界律神だ。そこは揺らがないだろう。


だが界律神は今はいない。


残るのは八神とガロンだ。


その中ならまずガロンが頭一つ飛び抜けている。


ヴァディアに敗れたとはいえ、あれは相手が悪かった。


ヴァディアはこの世界の神よりも確実に強い。


界律神も含めるのならまだ界律神の方が強いだろうが、それ以外なら神々で最強のガロンをほぼ互角とはいえ倒した男だ。


この時点で神より強いことは確定となる。


であれば残りの八神の強さだが、権能の強さ、万能さから考えるなら創造、破壊、終焉の三つは飛び抜けている。


その中でも戦闘に大きく貢献できる力は破壊と終焉であり、より深層の力を持つのは確実に終焉なのだ。


権能のバランスが取れている以上、持つ権能の総量のようなものは八神で違いはない。


ならば後は能力の相性や使い道で強さが変わる。


その状況なら、終焉に勝てる権能はそれこそノアの虚無や破壊の上位互換とも言えるアルファルドの壊滅ぐらいしかないだろう。


少なくとも八神の権能で対抗するのは不可能だ。


【権能からして強さは推測できる。八神全てがほぼ同程度俺に権能を譲渡したのなら、俺の中に存在する力の強さが八神の強さの順となる】

【ま、それはそうだな。そういうことだ】


このようなことを言うということはヴェレイドの試練はリオエスタに近く、単純な戦闘なのかもしれない。


だとすればこれまでの戦闘とは比にならない程の苦戦を強いられるだろう。


だが、それでもノアは進むと決めたのだ。


ユキのために。


ガロンのために。


神々の───そして、世界のために。


【とりあえず、次はグラエムで未来神の試練を受ければ良いんだろう?】

【その通りだぜ】


試練はまだ半分もいっていない。


まだまだこれからなのだ。


ノアは最後に少しだけヴェレイドと話すと『念話(レクト)』を切断する。


そして、グラエムへ向けての歩を進めた。


神の願いを継ぐ英雄───


ここで3章、1ブロックの区切りとさせていただきます。

次の投稿は未定ですが、いずれ必ず投稿します。

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