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穢れた世界の救い方  作者: 月影偽燐
2章.開戦編
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9.神々の今後

「そん、な───」

「あいつが、やられたのか───?」


グラエム近郊の上空。


そこにいたのは四人の神だ。


先程、雷電と常闇を相殺して世界を護っていた神々である。


その四人が絶句していた。


自分達を上回る力を持っていたガロンが滅んだからだ。


「っ───」

「あれ程の力を持つ者が倒されたとなると……戦っていた相手は怪物ですわね……」

「……アスティリア、ガロンについて詳しく説明して……今まではその時間もなかったし」

「……ええ、そうですね……」


言葉を失っていたアスティリアに、レイシェルが説明を求めた。


ノアを蘇らせてからこれまでの時間、八神はとある計画を進めていた。


その影響でまともに話をすることができなかったのだ。


「……」


アスティリアは言葉を選ぶように悩み、やがてその口を開く。


「彼は───朱天偽神ガロンとして、貴方達よりも前の時代に私が創造しました」

「あのレベルの存在を?一体どんだけの力を使ったらそーなんだよ?」


ヴェレイドの疑問ももっともだ。


世界そのものや強大な力を持つ者を創造するという行動は、いくら創造神であっても力の消費を免れない。


神としての力を数字に例える場合、己の上限の力が分母、普通に魔法を使った場合に消費される分は分子のとなる。


己の権能の力を使うとはいえ、神々も普通に魔法を使う場合は消費されるのは分子だけでいい。


だが、創造神による世界創造やガロンのような強大な力を持つ存在を創るとなれば話は別。


そのような行為をすればアスティリアの持つ力の分母の方が消費されてしまうのだ。


そしてそれは他の神々に対してもまた同じ───


「本来、世界にはあらゆる権能を司った神が一人だけ存在します。私は、本来なら全ての権能を持っていたのです」

「まさか───」


八神の権能は、本来アスティリアのものだったのだ。


「……お待ちください、それならわたくし達を吸収し、アスティリア様が権能の全てを所持なされば良かったのでは?ノア様を利用するなどという回りくどいことをせずとも、それで解決したのではありませんの?」

「っ……」


リオエスタの言葉にアスティリアは反論せずに唇を噛む。


その主張は間違いではない。何なら正しいと言えるだろう。


だが、それでは駄目だったのだ。


「──今の私は、創造神アスティリアとしての人格です。世界を想うこの気持ちは、私のものです。全ての権能を統合した存在───界律神アスティリアは、世界のことなど何一つ考えていない」

「……それって」

「はい───貴方達を吸収した途端、私は世界を滅ぼしてしまうかもしれないんです」


アスティリアのその言葉に嘘偽りはない。


世界創造された瞬間、世界はあまりにも荒れ果てていた。


創造されたばかりだから、という次元ではない。


アスティリアが、己の意思でそのようにしていたのだ。


そんな中、現れたアスティリアのもう一つの善意の人格。それが創造神アスティリアの元となる意思。


このままではいけないと感じた善意のアスティリアは世界にとって致命とも成り得る界律神装『白雪』───そしてその人格のユキを護るために、力の多くを使って朱天偽神ガロンを生み出した。


その後にどうにか神々として権能を分散させ、創造神として位置に落ち着いたのである。


一つの世界に一人の神───ありとあらゆる世界で、それが常識であり、理だ。


だからこそ、この世界が、この世界の神々が、異端なのである。


「そんなことが……」

「……そんな理由があったのか……なら仕方ねーな」

「ん……ちょっとは怒るつもりだったけど、そんな理由なら怒りは湧いてこない」


リオエスタ、ヴェレイド、レイシェルのその発言にアスティリアは目を丸くする。


「……信じて、くれるのですか?」


その言葉に三人は目を合わせ、当然だと言わんばかりにアスティリアに笑いかけた。


「当然に決まってんだろ?何億年の付き合いだと思ってんだ」

「わたくし達の絆はこの程度では傷一つつきませんわ!」

「驚きはしたけど……アスティリアが嘘をつくはずないのは知ってる」


優しい神々に、アスティリアは涙を浮かべる。


「ありがとう……ございます……」


だがそんな感情に浸るのは一瞬だ。


アスティリアは即座に涙を拭き、その表情を険しくした。


「ガロンが滅んでしまい、私が界律神に戻るのは危険である以上、頼れるのはノアしかいません」

「ユキはどーすんだ?」

「なるべく滅んでほしくなかったのですが……もう、手遅れです。ユキは界律神装『白雪』としての形に戻ってしまいました」

「そう……」

「そもそもユキという存在がいることがおかしかったのです。本来界律神装は世界のプログラムの一つでしかありません。プログラム故の微小の意識はあれど、明確な自我を持つ、ましてや人間の形を取ることの方が異常なのです」


世界には一つずつ界律神装が存在する。アルファルドの世界にも界律神装はあるはずだ。


だが、界律神装はあくまでも武器。それ以上でも以下でもない───本来なら。


何故かアスティリアの創造したこの世界の界律神装である白雪には明確な自我が現れた。


それどころか人型にまでなったのだ。


絶対有り得ないはずの現象だ。故にアスティリアは異常だと感じ取り、その存在を隠蔽したのである。


「ユキが界律神装の意思だということは解ります。ですが、それ以上のことは……」

「アスティリア様に解らないなら……」

「ん……私達に解るはずがない」

「なら今後のことを踏まえて考えるべきじゃねーの?ノアはきっと白雪を使う。おそらくだが、あいつがあの武器の使い手だ。他に扱えるやつなんかいねーだろ」


今最も重要なのは今後の立ち回りだ。


今のままではノアはアルファルドに対して勝ち目がない。


なら一体どうするのが最善手なのか。


「……全ての権能を一箇所に集中させると、界律神アスティリアの意識が甦ってしまいます。でもノアの虚無なら……」

「界律神の力を押し込める、か?」

「少なくとも私に戻すよりも可能性はあるはずです。もうすぐ理の改変も完了する。それなら、次に私達のすべき行動は……」


アスティリアは三人の眼を順に見つめる。


それに三人の神々は頷いた。


「ノアに───神域試練を課します」


それは神々が他者に権能を授けるための試練。


この世界のこれまでの歴史にそれが決行されたことはない。


この世界で初めての試みなのだ。


「全ての権能を与えるなら、これが最も都合も効率も良いでしょう」

「概ね賛成ですわ。ですが、最初はわたくしに任せてくれませんか?」

「ん?何でリオが最初にやるんだ?」


神域試練は神々が一人ずつ順に行う。


故にどの神から試練を行うかは八神全員で話し合うはずなのだが……


「今のノア様は敵首領と敵の全て、そして自分自身に大きすぎる怒りを抱いています……わたくしの持つ破壊の権能は怒りの感情と相性がいい。それなら早い段階で扱えるようになれば必ずノア様の力になるはずですわ」


権能も感情によって左右される。それはつまり権能よりも感情の方がより上位だということ。


世界の理として、それは実に非効率だ。


だが、これはこの世界だけの話ではない。


現存するあらゆる世界の理は、感情や意志によって捻じ曲げることもできる。


当然、ちょっとやそっとの感情でそんなことはできない。


世界を捻じ曲げるには、渇望とも言えるレベルの極限の意志が必要なのだ。


そして───今のノアの抱く、アルファルドや穿界の魔手、ユキを守れなかった自分自身に抱く怒りと憎悪はその条件を軽く突破している。


より強い権能を得ればその影響力もまた大きくなり、理そのものの破壊すらもできるようになるだろう。


ノアにはそのレベルの力が求められる。穿界の魔手を排除し、世界を救うというのはそういうことなのだ。


「……確かに破壊の権能は早い段階で使いこなせるようになった方がいいかも」

「それなら順番は……」

「……破壊、再生、未来、反転、整合、追憶、終焉、創造の順でいきましょう」

「ちなみにだが、それはどーやって決まったんだ?」


アスティリアが決めたその順番にヴェレイドが疑問を呈する。


「まず破壊が最初、これは確定事項です。次に再生ですが、今回のように敵の力によって深手を負った場合に瞬時に再生できるようになった方が良いでしょう。未来、反転は正直どちらでも良かったのですが、反転の方が力が強いため、後に回した方がノアとしてもやりやすいはずです。整合はここまでで授けた権能を安定させるため。追憶はノアの記憶を取り戻させ、虚無の権能を完全に覚醒させてもらうためです。そして終焉は……」


アスティリアはそこでヴェレイドを見る。


「……終焉神である貴方は、我々八神で最も強い力を持っている。故に最後の方に回しました」

「やっぱりそうか。まー俺としてもそこは自負があるってもんだ。頑張らせてもらうぜ」

「お願いします。私が最後の理由ですが、権能の全てを継承すればその間は神々の存在は曖昧になる。意識を失い、世界への干渉も不可能になるでしょう。故に、界律神が出てこないように見届けなければなりません。最悪の場合、ノアに与えた権能を分離して貴方達を再構築します」

「そこに異論はありませんわ」

「ん、アスティリアが最後なのは誰も文句はないと思う」

「自分に与えられた責任はしっかりと果たさせてもらう。終焉は任せとけ」

「ええ、お願いします」


別に権能の全てを与えたからといって存在そのものが消滅してしまうわけではない。


ただ自我が薄くなって存在が曖昧になるだけ。全て片付いた後にノアに元に戻してもらえばいい。


滅びるわけではないのだからそんなことも可能だ。


「……でも、問題はノアが精神を病んでしまった場合」

「ええ、そうなるとユキ様が滅んでしまったのは大きな痛手かもしれませんわね……」


ノアの精神は強靭だ。


記憶がなかったとはいえ、常人では耐えられない屍達の憎悪に対し、それを真っ向から受け止めることができるのは普通ではない。


あれは一種の洗脳だ。それも精神崩壊へと追い込む程高いレベルの。


だがそれはあくまでも自身のみだった場合の話である。


当然だがユキはノアではない。


自身に向けられる憎悪には耐えることができても、大切な存在を失う苦しみには耐えられないという人間は多いだろう。


いくらノアの魂が強靭とはいえ、その精神構造は全く変わらない。


それならば憎悪を向けられるよりもユキを失う苦しみの方が何倍も辛いというのは明白だ。


「ここでノアの心が折れちまったらもう打てる手はねーってことになるのか」

「ええ……ですが、その点は大丈夫のようです」

「……見えたの?」

「はい。喪失の苦しみを敵や自身への憎悪として糧にしているようですね。これなら想定よりも破壊の権能の力を引き出せるかもしれません」

「不幸中の幸い、と言えるのかは解りませんが……」


ユキの滅びを乗り越えたわけではない。


それどころか大きく引き摺り、ノアの精神を蝕むことだろう。


そして、問題はそれだけではなかった。


「ユキの滅びに関してはまだ力に変換できる余地があるようですが、ガロンの滅びを知ってしまった時にまだそれが保てるのかどうかは想定ができませんね……」


ノアはまだガロンが滅んだことを知らない。


それ故に未知数だった。


「未だにノアには時間系統の封印と阻害がかけられてるみてーだし、この分だとハティでも解んねーだろーな」

「……厄介」


神々ですら想定不可能。


それならば彼らにできることは一つしかない。


「───信じましょう、ノアを。目的は世界の救済から敵の殲滅に変わってしまっているようですが、結局のところ成すべきことは同じです。本来ならこのようなことを考えてはいけないとは思いますが……彼がガロンの滅びを知ってもなおその憎悪が燃え続けることを願うしか、私達にできることはありません」

「ええ……解っていますわ」

「世界を想う神としては正しくはねーんだろうが……いや、逆だな。世界を想うからこそ、そうせざるを得ない」

「……私はみんなを信じる」


四人の神は意見の一致を確認した後、穿界の魔手を見つめる。


そこには戦いが終わったにも関わらず、未だに荒れ続けている莫大な魔力があった。


そしてその遥か下、地上では世界からそこだけが抜け落ちたように何も感じない。


それは紛れもなくノアの虚無だ。


本来なら相性が悪いはずの憎悪と虚無……それを同時に抱いているのだ。


「そんなこともできるのですね……」


更なる覚醒を見届けたアスティリアはこの世界の全てを見通す世界眼で、ノアの魂の深淵を注視する。


アスティリアは───そこに異常なまでの力が眠っているのを感じた。


「貴方なら、きっと───」


神々はノアに試練を課す───

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