1.動き出す皇帝
2章始まります
「報告致します!」
黒と赤の装飾が施された部屋に声が響く。
そこには二人の男がいた。
片方は背筋を伸ばして立っており、もう片方は椅子に座り、足を組んで報告を待っている。
「……報告とは?」
「はっ、最終都市にて作戦を実行していたデュラン中将の戦死が確認されました」
「ああ、そのことか」
座っている黒髪赤眼の男が若干不機嫌になる。
「そのことならすでに知っている。惜しい人材だが、あの男の本心は我々に反逆していた」
「……そうだったのですか?」
「ああ」
この男はデュランが本当はこんな作戦には反対だと思っていたことを知っていたのだ。
「本来ならそのような存在は即刻処分なのだが、あいつは優秀だったのでな……歯車を植え付けて無理矢理にでも動いてもらっていたのだが……」
そんなデュランが死んだ。
「報復致しますか?」
「辞めておけ」
男は足を組み直しつつも立っている男の発言に即答で反対する。
「何故……」
「そんなものは簡単だ。貴様はデュランを倒したあの男に勝てるのか?」
「それは……しかし、ラフィナ大将以上の方々なら……」
「確かにそれなら可能かもしれん。ただ、ラフィナ以上の存在となれば私を含めても三人しかいないだろう。そもそもそれ以前に───」
男はその赤い眼を瞑り、言葉を続けた。
「私はあの男が何者かを知っている」
「は……そ、それは一体?」
言葉は返さない。
その代わりに男は眼を開け、獰猛な笑みを浮かべた。
「あの存在が唯一の危惧だったが、向こうから現れてくれたのは僥倖だな……ああ、それと一つ」
「はっ!」
「どうも穿界の魔手を嗅ぎ回っている奴がいるようだ。そして、そいつはかなりの力を持っている」
この男にとって穿界の魔手は手足のような存在だった。
故に近くで起こったことは筒抜けだったのだ。
「では……」
「ヴァディアへ通達しておけ。少なくともあいつなら敗けることはないだろう」
「はっ!」
嗅ぎ回っている存在というのはガロンだろう。
ガロンはデュランを倒した状態のノアですら恐らく勝つことはできない程の実力を持っている。
だがヴァディアという存在なら倒せると、この男は信じて疑わない。
何せ───
「あいつは穿界軍最強だからな……まあ事実上の最高司令官は私なのだが」
「陛下に勝る存在などあるはずがありません!」
そう、この座っている男は皇帝アルファルドなのである。
だがアルファルドは報告をしていた男の発言にどこか不服そうにする。
「本当にそうなら良かったのだがな……デュランを倒した男が、仮にその力を完全に覚醒させたとすれば私ですら未知数だ」
「そうなのですか……?」
「あくまでも可能性の話だがな。まあそんなことはどうでもいい。現状の霊域核の収集率はどうなっている?」
アルファルドは話を切り替える。
それは世界を滅ぼすための話であった。
「最終都市にあったものを除けば……98パーセントといったところですね」
「三千年かけてそれだけか……まあ仕方ない。残りの分は後から奪えばいい。作戦を次のフェーズへ進めろ」
「はっ!」
次の瞬間、この部屋ごと周囲の全てが揺れ動く。
何せここは穿界の魔手の内部だ。魔手が動けばこの部屋も揺れる。
「くくく……」
アルファルドは椅子に座り、足を組んだまま不敵な笑みを浮かべた。
「存分に足掻くといい……今の貴様に、どの程度のことができるか見ものだな」
作戦は稼働する───
ここから2章の開幕です。予定より少々時間がかかってしまいました…
2章は1章よりも短くなる予定ですので、よろしくお願いします。