16.滅びへと向かう世界
1章、完結です
ノアは解放し続けていた虚無の力を少しずつ抑えていく。
このまま力を使い続けるのはノアにとっても、世界にとっても危険だった。
虚無とは本来存在してはいけない代物だ。なのにノアは今ここにいる。
その矛盾が、ノアと世界を同時に蝕むのだから。
「……はぁ」
戦闘が終わり、力を抑えたノアは一気に力の抜けた溜息を吐き、空を見上げる。
「ノアくん!」
ユキが高速で近づいていき、その勢いのままノアに突っ込んだ。
「……どうしたんだ?」
腹部に頭突き紛いのことをされてもノアは痛がったような反応をしない。
「あの弾丸を受けてたけど、大丈夫なの……?」
「ああ、あれか」
未だにノアの魂には穴が空いている。
だが弾丸そのものはすでに虚無により滅んでいるし、死の呪いも消滅させていた。
前回の『死殺の衝撃波』と比べれば重傷だが、再生の権能もあるので完全に治るのは時間の問題だろう。
「問題はない。確かに魂は穿たれはしたが、まあこの程度ならいずれ治る」
今はそれよりも大きな問題がある。
ノアはユキを連れて再度地下へと降りていく。
ノアが上に弾き飛ばした『穿界の痕弾』の影響でそこには大穴が空いており、ただ落下するだけで地下にまで行けるようになっていた。
底には当然、霊域核がある。
霊域核は世界の根幹のエネルギーだ。
言い換えるなら、世界の魂。
その本質は生物と同じく、無から魔力を自然に生み出す。
違うのは生み出す魔力量。
ここにある霊域核は世界全てのものと比べると比べると微々たるものでしかない。
だが生成される魔力は莫大だった。
二人は底に辿り着き、その蒼い光を見つめる。
「相変わらず、とんでもない力だな。これでもほんの一部のようだが……」
「ここから力を貰ってたから解るけど、魔力の質も凄く良いみたいだよ。だから『穿界の痕弾』が撃てたんだと思う」
「確かにあの魔法はレベルが違ったな」
ただ魔力が多いだけではあの魔法は使えなかったはずだ。
世界そのものの魔力を使用していたが故に使えた魔法なのだろう。
「……これ、どうするの?」
「それなんだよな……」
霊域核は二人には手に余る力だ。
ユキならその恩恵を受けられるとはいえ、霊域核を吸収してその力を使うというのは無理な話だった。
強すぎる力はその身を蝕むのだ。
かといって、先送りにできる問題でもない。
おそらく穿界の魔手は霊域核を簒奪するための装置だ。
二人の目の前にある霊域核を放置していれば、いつかは穿界の魔手に奪われてしまう。
「神々と連絡を取り合えたらいいんだが、どんな存在かを詳しく知らない以上、『念話』も通じないし……」
そんな時だった。
【あー、あー、聞こえるか?】
「ッ!?」
ノアに繋がった魔法は紛れもなく『念話』だった。
だが、相手はガロンではない。
ノアは警戒しながらも相手に聞き返す。
【……誰だ?】
【まーそう思うのも無理はねーか。んじゃ自己紹介すっけど、俺は終焉神ヴェレイド。お前の言う神々ってやつの一人だ】
【なっ!?】
このタイミングでの神からの通信……それが何を意味するかは簡単だ。
【お前の目の前にある霊域核だが、それの扱いに関しちゃ俺達神々に任せてくれねーか?それは世界の根幹だ。ぞんざいには扱えねーのは解るだろ?】
【まあ……それは当然だな】
【かといって即座に世界の中枢に還元させれば界滅爪に奪われるのが関の山だ。なら少なくとも現状はまだ安全な神域で保管するのが最善手だってのが神々の見解なんだがよ】
神域で保管するのはノアにとってもありがたい。
【俺からも頼む。霊域核はそちらでどうにかして欲しい。俺達では手に余る】
【オーケー、任せな】
そこで通信は途絶える。
次の瞬間、霊域核が結界に覆われてその姿を消した。
一瞬で消え去ったが、ノアにはあれが創造の権能によるものだということが解った。
本当に神々が保管してくれるなら二人は気にせずにここを離れることができる。
「こっちはこれでいいんだね」
「ああ……そうだ、ガロンにも報告しておこう」
とりあえずグラエムでの問題は解決したのだ。問題を知らせたのだから、解決したことも報告するのは当然だろう。
創造の権能を行使し、グラエムを覆う結界を一部改変する。
思えば神々は結界の性質を変えずに『念話』を繋げていた。
やはりその権能の神とでは技量の違いが露骨に現れる。
それをひしひしと感じながらノアはガロンとの通信を繋げた。
【聞こえるか?ガロ───】
【ノアッ!界滅爪を見てくれ!】
【ッ!?何かあったのか?】
【見れば解る!】
通信を繋げた瞬間に響いたガロンの声は途轍もなく緊迫していた。
「……ユキ」
「聞こえてたよ。外に出よう」
二人は高速で跳躍し、ものの数秒でヴァンデラの頂上まで登る。
大破した屋上に降り立ち、穿界の魔手の方角を見た。
「な───」
世界が、大きく震撼した。
それはまるで滅びに向かうかの如く。
ノア達がそこで見た光景は───
「手が……爪が……」
界滅爪が、世界から引き抜かれていく───
地中深くに突き刺さっていた五本の爪が完全に抜かれ、ゆっくりと手が反転した。
掌を上に向け、今まで吸収され続けてきた霊域核のエネルギーがその中央に集約されていく。
そこから感じられる力は遠く離れたグラエムにいる二人でも感じられる程強く、その魔力は全てを滅ぼす力へと変質していった。
「これは、まさか───」
ノアの顔が絶望に染まっていく。
「ノア、くん?」
「世界のエネルギーを……霊域核を、全て奪い尽くしたんだ。穿界の魔手は……いや、アルファルドはッ!」
【……見ていたな?ノア】
【ガロン……あんなもの、どうすれば】
【弱音を吐くな。世界を救える可能性を持っているのは貴公しかいない。貴公が諦めたその瞬間、世界が滅びると思え】
ガロンはノア達が見つめる穿界の魔手のどこかにいるのだろう。
きっとガロンは今なお必死に抗おうとしている。
なのに……
【……そうだな。諦めるわけにはいかないんだった】
【解ればいい】
【ガロン、今お前はどこにいるんだ?】
【第四界滅爪……薬指の先だ。だが、ここには来ない方がいい】
何故……と、ノアが思う前に、ガロンがその言葉を言い放った。
【ここには、貴公では手出しできぬ存在がいる】
その瞬間、『念話』が何者かによって傍受された。
【───我の名はヴァディア】
通信越しでも本能が警鐘を鳴らすほどの威圧感。
迸る殺気から、味方ではないことは明らかだった。
【穿界軍元帥、最高司令官のヴァディアだ。朱天偽神ガロン。卿の命、我が貰い受けよう】
かくして偽神と元帥は対峙する───
ここで1章は完結となります。こんな駄作にここまで付き合ってくださった方、本当にありがとうございます!
今後も執筆は続けていくつもりですが、2章以降の構想を練りたいのでしばらく更新は停止させていただきます。
いつになるかは未定ですができるだけはやく再開したいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いします!