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穢れた世界の救い方  作者: girin
1章.神々の使者編
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13.穿界の魔手

もう一度、二人はグラエムへと入る。


見かける人々はやはり機械的で、一目で正気ではないということが解った。


「街に入ってそれなりに歩いたが、今のところ正気の奴はいないか……」

「薄々わかってたけど、この街全体がこんな状態なんだろうね」


都市庁ヴァンデラはかなり巨大だ。


広大な土地を誇るグラエムの中でも他の追随を許さない程に敷地面積が広く、高さも二番目に高い建物よりも二倍近くはある。


あまりにも解り易いため、二人は道を逸れることなく一直線にヴァンデラに向かうことができた。


「なんというか……街も都市庁も大きすぎて近づいてる気がしないね」

「別にそういう魔法が張ってあるわけじゃないから錯覚ではあるんだが……まあ気持ちは解る」


巨大すぎるが故に距離感を掴めないというのはそれなりによくある話だ。


実際、ノアは界滅爪を見た時に少しだけ思ったりしていた。


ただ、それでもやはり歩いていけばいずれは辿り着くもので、気づけば二人は都市庁ヴァンデラの目の前にまで来ていた。


「てっぺんが見えないねぇ……」


ユキは呑気に上を見上げているが、今行こうとしている場所は恐らく敵の本拠地である。


そんな場所で戦うということをちゃんと解っているのだろうか。


ノアはそんなユキに苦笑しつつ、彼女の隣で創造の権能を行使し、刀を創り出していた。


「あれ?剣じゃなくて刀なんだ?」

「デュランとの戦いでお前の刀を借りてな。その時に使いやすかったんだ」


言ってしまえば理由などそれだけである。


だが実は『壊撃(ガルム)』との相性は剣よりも刀の方が良く、叩き斬る用途に用いられる剣とただ斬ることに特化した刀では攻撃性能にかなりの違いが出るのだ。


ノアの最も強い攻撃手段は現状『壊撃(ガルム)』なので、このチョイスは正解だった。


それを本人が認識しているかはまた別の話だが……


「……入るぞ」

「うん」


二人は警戒しつつ都市庁の扉を開ける。


すると、二人の目の前には───


「───待っていたぞ」


扉を開けてすぐの正面に、デュランが仁王立ちしていた。


「なんでッ!?」

「『壊撃(ガルム)』!」

「まあ待て」


こんな場所にはいると思っていなかったユキは驚愕しつつも魔弾を警戒し、ノアは先手必勝とばかりに破壊の権能を剣に流し込み、デュランへと突進した。


だがそのデュランは攻撃の姿勢を見せない。


絶死の銃斬(デネア・ウルヴァン)』で防御するわけでもなく、なんの魔法も使わずにノアの攻撃を躱した。


その様子を不審に思ったのか、ノアは二撃目の攻撃を放たずに動きを止める。


構えていた刀を少しだけ下ろし、ノアがデュランに対して険しい眼を向けた。


「……何のつもりだ」

「少々話があってな。戦うのはその後でも遅くはあるまい?」

「……」


怪しいにも程があると思うノアだったが、どのような意図があるのか不明なため、ここはその話とやらを聞くことにしたようだ。


「さっさと連れて行け。余計なことはするなよ」

「当然だ。私についてこい。武器はそのままで構わない」


デュランはノア達に背を向けて奥へと進んでいく。


まるで警戒していないように見えたが、よく見ればデュランの右手は軍服のポケットに入れられている。


ポケットの膨らみから、恐らくは拳銃に手をかけているのだろう。


(迂闊には動けないか……)


どうあっても話は聞かなければならないようだ。


ノアとユキは刀を構えたままデュランの後ろに続く。


最大限警戒し、いつ攻撃されても反応できるようにノアは世界眼を光らせた。


かなり歩き、やがて三人は階段に辿り着く。


「……下だと?」


このヴァンデラは途轍もなく高い建物だ。


しかし目の前にある階段は下方向にしか続いておらず、塔ではなく地下へ向かう階段のようだった。


「この下に用があるのでな」

「ここの地下に……?」


グラエムの中心であるこのヴァンデラの地下に一体何があるのだろうか。


ユキが呟いた疑問にデュランは答えず、無言で階段を降りていく。


二人は顔を見合わせ、同時に階段へと踏み出した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


あれからかなりの時間階段を降りているが、未だに終わりが見えない。


ヴァンデラの高さ程度は降りているのではないだろうか。


「……長くない?」


身体的な疲労を感じているわけではないが、精神的には疲労が溜まる。


だからか、ユキはすでに精神的にかなり疲れているようだ。


「もうじき着く」

「なあ、この先には一体何があるんだ?」

「それは見えてから説明しよう」


到着するまでは一切情報を話す気はないようだ。


それから数分、遂に階段に終わりが見える。


そこにあったのはやはりというべきか、巨大な扉だった。


(何というか、既視感があるな……)


正直ここまでは夕闇の遺跡と同じだ。別にこの奥からは朱い魔力は感じないが。


デュランが扉に手を翳すと自動的に開き始める。


認証式のようだ。


ノアも本気で開けようとすれば開けること自体は可能だろう。少なくとも遺跡の扉よりは軽そうだった。


「これって……」


ユキが扉の奥にあった物体に目を奪われる。


ノアも扉から視線を外し、それを見上げる。


そこには推定3メートル程の青いエネルギーの球体が浮いていた。


球体の表面には蒼い電気が奔り、ジジジジと不気味に音を鳴らす。


「っ……」


どうやらあの扉は魔力を含めた全ての力を遮断するものだったようで、いざ扉が開け放たれるとノアはその力の塊に圧倒される。


「これが何か、貴様らに解るか?」


慣れているからだろう。デュランはその力を前にしても怯むことなく、ノア達に視線を向ける。


「ぁ───」


ユキがその球体に心を奪われたように手を伸ばす。


その行動にデュランは鋭い視線を向け、言い放った。


「触れることは許さん。下がるといい」

「……ユキ」

「う、ぁ……?ご、ごめんなさい……」


ノアの呼びかけで我に返ったユキが数歩下がる。


「それで、これはなんなんだ?」


ノアがデュランにその球体の説明を求めた。


全く予想ができないわけではない。球体から感じる力はとあるものに酷似している。


だが、確証を持てる程の情報ではなかった。


ノアの問いにデュランが顔を伏せつつ答える。


「……どの世界であれ、その根幹には特殊な力……霊域核というものが存在している」

「霊域核……!?まさか、これが!?」


デュランの言葉に反応したのはユキだった。


ノアはその言葉を知らない。霊域核というのはまるで聞いたことがなかった。


「これがこの世界の霊域核なの!?まさかあなた達はこれを抜き取って……!」

「我々穿界軍にも目的がある。その目的のためなら他の世界から霊域核を簒奪することも躊躇いはせん」

「な、なんてことをッ……!」


デュランの言い方を真に受けるのなら、霊域核は恐らく世界の根幹となるエネルギーの結晶のようなものだろう。


デュラン達穿界軍は、それをこの世界から簒奪しようというのだ。


何故ユキがそれを知っているのかは謎だが……


「……その理由は?」

「というと?」


だが、ノアとしてはやはりデュラン個人に対する疑問が残る。


これは、それを確かめるための質問だ。


「目的とやらだ。お前の所属する軍や上の方向性はともかく、お前自身は進んでこの世界の根幹を奪うような奴には見えない」


デュランは中将だ。軍であるならば上に最低でも数人はいる。


デュランはきっとその命令に従って動いているのだろうが、ノアはどうしてもデュランという人間個人が非人道的な存在には見えなかった。


「……回答を拒否する。それを答えるわけにはいかない」

「もしそれがお前の意思に背いていても?」

「皇帝陛下の命令だ」


ここで出てくる新たな人物。


軍とはいうが、その最高司令官は皇帝とやらのようだ。


「ならせめてお前の気持ちを教えてくれ」

「……」


ノアはこれまでで最も視線を鋭くし、本気で世界眼を展開する。


その心情を見抜くために。


「お前は本当は他の世界を巻き込みたくない───違うか?」

「それは……」


世界眼には僅かな動揺が見られる。


どうやら図星のようだった。


「なあ……さっきの話だと、穿界軍の最高司令官は皇帝っていう奴なんだろ?」

「……ああ」

「なら最後の質問だ───そいつはどこにいる?」


それは答えると反逆にも値する問いだ。


だが、ノアの世界眼にはしっかりと映っている。


デュランの葛藤が。


その葛藤は長く続き、三人の間に沈黙が流れる。


この地下空間にはただ、霊域核の蒼き雷電の音が響いていた。


「──────穿界(せんかい)魔手(ましゅ)。その中枢だ」


遂にデュランが口を開く。


だがそこから発せられた言葉をノア達は知らない。


「穿界の魔手……」


名前から察するに、界滅爪のある巨大すぎる右腕そのものの名前なのだろう。


───そこの中枢に、皇帝がいる。


それだけを答えると、デュランは拳銃を取り出した。


「私ももう後戻りはできない。故に、最後にこれだけは伝えておきたい」

「ああ」


デュランの赤い瞳は、これまでの感情のないものではなく、覚悟を決めるという強い意志が宿っていた。


「陛下を……アルファルド様を止めてくれ」


アルファルド……それがこの世界を侵略している穿界軍のトップ。


皇帝の名だった。


「ああ、任せておけ」

「この世界のためにも、私達が皇帝を倒すよ」


デュランは、穿界の魔手による侵略を望んでいなかった。


本当は彼はただ一人の優しい青年だったから。


だが、運命というものは不平等に残酷だ。


デュランは力を持っていた。それも、中途半端な力を。


本当に最強と言えるまで強かったならどれだけ良かったことか。


皇帝アルファルドを自身の力で倒すことができれば、この計画はなかったのだから。


皇帝には敵わず、しかしそれでもその力は強い。


異世界の侵略に利用されるのも当然だった。


望まぬ力を持ち、望まぬ殺戮をした。


故に───


「私には歯車が埋め込まれている。皇帝の命令には、絶対に逆らえない。故に貴様らの味方をすることは叶わん。望むのはただ一つ。私を、倒せ」


その言葉と同時に、魔弾が発砲された。


それが人類の存亡をかけた戦いの始まる合図となったのだった。


優しき青年は世界を想う───

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