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穢れた世界の救い方  作者: 月影偽燐
1章.神々の使者編
11/27

11.破壊と死

「『死刻の散弾(ウルヴェルガ)』」


先に攻撃を仕掛けたのはデュランだった。


拳銃から放たれた弾丸はどういう原理か散弾と化し、その全てがノアへと向かう。


十個以上に分かたれた魔弾はその全てに死が刻まれており、常人ならかすっただけでも死に至りかねない力を誇っている。


だが、その程度でやられる程ノアは弱くはない。


世界眼に創造の権能をフルで使い、その弾丸を注視する。


「──はッ!」


ノアは一息で八割の散弾を斬り伏せ、残りの二割を躱す。


二割とはいえその弾丸の威力は凄まじく、ノアの背後にあった小屋の壁を木端微塵に破壊した。


「凄まじい反応速度だ。だが、それだけで回避できる程私の魔弾は甘くない」


ノアが弾丸を斬っていた数瞬の内にデュランは再装填を終え、銃口を───上に向けていた。


「───『追跡の死弾(ウラグ・ジェンド)』」


真上に向けて発砲された一発の弾丸は空中で軌道を大きく変え、ノアに向かって突き進んだ。


「……この程度の弾丸でやられるとでも?」


読めない軌道で飛んでくる弾丸だったが、ノアはそれを完全に見切ってその刀で叩き斬る。


だがその弾丸はそれだけでは終わらなかった。


「ッ!そういうことか!」


真っ二つに切断された弾丸は割れてもなおノアに特攻してくる。


一つだけだったものが二つに増えたことでより厄介さは増した。


ノアがその弾丸の対応をしている間にも当然デュランは次の攻撃の準備をする。


「『惨死の魔弾(ウルト・ジジェン)』」

「チッ!」


他の魔弾魔法ならまだ当たってもどうにかなるが、この魔弾ばかりは数発食らえばその時点で終わりだ。


絶対に回避をする必要があるが、定められた未来を改変しなければこれを躱すことなどできない。


受けないようにする術は現状のノアにもある。


だがそれをする場合、『追跡の死弾(ウラグ・ジェンド)』は諦めて受けるしかない。


しかしそれでも、やるしか方法は残されていないのだ。


「『壊撃(ガルム)』!」


破壊魔法を使い、デュランの撃った必中の魔弾を斬り滅ぼす。


同時に『追跡の死弾(ウラグ・ジェンド)』がノアの身体へと突き刺さるが、当然の如くその魂にまでは届かない。


ノアは傷を無視してデュランに接近する。


その刀身には当然『壊撃(ガルム)』が付与されており、デュランの放つどの魔弾でも斬り滅ぼせる力を秘めていた。


「『絶死の銃斬(デネア・ウルヴァン)』」


デュランはノアの破壊魔法を前にしても平静を崩さず、それどころか銃身に死の斬撃を纏わせて対抗してきた。


鋭い金属音が鳴り、両者の破壊と死が拮抗する。


「は……!?」


ノアはこれまでにない程の驚愕を覚える。


それも当然だろう。ガロンですら防御に両手を要した攻撃を、デュランは拳銃を持つ右手のみで防いでみせたのだ。


「貴様は私を侮りすぎている」

「ぐッ……!」


剣と拳銃の接触した箇所に意識を向けてしまっていたノアは、デュランの左手に魔力が集っていることに気づくのが遅れる。


「しまっ───」

「『死殺の衝撃波(デアラ・ヴェグム)』」


並の生物ならその余波で死滅する衝撃波をノアはもろに食らってしまう。


あまりにも強いその衝撃にノアの魂が震撼し、魂の脆い部分が崩壊する。


「が、ああッ……!」


魂全体を大きく揺らすその攻撃は耐え難く、先程のように普通の痛み程度なら無視できるノアですら大きく呻いてしまう。


ノアが魂に対しての攻撃として警戒していたのは『惨死の魔弾(ウルト・ジジェン)』だけだった。


その一抹の油断がこの現状だ。


「私を相手に油断するとは随分なことだな」


ノアはどうには吹き飛ばされる勢いを殺し、バックステップをして距離を取る。


だがそれはデュランが相手では悪手だ。


「『惨死の魔弾(ウルト・ジジェン)』」

「チッ!?『壊撃(ガルム)』!」


どうしてもこの魔弾には『壊撃(ガルム)』を合わせなければならない。


だが今のノアは先程とは違い、魂にすら傷を負っていた。


「っ……らぁッ!」

「『死に向かう弾丸(ウル・ジェグム)』」


どうにか一発の魔弾を斬り滅ぼすが、続く弾丸を処理することはできない。


「クソがッ!」


ノアにしては珍しく悪態を吐く。だがそれも仕方ないと言えてしまうような戦況だった。


デュランの魔弾による弾幕は一切隙がなく、むしろノアの隙を意図的に作り出しているのではないかとも思える。


そう、デュランはただ持つ力が強いだけではない。その状況対応能力や戦術構築能力が高いのだ。


更に言うなら、デュランの魔法の持つ死の力が単純ながら強制力などが強いという点も挙げられる。


ノアの破壊の権能と比べると能力そのものは見劣りしてしまうが、実際の強さで見るなら現状だと破壊と死はほぼ対等だ。


どんな能力も使い方次第で上位の力を軽く圧倒できる程に成長するということを物語っている。


(でも……希望はまだある)


ノアは高速で迫る弾幕を弾いたり、回避したりしながら活路を見出すために思考する。


(俺の『壊撃(ガルム)』とデュランの『絶死の銃斬(デネア・ウルヴァン)』が衝突した時のことをよく思い出せ。あの時、確かに防がれたが、絶対にそれだけではなかった)


破壊と死の力が衝突した時、一瞬とはいえノアの破壊の権能が僅かに死の力を圧倒していたのだ。


それを踏まえるなら……


(きっと能力そのものは俺の方が強いはず。後は戦い方だ。これがこの戦いの全てを握っている鍵───)


能力の使い方と相手に合わせた戦闘方法があれば、ノアは現状でもデュランを倒せる可能性が十分にある。


だがその戦法をこの極限の戦いの中で見つけ出すのは非常に困難だ。


どうにかデュランを欺くことができるような方法を短時間で思いつかなければならない。


しかし今の状況ではそんな手札など───


(───いや、あるにはある)


ただ、これは賭けだ。デュラン程の対応能力があれば意味をなさない可能性も大いに有り得る。


それでも、一片の勝利の可能性を信じ、ノアはその戦法を選んだ。


(これを成功させるためにはまだ時間がいる……)


ノアの防御手段は現状剣で斬り伏せるか、『壊撃(ガルム)』によって斬り滅ぼすぐらいしかない。


ガロンとの戦いで初めの方に張った結界も使えなくはないが、今のところデュランの最も威力が低い攻撃魔法である『死刻の散弾(ウルヴェルガ)』でさえ全弾受けると余裕で壊されてしまう程度には弱い。


つまりあの結界はここでは役に立たない。


権能の扱い方がもっと上手くなればより上位の結界も張れるのだろうが、ないものをねだっていても仕方がない。


「『死に向かう弾丸(ウル・ジェグム)』」

「はッ!」


この魔弾魔法を切り落としたのも、もう何度目かも解らない程には長く戦闘が続いていた。


「……ふむ、このままでは埒が明かないか」


デュランは言葉を発し、一瞬小さな溜息を吐く。


その僅かな時間のみ、デュランの弾幕が止まった。


それを隙と捉えたノアは今度こそ特攻し、デュランを斬ろうと刀に魔力を込める。


「『(ガル)───』」


───だが、その隙すらもデュランの計算内だ。


「『万象の掌握(グアラ・ヴェルガ)』、『惨死の魔弾(ウルト・ジジェン)』」

「なっ───」


ノアは地に叩きつけられ、デュランの足元に伏せる。


はっ、と真上を見れば、そこには暗き魔力が溢れんばかりに集っていた。


まさに、不可避の一撃───


「───終わりだ」


デュランの拳銃から、ノアを滅ぼすための魔弾が射出された。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


デュランは、このタイミングで勝利を確信しただろう。


対象を確実に殺す魔法が、絶対に防げない状態で放たれたのだ。それは確かに誰でも勝ち負けを判定することは容易い。


だが、その対象というのは神の使いであるノアだ。


ありとあらゆる権能を所持しているノアの取れる手段は、本来ならいくらでもあるのである。


(そうだ───この瞬間、お前が油断をするこの瞬間だけを待ってたんだ)


ノアは破壊の権能を全身に巡らせ、自身にかけられている『万象の掌握(グアラ・ヴェルガ)』を破壊して強制的に解除する。


それにより身体の末端が少しばかり壊れ、鮮血で染められるが、そんなことはノアにとってはどうでもいい。


この一瞬だけでも身体が自由になることこそが重要なのだ。


真上から魔弾が降ってくる。


その魔弾がノアを撃ち抜くまで、残された時間は刹那よりもなお短い。


その間に行使するのは未来の権能。


先程もやってのけた定められた未来の改変を行い、魔弾が当たっても魂にまでは届かないようにする。


(なんとか……間に合った!)


その瞬間に『惨死の魔弾(ウルト・ジジェン)』がノアを直撃し、大量の鮮血が舞う。


ノアにとってもこれは大怪我であることに変わりはない。それどころか致命傷にすらもなり得る。


だが魂に攻撃が届いていない以上、そんな怪我程度の痛みならノアの行動を妨げることなどできない。


「な、に───」


これまで以上の捨て身の特攻にデュランが初めて驚愕の表情を浮かべ、もう一度魔弾を装填しようとする。


だが、もう二人は手が触れる距離にいる。地に叩きつけられた時に刀は取り落としてしまったが、攻撃手段はまだある。


そう、己の拳だ。


「───『壊撃(ガルム)』ッ!」

「チッ!?」


ノアの破壊の一撃がデュランの土手っ腹に突き刺さり、肉と骨を大きく抉った。


「ぐぁッ!?」


デュランはそのまま大きく後方に吹き飛ばされ、森の木々を何本もへし折って飛んでいった。


「はぁ、はぁ……」


ガロンとの戦いでもここまで消耗はしなかったので、この戦いが本当にただの命の奪い合いだったのだと実感する。


(そんなこと、言うまでもないんだろうが……)


見間違いでなければ、恐らくデュランももう戦える状態ではないはずだ。


ここで死ぬこともないだろうが、互いに重症を負っているため奴が撤退する可能性は大いに有り得る。


「っ!?そうだ、ユキは……!?」


床下からユキを上に運び、ノアはその状態を観察する。


外傷は胸に空いた弾痕だけだ。それ以外は何もない。


問題は魂の方だ。


ノアは世界眼でユキの魂の深淵まで見つめる。


だがこの時、ノアの予想を大きく上回る事態が起こっていた。


「魂の傷が……ない?」


確実にユキはその魂を撃ち抜かれ、瀕死の状態になっていたはずだ。


それがないことに、ノアは大きな違和感を覚える。


だが特に異常はないため、これ以上修復ができるのは外傷のみだった。


ノアはとりあえずユキの肩に触れ、再生の権能をユキに向かって行使する。


「う、うぅん……」

「寝てる、だと……?」


更に困惑するノア。そんなことがあっていいのだろうかとさえ思う。


だが事実は事実。それを受け止める他はない。


「ならこっちはいいとして……後はデュランか」


ノアが飛んでいったデュランの方を向くと、そこにはボロボロになったデュランが立っていた。


「……まだやるか?」


ノアが問う。


ここでやると言われてしまえばどうしようもないのだが、外傷的にはノアよりもなお深刻だ。


それに加え、ノアはただの外傷程度なら再生の権能でどうとでもなってしまうのも現在の戦力に格差をつける要因だろう。


「……撤退させてもらう」

「だろうな。俺の方も追ってる余裕はない」

「……ノアといったな」


デュランが険しい顔つきでノアを見つめ、その言葉を告げた。


「街の異常を止めたくば、最終都市グラエムの中心……都市庁ヴァンデラへ来い。私はそこで貴様らを待つ」


それだけ言い残し、デュランは去っていった。


「都市庁ヴァンデラね……」


恐らくはここからでも目視で確認できるグラエム最大の塔のある建物のことだろう。


そこに行けば、この異常を解決することができるのだ。


「まあ何にせよ、色々落ち着いてからだな」


ノアはユキの隣に寝転び、この世界に降り立って初めての睡眠を貪るのだった。


破壊は死を克服する───

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