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穢れた世界の救い方  作者: 月影偽燐
1章.神々の使者編
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10.相容れぬ存在

あれから三日程経過した。


放牧場のような草原と作物を育てる畑の横を歩いているのだが、都市から離れたからか家一つ見つからない。


作物があるのに誰も回収しに来ない辺り、やはり街全体に異常が蔓延しているのだろう。


郊外には何もないことから人々はほぼ全て都市に集まっているようだ。


「何もないねぇ……」

「流石にそろそろ中心に行くべきか……?」


このままでは情報など得られるはずがない。目的を履き違えるわけにはいかないのだ。


ノアが今後の行動について頭を悩ませていると、ユキがノアの袖を引っ張って遠くを指差した。


「あっ、あれ見て!」


ユキの指の先にあったのは小さな小屋だ。


少し離れた場所にあるグラエム以外にはどこにも建物がなかったので、このようなものは当然これまでには見ていなかった。


だからこそ、二人はこの小屋に違和感を感じていた。


「何故こんな場所に小屋がある?」


放牧場もすでに通り過ぎ、ここから先は森である。


その森で狩りなどをする人の小屋だと言われればそれまでだが、そもそも放牧場にも畑にも、それを管理するような場所は見当たらなかったのだ。


「こんな場所にだけあるのは不思議だよね」


ノアは世界眼でその小屋を見つめるが、特に何かがあるわけでもなさそうだった。


「何も感じないし、流石に大丈夫だと思うが……念のため警戒はしておいてくれ」

「了解!」


慎重に小屋に近づき、中の様子を伺う。


人の気配はない。だが二人は異様に緊張していた。


ノアが小屋の扉を開け、中に入る。


依然としてそこには誰もいない。


だが……


「───動くな」

「ッ!?」


音も気配もなく、二人の背後に人間が現れた。


「監視から帰ってみれば……貴様らは何者だ?」


男の声だ。


次の瞬間にはカシャリという硬い音が響く。


ノアが視線だけ動かし、その男を見る。


それは紺色の軍服を着た若い男だった。


赤い髪に赤い瞳を持つその男が手に持っていたのは───


(……銃、か)


黒く光る、一丁の拳銃だった。


この世界にも銃は存在している……否、かつて存在していたと言った方が正しい。


界滅爪が現れる前は人間や魔族などの文明もそれなりには高度であり、少なくとも拳銃程度なら量産可能なレベルだった。


だが界滅爪の影響で数多くの都市が滅び、その文明はかなり衰退した。


今やこの世界に銃を作れる存在は創造神の他にはいないはずだった。


なのに、この男はそれを持っている。


そもそも銃はノアにとってはそれ程脅威にはならない。


拳銃から放たれる弾丸はただの金属であり、それが音速の数倍で発射される。


ノアからすれば音速の数倍というのは別段速いわけでもなく、躱すことは容易いのだ。


だが今、この男とその拳銃から感じられる威圧感はガロンが力を解放しかけている状態と似ている。


故に、銃口を向けられているのなら動けない。


この攻撃を食らえばほぼ確実に死に近い傷を負うからだ。


「一つ……聞きたい」

「質問をしているのはこちらだ。先にそれに答えてもらおうか」


ノアが言葉を返すが、やはりというべきか男は質問には取り合ってくれないようだ。


「……俺はノア。こいつはユキだ」

「ふむ……では次に聞くが、何故貴様らは正気を保っていられる?」

「なに……?」


ノアには男の言葉の意味が解らなかった。


正気を保っていられるとはどういうことなのだろうか。


「簡単な話だ。貴様も街の人間どもを見ただろう?あれが正気に見えるのなら貴様の眼は腐っているぞ」


そう言う男も正気だろう。


正気の男がこのような質問をする意図……あまりにも解り易い答えだ。


「そうか、お前が街の人々を……」

「だとして、貴様に何ができる?」

「わ、私達にだってできることはあるよ!」


その重圧に耐えきれなかったのか、ユキが腰の刀を抜き放って振り向く。


だがその瞬間、男はノアに向けていた銃口をユキへと照準を変えた。


「───『惨死の魔弾(ウルト・ジジェン)』」


銃口から放たれたその魔弾は二人でも反応できるかどうかという高速でユキへと迫る。


案の定ユキは反応できずにその目を見開くが、どうにか間に入ったノアが権能で創造された剣で魔弾を弾こうとする。


だが、それは失敗に終わった。


「ぐッ!?」

「ああッ!」


魔弾はノアの剣をへし折り、ノアの身体へと突き刺さる。


それだけでは止まらず、ノアの身体を貫通してユキへと吸い込まれていった。


「『惨死の魔弾(ウルト・ジジェン)』は撃った瞬間に結果が決まる魔弾魔法。過程など些細な問題でしかない」


今の魔法で決まっていたのはユキの魂へ向かうという未来。


それがすでに決まっていたのだからノアの剣や身体を貫通するのは必然だった。


魂に魔弾が突き刺さったユキは瞬時に意識を失い、その場に倒れる。


それを確認した瞬間、ノアが動いた。


ノアは折れた剣を再生させ、破壊の概念を集約させながら男に向かって特攻をする。


「『死に向かう弾丸(ウル・ジェグム)』」


男が新たな弾丸を装填して打つが、先程の魔弾魔法よりは弱いものらしく、ノアはその剣で魔弾を斬り払うことができた。


それと同時に魔弾の力により剣が粉々になってしまうが、ノアは何度でもその権能を行使できるためもう一度剣を創造する。


「ふむ……」

「はぁッ!」


ノアと男の距離が縮まり、剣の間合いに入った。


ノアの剣が男に届く───


「『万象の掌握(グアラ・ヴェルガ)』」

「がッ!?」


突如発生した重圧に、ノアは小屋の床へと叩きつけられる。


それどころか床を突き破り、地面を深く抉って軽く地中にまで埋まっていた。


その近くに倒れていたユキも巻き込んで床下へと落ちていった。


「魂を貫通したわけではないとはいえ、私の魔弾魔法を耐えて攻撃までしてくるとはな。この世界にもどうやら強者というものは存在しているようだ」


男はもう一度魔弾を装填してノアにそれを向ける。


その銃口は暗く輝き、二人を殺すことなど容易いレベルの魔力が集った。


「『惨死の魔弾(ウルト・ジジェン)』」


今度こそ二人の未来を終わらせる魔弾が無防備な状態の二人へと放たれる。


その魔弾はノアの魂すらも穿って───


「……なに?」


その魔弾は確かにノアを襲い、身体に傷をつけた。


だが、魂は無事だ───


「俺だって未来への干渉ならできる……」


ノアは魔弾が放たれた瞬間に未来神の権能を行使し、定められた未来をほんの一部捻じ曲げたのだ。


だがやはり権能の全てを所持しているわけではないので全ては改変できず、魔弾そのものは食らってしまった。


男の『惨死の魔弾(ウルト・ジジェン)』の魂を穿つという定められた未来を強制的に捻じ曲げたため、ノアの魂にまでは届いていない。


故に、戦える。


「ユキ……借りるぞ」


ノアはユキの持っていた純白の刀を手に取り、それに破壊の概念を込めていく。


どうやらノアの不完全な創造の権能で創る剣よりも強いもののようで、それに伴い纏う破壊の概念もより強固になっていく。


定められた未来を改変できるので、男の魔弾はもうノア達の魂にまで届くことはないだろう。


だが完全に防ぐことは現状では不可能だ。故に改変したとしてもその身体のどこかにはきっと当たってしまう。


単純な魔弾の威力も高いため、そう何度も受けられるものではない。


多く見積っても、あと三発。


それ以上受けると意識を失うかもしれない。


そうなってしまえば未来の改変など不可能だ。だからこそ攻撃は躱すか、弾くしかない。


ノアはユキはそのままに自身だけ床下から登る。


ノアの予測でしかないが、『惨死の魔弾(ウルト・ジジェン)』以外の効果を持った魔弾は恐らく直線上の敵にしか攻撃できない。


それならば確かに戦場よりは下にいた方が安全だろう。


ノアは刀を構え、男と対峙する。


「お前、名前は」

「私か?私の名はデュラン。穿界軍(せんかいぐん)中将だ」

「穿界軍……?」


聞き覚えのない単語にノアは首を傾げる。


名前からして世界に良くない影響を与えるであろうことは予想できるし、何よりも界滅爪との関わりを示唆するような名称の軍だ。


そこの、中将。それなりに高い地位を持っている存在のようだった。


「貴様がこの名前の意味を知る必要はない。貴様ら二人は、ここで潰えるのだからな」

「そうかよ、なら全力で抗ってみせるしかねぇな!」


世界を救いたいノアと、恐らくは世界を滅ぼすために動いているデュランの所属する軍。


絶対に相容れることはない二つの存在が、明確に対立した瞬間だった。


神の使いと穿界軍の衝突が始まる───

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