第七十四話 チケット
そしてそれから時が流れて。
ある休日。
ドシン──……という衝撃。
僕は〝戦猫覚の閃技〟の1%を扱えるように昨日の晩から訓練していた。
訓練場の外に出てみると、そこには巨人がいる。
頭に槍を突き刺したおおきなおおきな巨人。
「虚神兵団」
その巨人の内の三体が吹き飛んだ。見てみれば、ロジオさん。
彼はどうやら身構えていたらしい。
「大して強くないらしい……!」
拳を引き絞り、跳躍。瞬きの内に目の前に現れた巨人の顔面に拳を叩き込む。
「ジャリィ! まだまだ来るぞ! 気をつけろ」
「ウッス!」
巨人が素早くロジオさんを握る。
一瞬びっくりしたが……たぶん大丈夫だ。
「あれ僕にもやってくれよ」
目が合った巨人に殴りかかる。
腕でガードされたから、回し蹴りを叩き込んだ。
風圧に当てられた巨人は一斉に弾けた。
血肉は残らない。
「……弱すぎる」
「偉い。自分で気づけたかい」
「まだ序の口って事っすね。ウッス! がんばりまっす」
シモンがやってきた。
「危機感が湧かないんだけどどうすりゃいいんすかね」
「馬鹿にすればいい。自分をラスボスだと思い込んでいるマヌケが、『ラスボスしかしてはいけない事』をやってるんだからね」
つぎつぎに巨人が現れる。
巨人の次に、なにか壁画にあるような天使の羽衣を纏った人間が次々に現れはじめた。瞬きをする間に。
「あれ一人一人が君から見てロンギヌスくらいの強さ……の、だいたい3000倍くらいの強さだ」
「…………」
さすがに緊張感がある。戦う。戦える? ロンギヌスよりも強いのに。
いや、大丈夫。いまの僕には〝戦猫覚の閃技〟がある。
まだ1%もまともに扱えないけれど、使えるには使える。
「スーパーハッピーワールド……我々の領域を人はそう言うね」
悪神の軍勢の中のひとりが言う。
「スーパーハッピーワールドって結局なんなんすか」
「君達の言葉で言うなら理想郷だ」
「理想郷っすか。いいっすね」
「個の意識を排除し、肉体の物理性を捨て、限りなく無垢に近い肉体になった。我々の領域はスーパーハッピーワールドと呼ばれているらしいが」
「肉体の物理性を捨てて限りなく無垢に近い肉体になった? つまりどういうこと?」
「君の世界でいえば死だ。君達はこんなことをしなくともスーパーハッピーワールドに行けるというのに。ロンギヌスとやらはなにがしたい」
「それ僕たちも思ってるんです。気が合うかも?」
「ところで」
「ここを第4のスーパーハッピーワールドにしたいが、構わないな」
違和感ばかりだった。人と会話をしているという感覚が全く湧かない。
まるでこいつらは蟻でも見るように此方に語りかけてくる。
飼い主が飼い猫に話しかける感覚と近いんだろうか。
ああ、飼い主とペットの関係に近いのかな。
じゃあ価値観とかまるまる違っても違和感ないな。
でもさあ、なんだろうこいつら。
なんか違うんだよな。
なんか、理想的な敵過ぎるんだよな。
「お前ら、死にたがってないか」
「そんなことはない。そもそも我々に死などというものはない。それは無駄な物だ。とっくのとうに捨てている。君達もそうするといい。永遠の命、醜い争い。君達はあまりにも愚か過ぎる」
「この巨人はなんなんだ。弱すぎる」
「赤子だ」
「お前らのか?」
「いいや。君達のだ。生まれたての赤子をこの姿にかえてやった。小さな命はそれだけで不利になる。泣くこともなく、ただ生きればいい」
「イカレてんのか」
「何故そんなことを言うんだ」
ソレは当たり前のように言う。
「それが正解だろう」
「…………」
価値観の違いが俺達とこいつらにはあるんだよな。
じゃあしょうがねーよ。認識が違うんだもんよ。
しょうがねーけどさあ、なんかいやなんだよなぁ。
肉体の物理性をどーたらとか。限りなく無垢に近い肉体とか。
なんか自分を正当化できる理由を滔々と述べているけれど、違うだろ。
その対応は違うよなーって思うんだよなあ。
でも価値観とか認識が違うんだもんなあ。
でもさあ。
「郷に入っては郷に従えよ」
「犬猫になれと」
「おい」
「どうした?」
顔面を掴み、地面にたたき付ける。
「そこは『どうかなさいましたか』だよね」
「敵対か」
「マナーがなってないからさ」
「マナー?」
「格下が格上に、ずいぶん偉そうだよな」
光の槍が一斉に此方に向けられる。
次の瞬間、その光の槍の大半が消えた。
ロジオさんが奴等の半数を殺したらしい。
「なんだ、気張って損した。あまり強くないのか」
「ロジオさん」
「ああ。見せてあげようか。力の差って奴を」
「ほざきおって人間風情が」
構えを取る。
「変」
ヘルメットが生成されて落ちて来るから、それを拾う。
「身」
被れば化身になる。
「聖人か……道理で……」
「いいから来いよ」




