第七十一話 彼について
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ナタナエルやトマスさんがツテや能力を使って、虚神兵団の対処法を調べてくれている間に、僕はロジオさんに戦い方を教わった。あらゆる生物の急所や、攻撃のデッキの数を増やした。あらゆる状況に対応できるように、身体を鍛える様に。
僕はロジオさんの教えるすべてを吸収した。
できないことはできることの延長で補う。
例えば僕はロジオさんの様な咄嗟の判断力に欠ける。
それは無論、【学習能力】第一段階のオート対応に任せる。
「俺の第一段階は恐ろしかったぜ」
ロジオさんは良く自慢した。いわく、望みそれが正しいと思ってさえいれば、それが事象として現れたのだそうだ。
ではそれを虚神兵団に使えばいいのではないか。
そうもいかないらしく、僕の気付きに首を横に振る。
「身体が衰えてきたんだ。あらゆることができなくなってきた。いちばん最初にできなくなったのがそれだ。どんだけ思い込んでも、弾丸は突き刺さるし、俺に攻撃した人間がひしゃげて吹き飛ぶことはない」
「なんでロジオさんだけ……」
「まぁ、それはわかってるよ」
「えっ」
彼は意外なことを言った。
「俺はやりすぎた。なにもかもを」
「やりすぎたって、なにを」
「いちばん大きいのは……前も言ったと思うけど、俺は食っちゃいけないものを食ってしまったんだなあ。地獄に落とされる様なものだ」
「それって、いったい」
ロジオさんはしばらく口を閉じてから。
「幼馴染の肉を食った。いまでも覚えてる。全部食えと言われた。骨と皮と髪以外。それ以外の内臓も腹の中の糞も、腹の中の………………まぁ、全部食わされた。だから……」
「命に嫌われている、と? でも、なんでそんな……」
「父が、そうしろと言ったんだ」
この人の父親は、ロンギヌスに操られていた。
そのせいで、残虐非道なことをした。
でも、したという事実には代わりはない。
「いちばん悪いのはロンギヌスだ。あいつはこの世界をめちゃくちゃにしたんだ。よくわからない思想の為にね……敵を見誤るなよ。ジャリィ。わかってくれるな?」
「はい。でも……」
ロジオさんはふざけているように見えて、実はかなり真面目な人間なんだ。
この前、校長先生にかけあって、別大陸のいろいろな新聞や文書の写しを見せてもらった。17歳から19歳にかけては大変なはしゃぎ様だったらしい。
どんな新聞紙にも、血みどろの中で笑っている彼の写真が映っていた。
いろいろな事件の渦中にいたらしい。
グレムス王国の王女が誘拐された事件。
1グラム150億円の高価な宝石の争奪戦。
バーリミン収容所の死刑囚25万人を全員残らず殺したり。
しかし、ある事件を境に、「ニューゴッド旅団」は方向性を変えた。
あらゆる新聞では誰一人として笑わない写真ばかり。
ロジオさんと対談したことのある心理学者はこう語る。
〝まるで憔悴しきっていて以前の彼の面影はどこにもない。
彼のユーモアはどこにもなく、彼の目には光がない。
彼の仲間は彼の変化に戸惑いを隠し切れていない。〟
その事件というのがマツエユウイチ殺人事件。




