第五十八話 ウォーターカッター
ギターを持った人と別れたあと、数学の授業を受けていると、空が暗くなった。途端に変わったものだから、教室は暗くなって、数学担当のウィーリーズ先生が電灯をつけるうちに教室に、十字の黒いフルフェイスのヘルメットを被った男。背中にギターを背負っている。
「ロジオさん! なにしてんですか! まずいですよ!」
「なちがまずいんすかね。とりあえず君も来い」
「なんですか? いったいなんですか」
「神が俺らを殺しに来たぞ」
えぇ……。
ひっつかまれて、外に出ると、確かにそこに悍ましい「何か」があった。
それは生きているらしくて、僕は恐怖を感じた。
「マスクを被れば、勝利は確実……わかるだろ?」
「何がですか。適当なこと言わないでくださいよ。じゃあたとえば」
「キレると口数が多くなるタイプなのはもうわかったから黙れ」
「すいません」
ヘルメットを被る。
赤い光が溢れ出すけどこれはいったいなんなの。
「じゃあ行くか」
ヘルメットからオーケストラのような音が一瞬溢れると第二段階の「肉体の最適化」による身体能力の強化。
「慣れてますけど、ロジオさんもしかして良く神と戦ってます?」
「いや……うーん、どうだったかな。1年に3回のペースで戦ってるかな?」
「ヤバ。神の子の転生がそんなことしていいんですか?」
「むしろ敵対して来る神は邪神だから殺していいって教会に言われたぞ」
教会こわ。ドン引きしていると、神が腕を伸ばして振るってきた。
空気が何か震えている。おそらく熱を纏っている。
神の腕をなんとか回避すると、一撃食らわせてやろうと踏み込んだ。
それより速く、赤のラインが二つ駆け抜けた。神がひしゃげて吹き飛ぶ。
「致命打にはならなかったな……うーむ……ジャリィ! お前の全力ぶつけたれ!」
「あんたの攻撃が通用しないなら僕じゃもう無理では!?」
「それもそうか。なんかねーかな決定打……うーん……」
考え込むロジオさんに怪異が拳をぶつける。
「あっぶねェ! あっぶねェ! あっぶねよ!」
「悪い……」
「ちょっとボーッとしすぎなんじゃないですか? ほんとに狂ったんじゃないですか?」
「…………らしいな……。ままええわ!」
金色の十字架が出現した。なんだか出来そうな気がしたから僕も出してみる。銀色だ。エネルギーの集合体。よく見てみれば、粒子が上下左右に動いているらしい。粒子……。うーん。
「フィリポくん、たしか【水流】のスキル持ってたよね」
「ああ、それが……?」
「ちょっと見せてくれないかな? 少しの間でいいから」
「いいけど……お前時々なんか変だよ……こんな状況で流暢な……」
「まぁいいじゃないの。いつも助かってるよ、フィリポ」
「うーーーん……」
学習した。【水流】はこれで扱えるようになった。使用可能回数は30回。
「あんまり多く使えないな……動き回られても困る……」
「拘束が必要か? なら任せろ」
十字架にはりつけになる神。なんか凄い見てはいけないような気になるな。
「それで何をするんだ?」
「いやまぁ……。あの、もしかして試してます?」
「まぁね。俺も長くないし」
「まだ若いでしょ」
「若い頃に食っちゃいけないもん食った所為であんまり命に好かれてないんだ。だから……3年後くらいには死んでる」
「なんか……嫌だなぁ」
十字架に腕を突っ込むと、粒子が当たってざらざらという感覚がある。十字架の先を神に向ける。
「ふむ。それで?」
「十字架の形状は僕の思いのまま……」
十字架のなかに細い道を作る。
「魔力で粒子を強化する」
十字架が赤く染まっていく。
「そして水流で──」
まあつまるところ、ウォーターカッターのようなものをしたかった。──……の、だけれども……どういう訳か気がつくと僕は吹っ飛んでいて教室の中でひっくり返っていた。
「どうでした?」
「成功だ。大穴開いてるよ。長いトンネルが出来てるさ」
「雪国ですか」
「は?」
「この星の国語力はおしまいだ」
立ち上がって、呼吸を整える。
「たんこぶ出来ちゃったかな……」
「怪我してもユダが治してくれるさ! ユダは凄いんだ! どんな傷でも治しくれる! 俺なんて一度バラバラになったのに、治ったんだ!」
「よかったですね……」
ヘルメットをおろきて、前髪を掻き上げる。
「まだありますか? 俺一度神に小便引っ掛けておきたかったす」
「やめとけよ」
「冒涜だってんすか? 信心深い人だったんだ、意外」
「いや、チンコ爛れて酷い目に遭うぞ」
やったことあるのか。
「それでもいいです。止めないでください。僕はやりたいことをやる。そんなこともできないんなら、ディスコで踊っても楽しくない」
「それもそうだな」
僕は、神に小便をした。




