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第五十五話 ではお見せしよう

 トロマイ一族は軍神の一族。

 戦に準して戦で死ぬ。それが最大の誉であるという教えがあった。

 兄も姉もそれを信じて突き進み、そして死んだ。

 トロマイ一族特有の弔い方があった。それは、皮を剥ぐというもの。

 私はいやだった。よく遊んでくれた兄の皮を剥ぐときも、よく子供のお洒落に付き合ってくれた姉の皮を剥ぐときも。私は死ぬほど泣いていやがった。

 いやがると、父は必ずと言っていい程、憎む目で私を殴った。

 まるで空中を舞う羽虫を鬱陶しいと思うように。


 私の顔にある傷痕は父に殴られて、当たり所が悪かったときに作った傷だった。詳しく言うと、痣が出来たところを「虐待を疑われるから」という理由で、私の自傷に見立てて、肌をズタズタにされた。胸のあたりを、ズタズタに。


 その傷を隠して生きなくてはいけない。

 その傷を隠して、誰にも見せることのないように生きなくてはいけない。


 ある日の事だった。入学して2ヶ月が過ぎた頃。

 更衣室で着替えていた頃だった。天井が抜けて二人のクラスメイトが落ちてきた。一人は顔面にタコをひっつけて壁をぶち破って走り去っていった。

 もう一人は、黒髪黒目で、木陰のような瞳を此方に向けたまま固まってしまっていた。しばらくすると怒り狂った3年生の声がして正気に戻る。

 私は哀れにも傷を見られてしまい、肝が凍りついて落ちるような気持ちだった。


 彼は走り去ろうとした。扉の取っ手に手をかけたところで此方を向いて言う。


「ダチへの温情ってことで進行方向は秘密で頼むっすよ! ダチ売らないでね~! 絶対! 頼むよ!」


 そのまま行こうとするから思わず止める。


「なに!」

「友達……?」

「そうですが!?」

「なんで!? こんな、ほら、ここに……私は醜い」

「うるさいっす~! もう行かせて!」

「友達!?」

「友達がそんな珍しい!? 僕切羽詰まるタイプなんで早く行きたいんすけど…………。…………。……っすよね! あのね、ほら!」


 彼は胸を見せた。そこにはバラのような形の傷痕があった。


「俺の両親ね、キモ宗教に魂売って。このバラは『神の子の証』だとかでつけられたんす。なんでだろ? まぁいいや。だから僕たち傷を持つ友達、キズダチなんす。これで十分でしょ。行っていい!?」


 彼は私の返答を待たないで行ってしまった。しばらくして3年生が来たから、彼の向かった先を偽った。



 …………。


 深い夜。今日はニューゴッド先生に魔力操作のコツを教われた。

 〝深狼覚の閃技〟を習得できた。索敵が出来るようになった。


 深い夜に、屋敷の前に立つ。この日のために【気配遮断】を習得しておいてよかった。まだ第一段階だけれど、夜なら細心の注意をはらえば気付かれる心配はないと思う。だから、ここに来た。


「殺してやる」


 父は兄と姉をこう言った。

 〝わざわざ死にに行くキチガイ〟と。

 兄と姉は死ぬ前に言っていた。

 〝誉は分かるし信じてる。だけれど、やっぱり、行きたくない〟と。

 兄と姉は父に無理矢理戦場に送られた。

 それなのに、父は、二人のなきがらをゴミを見る目で、侮蔑して、皮を剥いで、生ゴミの袋に捨てた。


 許さない。


 殺してやる。


 感情任せに父のもとへ向かった。

 父はナイフを突き立てる私をたしかに見ていた。

 私は首を掴まれて腹を蹴られた。嘔吐。


 どんなに憎んでも、どんなに軽蔑しても、どんなに怒っても。

 勝てない。どんなにこいつが悪でも、勝てない。


 父は子に情を持たない。私は何度も殴られた。何度も何度も殴られて、惨めになって、死にたいと思った。


 でも、死んでもいいと思った。

 あの夕暮れに、彼の瞳を見れたから。死んでもいいと。


「なんだ」


 父が叫んだ。私は目を見開いた。天井にヒビが入っていた。

 怒りに狂ったような赤い光が、ヒビの間から漏れて入ってくる。ヒビが最大まで広がると、袈裟をかけるように斜めに衝撃波が走り、壁と天井が消し飛んだ。

 赤い光が空から舞い降りた。赤い光に反射して、彼の瞳が此方を見た。


「感情薄弱みたいな顔の人間は、これだから嫌いなんだ」


 彼の声は震えている。倒れ込んでぼこぼこの私を見下ろして。


「テメェが何をしたいのかとか、何を考えているのかとか、まったくわからないから困るんだ。気持ちが悪いんだ……! これだから鉄人形は……!」


 父が何かを言おうと口を開くと、それに合わせて彼が床を踏んだ。黙らせた。ただの地団駄で、父が黙った。


「実の娘を頭にひびが入るくらい殴る奴があるか……! 精神に病名でも付いてンのかボケナス野郎……!」

「なんだ貴様は」

「君もだよ、ナタナエル……! ナタナエル! いいか、ナタナエル! 憎いとか……!! 苦しいとか、そういう感情を!! 死んでもいい理由にするなよ!! 生きたい癖にバカヤロー! 全部、僕が殴ってやるから! そこで見てろ! 僕の! 変身!」


 フルフェイスのヘルメット。それを被って赤の光。


「貴様はいったいなんなんだ……! いきなりあらわれて感情のまま説教をかましてきやがって……キチガイかぁ!?」

「愛」

「あ?」

「僕は……愛知らぬ貴様の敵。愛する君の味方。化身(メシア)2号」


 月の光が射した。


「では、お見せしよう」


 ただ一発。「スパン!」と気持ちのいい音がなって、身体を起こして見てみれば、彼の拳が父の顔面に少し埋まっていて。


 瞬きをすれば。


「テメェが築いたもん! テメェが傷つけたもん! テメェが培った自尊心! テメェの拳の何十発! ぜんぶ僕の……! 1発以下……!」


 彼が叫ぶ。


「バッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッカじゃねぇの!?」

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