第五十四話 行かざるを咲くべきか竹の山
とんでもない言葉を残して、ロジオさんは去っていった。
ロジオさんの背中を見送ってから、しばらくぼーっとしていると、背の高い少女がやってきた。狼のような眼差しの強い少女だ。
少女の名はナタナエル。ナタナエル・H・バル・トロマイ。
ここらへんの領地を仕切る地主……つまり領主の娘。
つまるところ貴族のお嬢様だ。
「トロマイさん、いったいどうしたの?」
「ニューゴッド先生と一緒にいたろう」
トロマイ一族の軍服のような服を着ていて、まるで軍人のような面持ちをしていて、姿勢まで正しいから、どこかの軍の立場のある人だと思い込んでしまいそうになる。そんなことないのに。
「彼がどこに行ったかわからないか」
「多分職員室か部屋だと思うけど……どうだろう……ううん……とりあえず『職員室』『部屋』『食堂』か……それか『校長室』かな。どうだろう? 役に立ったかな」
「ありがとう。……シルクゴッド。魔力操作はできるようになったか」
「え? ああ、一応。でもまだまだだ。〝閃技〟に昇華できる程じゃない」
「そうか」
トロマイさんは僕をジィッと見つめる。
なんだ。急になんだ。なんなんだ。もしかして……〝敵〟か……!?
僕のことをジィッと見つめて来る奴なんてだいたいが敵なんだ。だからこの人もきっと敵だな。あーあ! なんだ敵かよ!
じゃあ僕この人の事一生信用しないようにします。
いつか一緒に冒険とかするかもしれないけれど。でもこの人のこと信用することなんてないと思いますねぇ! ないですないです。
「シルクゴッド」
「なんすか~?」
「卒業した後の就職先は……」
「冒険者に決まりすぎてるでしょ。わざわざそういう学校に入ったのに。冒険者にならない道とかなくないですか? むしろどこに入るかとか選択肢あるんすか? あるんだろうな、それしか道がないならそうなんだろうなーって。まぁ人それぞれじゃないっすか。あなた一々出会う度に進路相談してんですか? なんかちょっとばかし頭が高いっすね~。一学生として同じ立場にいるはずなのに先生面しててなんか嫌っす。もしかしてロジオさんの真似っすか? あれっすね~。悪い男が大好きなんすね。もういっそ告白してみたらどうっすか?」
「君は悪い男なのか」
「は? 僕めちゃくちゃ善良な男ですけど……さっきの言葉が気に障りましたか?」
「私は善良な男が好きだ」
「そっすか。ロジオさんそんな善良じゃないから気をつけてね。あ、僕もう寝るんで今日はもう話しかけないでください。僕寝る前に誰かと会話したくないんで」
「そっか。悪い……」
トロマイが去っていった。なんだったんだろうあの人。
ちょっと変な雰囲気のある人だよな~。なんだか変な視線だった。ちょっと嫌な気分あるっすね。うーん、シモンいま暇かな~。
「行くかあ……」
友人の部屋に向かう。
「シモンいるー!? シモっち! おいシモ!」
「人を下ネタみたいに呼ぶなや」
「あ! シモ! いま暇~? 人の陰口言い合わねぇ?」
「最低のカスすぎる。でもいいぜ。楽しそう。誰の陰口?」
「トロマイさん」
すると、シモンは驚いたように言う。
「あの人めちゃくちゃいい人だろ! 非の打ち所がない感じの。ちょっと感情薄弱みたいな感じだけど笑うとめっちゃかわいいし」
「僕あの人が笑ってるところ見たことないけど。もしかして僕だけ? 嫌われてるの。マジィ? なんかショックだわ」
「お前も嫌いなんだろ」
「嫌いじゃないよ。信用はしないし好感度は二度と上がらないだけ」
「なんかキモ。陰キャすぎ。恥知れ?」
「恥は僕の辞書に載ってないからなぁ~」
「お前の辞書1ページくらいしかないだろ。裏表紙にでも書き込んどけ」
ちょっと辛辣なのがシモンのいいところだ。僕も遠慮をしなくても済むからだ。ロジオさんの粗暴なところも、そういう点ではありがたい。
僕は感情のわからない人間が、世界で一番、大嫌いだ。
「つかさ」
「ん?」
「あの人がお前を嫌う理由なくね?」
「あるんじゃね? ほらだって僕……さ?」
「陰キャだから?」
「チョアーッ! 直球に言われては泣いてしまいます!」




