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第三十八話 ブラシム

 ◆



 テルックのおかわりを2コ食い終わって甘い炭酸のジュースを飲んでいると、背の高い──俺ほどじゃねえけどね──男がこちらに近づいて来るのにトマスが気付いた。「敵意はない」「ブラシムだ」とこちらに行ってくるのは、おそらくブラシムの目的が俺で、さらにいえば決断を俺に任せるということなのだろう、と思う。


「やあ、ニューゴッドくん」

「あんたに名前教えたっけ?」

「こちらで調べさせてもらったよ」

「マジ? 探偵みてーな感じ? スゲー情報網っすね」


 ユダが此方に目配せをしている。


「君は恐らく回りくどい言い方を嫌うだろ」

「そうだなあ、回りくどい言い方されっとウダウダ言ってねーで言いたいこと言えボケって思うっす~」

「そうだろう」


 ユダが奥に詰めるから、ブラシムは俺の対面側に座った。続くようにしてアンデレっちがやってきた。どうやら客からブラシムの目撃情報を貰って、急いで来たらしかった。


「手っ取り早く言おう」

「頼むっすよ」

「君に戦争の手伝いをしてほしい」


 すとん、と心が落ちるような音がしたような気がした。んでもって自分でもびっくりするくらい人間を失望した。わら。こいつ死ねや。


「じゃあ俺は回りくどい言い方をしようかな」

「なんだい?」

「やっぱりお薬は妄想を抑える奴? それとも妄想を促進する奴? 格子越しに見る空って退屈しない? 病室って一人部屋? ……まぁ冗談はこのくらいにしておいて」


 愛銃〝青〟を突きつけて弾を放つ。弾丸はポヨンと跳ねてテーブルの上を転がった。


「本当に撃つのか」

「同系統の能力か」

「ああ。まんま同じ能力だろうね。同じなのは能力だけじゃない。君は昔の俺に似ているんだ。はしゃいで明るく元気な奴でいれば見捨てられないと思ってずっとそうしているけれど、本当は誰よりも迷いながら生きて来ている」

「は? 俺普段からあんまはしゃいでねーけど。だよね、トマスっち」

「何と言えばいいのでしょうねぇ……」

「トマス! やはり君はムライクラの国王護衛のトマスさんか! えにしだね」

「いま俺と会話してるでしょ」

「そうだったね」


 ブラシムは微笑む。


「言いたいことを順番に言うと変になるなあ。纏まってないけどそんまま言っていいか? 変だったら教えてな」

「わかったよ」

「お前は俺には似てないよ。お前、だって屑だ。この国ではなんだかでかい顔をして歩けているらしいが……お前、ムライクラ王国の人口知ってるか? 1億5000万。お前は『国家転覆』とやらでその殆どを殺した。8割だ」

「革命のためだった」

「ああ、話すな。お前、もう人殺してんだよ。普通の人間じゃない。……なんて言えば良いのかな。うーん……ぶっちゃけて言うとさ、お前って基本的に人の命を奪っておいていちいち軽いんだよな。ムライクラ王国ぶっつぶして革命家のつもりだったんだろうけど、お前の革命家ごっこに億死んでんだよな。それを悔いたことはないだろ? 悔いてる奴がのうのうと『戦争の手伝いをしてほしい』だなんて言うわけねーもん。喋るな。あとお前さ、うーん……俺バカだからわかんねぇんだけど、いい加減大人になれよ。革命家にも救世主にも向いてねーよ」

「君は、上から目線だなぁ」

「そうかなあ。まぁ、俺脳みそ正常だから異常な人にはそう見えるのかなあ」

「君は何かを知ってるのか」

「この国に強いられていた現実は知ってる。知ったうえで……普通の人間はまず最初に『よし、国を潰そう!』とは考えないんだよ?」

「だから何も変わらんのだ!」

「声がデケェよ。脳みそはちっせーのにな」

「俺の隣には人質になりうる人間がいる」


 そういうこと言うんだ。


「やめられるよな」


 と、言うと。急に窓ガラスがすべて割れ、ダイナーの天井が吹き飛び、そこにいた客──アンデレや我々以外──が耳から血を吹き出して気絶した。


「何をした!?」

「偶然だろ。うるせーな」

「偶然なものか。今のは【孤神の系譜】だ!」

「本筋に戻ろう」

「明確な攻撃だ」

「…………」

「敵対を選ぶか」


 ブラシムが拳銃を取り出した。


「大人になってくれブラシム……! ここは対話の場だ! この際本当に俺が【孤神の系譜】を持ってるかどうかは! 関係ない! 会話をしてくれ! 頼むから! お前が始めた対話をお前が勝手に此方に伝えないまま終えないでくれ! 会話をしてくれ! それすら出来ないなら……! 本当に頼むから出して来るな……! 最初から俺の前に面を……!」

「話を反らすな~」

「んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! そうだね! 話反らしちゃってごめん! ぼくが悪かったね! それでどこまでお話したっけ!?」

「ニューゴッド……」


 助けてくれって話。来てくれマシュー。頼むから来てくれ。助けてくれ。マシュー助けてくれ。本当に助けてくれ。俺を助けてくれ。なんか気色悪く見えてきた。本当につらいんだ。会話できない奴って本当に口喧嘩すら出来ない。もう学んだ。教訓は得たから。帰ってきてくれ。マシュー……。


「あ! いた! あんたら何私抜きに飯食ってんだよ!」


 マシュー登場。


「マシュー! お前はヒーローか何かか!?」

「キモ。なに。どうしたの?」

「俺頭つかれちゃって。あと頼んで良いかな? しばらく寝込みち」

「なにがどうした~る」

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