十二.絶望と充足(1/2)
「聞いたわよ、キルステン。あなた、ユリウス様からの縁談を断ったのですってね」
「……だったら何」
キルステンの目元が一段と険しくなった。どうやら事実らしい。
エレミヤは、その目に憎悪をますます滾らせながら言葉を続ける。
「その下等な血筋には過ぎたる栄誉を跳ね除けて、どういうつもりかと思えば…………まさか、かつて自分が助けた人間の男とよろしくやってるだなんてね。あまりにも人を虚仮にし過ぎではなくて?」
「はあ? 鉄火とはそんな」
「おだまり!!」
エレミヤは再び制御装置を取り出して息を吹き込むと、バージェスから男の子を受け取った。
「でも、それはもう良いわ。この通り制御装置が完成したのだから。屈辱に耐え忍ぶ日々は、もうお終い」
夕日を受けてぬらりと光るイカの腕を男の子の細い首に巻き付けると、自分の顔に引き寄せてニタリと笑う。
「キルステン、命の選択をなさい。私が子供の首を絞めるか、或いはあんたがその男の胸を貫くか。まあ、どちらに転んでも地球人との信頼関係が壊れるのは同じでしょうけど、私的には……ヒイッ!?」
エレミヤの頬を、俺が投げた電撃三叉槍が高速で掠った。
(隙だらけなんだよ、バーカ!!)
俺は一瞬にしてエレミヤとの距離を詰めると、渾身の右ストレートを顔面に向けてぶっ放したのだった。